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幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

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第64話:崩れる支配

王城・ロイド私室――


静けさの中に、ただ一つ苛立ちの音が響いていた。

机上の報告書が床に叩きつけられ、砕けたワイングラスの破片がカツンと跳ねる。


「……何故だ」


ロイドの顔には、今までにないほどの険しさが浮かんでいた。

報告書の冒頭には、王都広報塔によって発表された公文が綴られている。


『冒険者レオンの追放は、不正な記録操作による冤罪であったと判明――』


「冤罪だと? ……あの役立たずの料理人が?」


低く吐き捨てるような声が部屋にこだまする。


「とっくに魔獣の森でくたばっているはずだ。

死体も見つからず、連絡も途絶え……なのに今さら冤罪などと……」


怒りが喉奥を焦がす。

問題は、それだけではない。


この文書が《自分の耳に届く前に》――《王都全域に公表されていた》という事実。


「どういうことだ……? なぜ、誰も俺に報告を上げなかった?」


ギルド、広報塔、監査局、王城の事務官たち――

いずれも、自分の影響下にあるはずの機関だ。


それが一斉に沈黙を貫き、何の通達もなく情報を解禁した。

これは、偶然ではない。


(……スキルが、届いていない……?)


一瞬、胸に冷たいものが走る。

否。そんなはずはない。


自分のスキルは完璧なはずだ。

支配を受けた者は、自我を削ぎ、従順に従うはずだ。

記憶の奥まで干渉し、逆らう思考そのものを奪う――はずだった。


だが。


(晩餐会……あの時の違和感……ティアナとレイナの様子……)

(フローラも、ほんのわずかに揺れていた。あれは、偶然だったのか?)


ぐらりと、足元が揺らいだような錯覚に襲われる。


まさか……

まさか、本当に俺の支配が揺らいでいるのか?


ぞっとするような疑念が、脳裏をよぎる。

支配から解かれた者が動き出し、記録を暴き、名誉を回復させたとしたら……。

これは反撃の始まりに過ぎない。


ロイドは、思わず胸元に手をやった。

心臓の鼓動が、いつになく早い。


その瞬間――


「……チッ」


舌打ちとともに、ロイドは机を拳で叩きつけた。


「ふざけるな……何もかも、俺の掌の上にあるはずだった……!

誰だ……誰が綻びを生んだ……!」


怒気に満ちた視線が、王都の夜景を切り裂くように窓の外へと向けられる。

それは、絶対の支配者に初めて芽生えた恐れだった。


「それとも……国民すべてを支配するのは、流石に俺のスキルでも無理があったのか?」


ロイドは、低く呟く。

自らに問いかけるようなその声には、苛立ちと焦燥が滲んでいた。


「ならば……定期的に、かけ直せばいいだけの話だ」


支配が薄れようと、強制的に塗り替えればよい。

王の命令は絶対であり、スキルの力は揺るがぬと信じていた。

いや、信じ込もうとしていた。


しかし、彼はまだ気づいていなかった。

かつて、自らのスキルが異常なまでの影響力を誇っていた理由。

それは、自分の力だけではなかった。

影で補強されていたのだ。


料理人レオン。

すでに葬ったはずの男。

だが、その男の料理がスキルの能力を大幅に強化して助けていた。


今、その影響力は消えている。

それでもなお、ロイドはその事実に気づいていない。

自分の力が衰えているのではないかと、一瞬よぎった疑念すら、すぐに傲慢な確信がかき消してしまう。


「問題ない……再び王命をもって、すべてを制圧する。従わぬ者には……罰を」


ロイドの瞳が冷たく細められる。

支配が崩れかけていることを悟らせぬまま、再び上書きする。

だが、その背後では、静かに崩壊の兆しが広がり始めていた。


――そして数刻後。


控室の扉が叩かれ、騎士が静かに資料を差し出す。


「失礼いたします。ご命令の件、すべて整いました。

こちらが、晩餐会に出席していた全騎士の顔写と、その身元、経歴、所持スキルの記録です」


一冊の分厚い綴じ本と、数十枚の似顔絵が収められた封筒。

ロイドは何も言わず、それを手に取り、静かに目を通し始めた。


「カイル・ランバート。第一親衛隊所属。……」


「レスト・アスフィア。工作部出身、元諜報課……ふん、面白い経歴だな」


「料理人アッシュ。正体不明。――こいつは誰だ?」


手元で、料理を担当していた男の記録を読むロイドの目が、鋭く細められる。


「……報告では、名簿に記された者に不審な点はなしとあるが――

このアッシュなる男の記録、どこまで正確なのだ?」


騎士が硬直しつつ答える。


「……食材の調達経路や献立は記録通りでしたが、正規の登録はありません。

ただ、レイナ様の推薦であり、他の料理人たちからも特に異常な証言はありませんでした」


「レイナの推薦だと?・・・」


ロイドの声は低く、鋭く刺すようだった。


「他に不審な点は見当たりません。すべての記録と照合は完了しております」


ロイドは椅子にもたれ、静かに息を吐いた。


「……ならば、問題はない。そういうことにしておこう」


だが、その目は笑っていなかった。

頭では納得していても、心はざわついていた。


「全員、再調査だ。全員の経歴をすべて洗え。似顔絵も書いて俺に見せろ」


「はっ……!」


ロイドは椅子に深く背を預け、静かに目を閉じる。


「・・・何の問題もない。俺のスキルは無敵だ」


その呟きには、かつての余裕はなかった。

それは、追い詰められた者だけが持つ、確かな焦燥だった。

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