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幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

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第63話:罪からの解放

ギルド地下の書庫――

そこは関係者しか立ち入れない、厳重に封印された記録保管室だった。


エミリアは、かつて自分が扱っていた認証符を手に、慎重に扉を開ける。

古びた紙と革の匂いが立ち込める中、無数の帳簿や書簡の山を前に彼女は迷わず進んだ。


(……あの年、あの時期……追放者リスト、裁定記録……)


震える指先でページをめくり続ける。

そして、目に飛び込んできたのは――レオンの名。


■罪状:反逆・詐欺の容疑により、追放処分。

■裁定者:ロイド。

■証言者:記録なし

■審議:省略(上層部の緊急命令により即時実行)


(……やっぱり。記録が……改ざんされてる……!)

裏付けとなる監査官の記録には、手書きでこう記されていた。


『この処分には正式な議事録が存在せず、不自然な命令系統によるものと思われる』

『記録の改竄痕を発見、復元の余地あり。ロイドの個人による直接命令』


エミリアは全身を強張らせたまま、拳を強く握る。


(これが……証拠。レオンさんの無実を示す、確かな証拠!)


彼女は慎重にその写しをとり、封筒に封じると、即座に記録庫を後にした――。


数日後。

《リグゼリア王国》中央議会の監査報告会――


集まった議員たちの前で、一人の女性が証言台に立っていた。

艶やかな銀髪を束ね、ギルドの制服を身に纏った彼女――エミリアは、はっきりとした口調で語る。


「……これは、かつてギルドによって発令された追放処分命令の写しです。

そこには、審議記録も証人の署名も存在しない。さらに……記録には、改ざんの痕跡が残っていました」


場がざわめいた。


一部の議員は驚きの表情を浮かべ、他の者は顔をしかめる。

だが、王城直属の監査官が資料を確認すると、その場で静かに頷いた。


「本書類は確かに不正の可能性が高い。発行者の署名と記録部門の改竄痕跡が一致している。……すぐに調査委員会を立ち上げ、不正の全容を明らかにする必要があります」


会場の空気が一変する。

それまで軽んじられていたエミリアの証言が、突然、国家の中枢を揺るがす告発となった。


数時間後――


王都の《広報塔》に、緊急の布告が貼り出される。


『冒険者レオンに対する追放処分について』

王国ギルド本部における調査の結果、当処分には正式な裁定が存在せず、記録改ざんが行われていた可能性が極めて高いと判明。

当該処分は一時的に凍結され、名誉回復の手続きが開始される。


王都の人々は驚きと憤りを持ってその内容を見つめる。


「冤罪だったのか……」

「追放されたあの料理人、悪い事をしてしまったな。……」

「ギルドも信用できねぇな……」


「……じゃあ、本当に……無実だったのか?」

「俺たち、散々ひどいこと言ってたよな……」


近くで呟いた老職人に、隣の商人がうつむきながら応じる。


「何も確認しなかった。あのとき、皆が追放されたんだから何かやったに違いないって……勝手に決めつけた」


言葉の端々には、後悔と混乱がにじんでいた。


なぜ、あれほどまでに一人の人間を断罪してしまったのか?

確かめようともせず、群れに流されてしまったのか?


若い女性がぽつりと漏らす。


「……あの人、いつも笑ってたよね。子どもにも優しくて……何があっても怒鳴らなかった。それなのに……なんで信じなかったんだろ、私たち……」


その言葉に、誰も返せなかった。

しばらくして、静かな声が群衆の中から漏れる。


「……俺たちだって、見て見ぬふりをした共犯だ」


「あの人がどんな気持ちで王都を出たか、今さら考えても遅いかもしれないけど……

せめて、今度は――間違わないようにしなきゃな」


誰からともなく、そう呟きが洩れ、やがて群衆は静かに散っていく。


レオンの名誉は回復された。

だが、その背に投げつけた言葉、石、無関心――それらは人々の心に重く残り、

何が真実かを見抜く目を持つことの大切さを、王都全体に静かに刻みつけていた。


王都の広場から少し離れた、ギルドの食堂跡地――

かつてレオンが厨房を任されていたその店は、いまは扉を閉ざし、看板も外されていた。


その前に、いつしか人々が集まるようになっていた。

老騎士が、静かに口を開く。


「……思い出した。あの日、レオンは裁判もなしに魔獣の森へと追放されたと聞いた。あの場所は……生きて帰った者は、ほとんどいない」


「今も、生きてるのかな?」


若い職人の問いに、誰も答えられなかった。

だが――ひとりの少年が、手に持った小さな花束を、そっと扉の前に置いた。


「……また、ごはん、たべたいな……」

「レオンの作った、あのシチュー……すごく、あったかかったから」


そのつぶやきに、大人たちは言葉を飲んだ。

無関心を装い、冷笑し、遠ざけたはずの罪のない男が、いつの間にか多くの人の記憶に深く残っていた。


――そして、その多くが、今さらながらに気づいていたのだ。


温かさをくれたのは、あの男だった。

優しさを忘れかけたこの王都に、ほんの少しの誇りを与えてくれていたのは。

老女が祈るように、胸の前で手を組む。


「……どうか、生きていて。あんな場所に捨てられたなんて、あまりにも……」


彼女の言葉に呼応するように、次々と人々が頭を垂れていく。


「――無事でいてくれ、レオン」

「帰ってきてくれ」

「俺たちが……謝りたいんだ」


その祈りは、小さな波となって王都中に広がり始める。

それは、罪を自覚した人々が初めて紡いだ、心からの願いだった。


だが、誰も知らない。


――その男はすでに、魔獣の森を生き残り、この王都にて

誰かを救う戦いを始めていることを。


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