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幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

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第66話:殺したはずの男

静まり返る私室に、紙をめくる音だけが響いていた。

ロイドは次々と似顔絵を拾い上げ、経歴の文字を追う。

一人ひとりの顔を睨みつけるように確認し、疑念をかすめる者を紙束の端に分けていく。


だが――

最後に手元へ残った一枚の似顔絵に、ロイドの目が止まった。

「……アッシュ」


そこに描かれたのは、青年の顔。だが、どこかに記憶の齟齬を覚える。

既視感と違和感が胸を掻き立て、冷たい汗が背を伝った。

経歴にはこう記されていた。

『料理人アッシュ。王都在住。経歴不明。レイナの推薦により採用。』


「経歴不明・・・」


ロイドは唇を噛み、資料をもう一度めくった。

出生、修行先。何一つまともに残されていない。

料理人としては異例の空白。


「……クク」


短い笑い声が、暗い部屋に落ちた。

怒りとも焦りともつかぬ、歪んだ笑み。


「正体を隠す者は、隠す理由がある……。ならば暴き出すだけだ」


ロイドは机上に散らばる似顔絵の束を睨みつけていたが、その中から一枚を抜き取り、隣に控えるフローラへと差し出した。


「……フローラ。お前も見ろ」


彼女はおとなしく受け取り、視線を紙へ落とした。

差し出された紙に描かれていたのは、晩餐会で料理を振る舞った料理人アッシュの顔。フローラは何気なく受け取り、視線を落とした。


次の瞬間――

胸の奥に、鋭い痛みが走った。


「……これは……」


紙に描かれた人物の輪郭。目の形、口元、僅かに伏せた表情。

それは、彼女が忘れるはずのない男の面影を強く映していた。


「どうした?」

ロイドの鋭い声が、彼女の思考を突き刺す。


「……レオン……」


小さな呟きが、唇から零れ落ちた。

自分でも驚くほど自然に、その名が出ていた。


だがフローラは次の瞬間、はっとして口を押さえる。


(……いま、私……何を……? どうしてこの名前を……)


ロイドのスキルによって、確かに記憶は塗り替えられているはずだった。

過去を思い出すことなどできないはずなのに似顔絵を見た瞬間、胸の奥底から忘れられない名前が突き上げてきた。


ロイドの目が細く光り、彼女を射抜く。

「……今、何と言った?」


フローラの心臓が跳ね上がる。

自分でも説明できない。だが確かにその名前を知っている。そう確信してしまった。


「い、いえ……! ただ……なぜかその名前が……」


必死に取り繕う声。

だが震える指先と蒼ざめた顔が、彼女の動揺を隠しきれなかった。


ロイドはしばし沈黙し、低く呟いた。

「……レオン、だと……?」


紙片を睨みつける瞳には、確かな苛立ちとごく僅かな恐怖が宿っていた。

ロイドは椅子からゆっくりと立ち上がり、窓辺に歩み寄った。

夜の王都を覆う帳の下、街灯の光がかすかに瞬いている。


(……レオン。忘れたさせたはずの名を、なぜ……)


自らのスキルによってすべてを奪い、消し去ったはずの男。

だが、その残滓がフローラの口から洩れるとは、想定すらしていなかった。


「……おかしいな」

ロイドは低く呟き、振り返る。

蒼白な顔で立ち尽くすフローラの瞳に、確かな恐怖と迷いが宿っていた。

それは支配が完全ではない証。


「フローラ」

名を呼ばれた瞬間、彼女の肩がびくりと揺れる。

「お前は、過去を思い出すことなどできないはずだ。だが今……その名を口にした」


「ち、違います……! ただ、ただの空耳で……」

必死に否定する言葉。だが震えは止まらない。


ロイドはゆっくりと歩み寄り、彼女の顎に指先をかけて持ち上げた。

「……ならば確かめる必要があるな」


瞳に宿る光がぎらりと揺れる。

支配のスキルを強く流し込み、フローラの心の奥底をさらに塗り替えようとした。


フローラの身体が小さく震えた。

その瞳に宿っていた微かな温もりの光――レオンの名を呼んだ残滓が、押し潰されるようにかき消されていく。


「……あ……」


掠れた声が漏れ、彼女の眼から静かに光が失われた。

瞬きひとつすらなく、ただ虚ろにロイドを映すだけの人形のような眼差し。


「そうだ、それでいい」

ロイドはゆっくりと指を離し、満足げに息を吐いた。

「過去など不要だ。お前に必要なのは、私の言葉だけ……」


ロイドは机上に残された似顔絵を見やり、再び歪んだ笑みを浮かべる。

「……こいつがレオンだと? ……だが、生きているはずがない」


ロイドは机上の似顔絵を睨みつけ、口元に歪んだ笑みを刻んだ。


「……正体を暴くには、こちらから仕掛けるのが早いな」


歪んだ笑みが深まる。

「そして罠にかかった瞬間、奴の正体を暴き、葬り去ればいい」


虚ろな瞳のフローラは、もはや何も言葉を発さない。

だが彼女の胸の奥底では、微かに温もりの記憶が燻り続けていた。

まるで消え残った火種のように、再び燃え上がる時を待ちながら。


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