偽りの熱
フローラが道を歩いていると、ロイドが石壁にもたれかかって待っていた。
「よお、お疲れさん。……ちょっとお茶でもしていかないか?」
その言い方は、まるで「当然の流れ」のようだった。
「え……いえ、あの……」
フローラは口ごもった。
けれど、ロイドの瞳には遠慮も強引さもなかった。
ただ、彼女が“自分の意思で選ぶ”ことを促すような視線だった。
「ま、無理には誘わねぇけど。俺は一人で行くさ。けどさ……」
ロイドはちらと横を向き、独り言のように呟く。
「レオンはしばらく外出してて寂しいだろ?それにパーティ―メンバーと親睦を深めるのは案外大事だったりするんだよな」
その言葉に、フローラの足が止まった。
レオンは次の遠征の買いだしのため3日は戻ってこない。それに寂しさを覚えていたのは確かだった。
「……少しだけ、なら」
「決まりだな」
ロイドは笑い、自然に歩き出す。
その背中に、フローラは一拍遅れて歩調を合わせた。
訪れたのは、街のはずれにある小さなカフェ。
決して豪華ではないが、暖かい灯りが揺れる落ち着いた店だった。
席に着くと、ロイドは店主と顔馴染みらしく、気さくに注文を済ませる。
「ここの飯が結構うまいんだ。酒もかなりいける」
「……ロイドさんって、意外とそういうとこ詳しいんですね」
「意外か?旨いもんの記憶だけは忘れねぇよ」
そんなやりとりを交わしながら、フローラは少しずつ緊張を解いていった。
料理が来るころには、二人の間には静かな空気が流れていた。
彼はワインの瓶を取り出し、グラスに注ぐ。
そして隠していた小瓶から透明な液体――媚薬を数滴、グラスに注ぐ前に混ぜる。
(これで、こいつは俺に惚れたと思い込む。簡単だ)
「レオンは忙しいだろ?こんな日は飲んでおけよ。な?」
フローラはグラスを受け取り、ぎこちなく微笑む。
「ありがとう……」
彼女は一口飲み、媚薬の効果に気づかぬまま、ほのかな甘さに唇を湿らせる。
やがて、彼女の頬がさらに紅潮し、瞳がわずかに潤む。
ロイドを見つめる目に、説明できない熱が混じる。
「ロイド……なんだか、あったかい気持ちになる……不思議……」 彼女の声は柔らかく、まるで彼に心を許すように響く。媚薬が、彼女の心に偽りの好意を植え付けていた。
ロイドはニヤリと笑い、彼女の肩に手を置く。
「おお、そりゃいいことだ。俺もお前見て、あったかくなってるぜ。」
「(この反応、完璧だ。こいつ、俺に落ちたも同然だ) 」
彼の目は、フローラの唇、首筋、胸元を舐めるように動き、欲望が隠しきれずにギラつく。
「なあ、フローラ、ゆっくり話そうぜ。俺とお前だけでな?」
「....うん」
2人はそのまま離れの部屋へと移動していった。
個室に連れ込まれたフローラはまだボーっとしていた。
「ロイド……なんだか、胸がドキドキする……」 彼女の声は甘く、まるで彼に心を開くように響く。
彼はフローラの腰を引き寄せ、顔を近づける
彼女の吐息が彼の頬に触れ、甘い香りが欲望をさらに煽る。
「ロイド……何……?」 フローラの声は震え、媚薬の熱に揺れながらも、胸の奥で違和感が警鐘を鳴らす。だが、ロイドは彼女の言葉を無視し唇を重ねる。
フローラは一瞬身を硬くし両手でロイドの胸を押すが力は弱い。
「んっ……ロイド、待って……!」
彼女の声はか細く、媚薬の霧に溺れながらも、レオンの顔が脳裏をよぎる。
「フローラ、お前、俺に惚れてるだろ? いいよな?」
彼の手は彼女の腰から背中へ滑り、強く抱き寄せる。
「(そうなの?私...ロイドが好きなのかな?)」
媚薬の効果もありフローラの瞳が揺れ動く。
寝室の闇が、フローラの葛藤とロイドの執着を飲み込む。
彼女の乱れた金の髪、涙に濡れた瞳、震える白い肌――すべてが、ロイドによって征服されていった。