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幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

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第58話:晩餐会への誘い(ティアナ・レイナside)

王城の中庭にある花壇沿いの小道。


ティアナが歩いてくると、そこには剣の手入れをしていたレイナの姿があった。

銀の鎧の上着は脱がれ、薄衣をまとった姿はどこか柔らかく親しみを感じさせる。


「レイナ」


ティアナが声をかけると、レイナは振り返り、すぐに微笑んだ。


「姫様……いえ、ティアナ。久しぶりです。お声がけいただけるなんて」


「今日は、肩書きは抜きでお願いするわ。少しだけ……話したくて」


レイナは頷き、手入れしていた剣を鞘に戻す。


「ええ、構いません。ちょうど休憩しようと思っていたところです」


二人は中庭の片隅、藤棚の下に設けられた石のベンチに腰を下ろした。

しばしの沈黙のあと、ティアナがぽつりと呟く。


「レイナ……私、最近少し変なの。自分でも説明できないのよ」


レイナは目を伏せながら聞いていたが、口を挟まず、黙って待つ。


「ロイドのこと……以前は、ただ見ているだけで胸が満たされたのに。

今は、隣に誰かがいるだけで、こんなにも心がざわつく」


「……それは嫉妬ですか?」


「でも、それが私の本当の気持ちかどうかも分からないのよ。

好きって、こんなにも重かったかしら。私は……間違ってるのかもしれないって、ふと思ってしまうの」


レイナは静かに息を吸い込み、柔らかな声で言った。


「なるほど。奇遇ですね

私も最近……自分の中の何かが、少しずつ戻ってくるような感覚があって」


ティアナが顔を上げ、驚いたように見つめた。


「戻ってくる……?」


「はい。まるで、霧の奥から、自分の声が聞こえるような――そんな感覚です」


ティアナの瞳が微かに揺れる。


「……私と似たような感覚だわ」


レイナは微笑むが、答えは返さなかった。ただそっと、彼女の手に手を添える。

ティアナの手に、そっと重なるレイナの手。

その温もりに、ティアナはほんの少しだけ、心を預けるように目を閉じた。


「……レイナ、あなたは強いのね。揺れたりしないんでしょう?」


そう問いかけたティアナに、レイナはかすかに首を振った。


「いいえ。私はあなたと同じです」


「え?」


ティアナが目を開けてレイナを見つめると、その瞳には確かな誠実さと、過去を悔いるような影が揺れていた。


「私も……ずっとロイドが正しいと信じてきました。

傍にいることが誇りで、仕えることが使命だと思っていた。けれど、ある時ふと気づいたんです。自分の選択だと思っていたことが、まるで誰かに思わされていたような――そんな奇妙な感覚に」


ティアナの胸に、微かに冷たい風が吹き抜ける。


「……それって……」


「今でも、はっきりとは言い切れません。けれど、私自身として何かを選びたいって思うようになったのは、あの料理を食べてから」


レイナの言葉に、ティアナは瞠目した。


「あの料理?」


「ええ。アッシュという料理人が作った料理よ。心が澄んだ気がしたの。味だけじゃない、思い出せない何かを取り戻すような、不思議な感覚で」


ティアナは、どこかで聞いたことのあるような、ないような――そんな記憶の靄を探るように黙り込む。


レイナは続けた。


「私は……あなたが今感じている迷いも、不安も、無駄なものだとは思わない。むしろ、本当のあなたがようやく目を覚まそうとしている証だと、そう思いたいんです」


ティアナは、ふっと息を吐いた。

涙ではない、ただ胸の内に溜まっていた重さが、少しだけ抜けたようだった。

レイナの言葉は、静かにティアナの心に波紋を広げ続けている。


(本当の私……)


それは今まで、一度も疑ったことのない忠誠の根底を揺さぶる言葉だった。

レイナが食べたという料理で何かを取り戻したと言うなら。

そして、自分にも似た感覚が生まれているのだとしたら――


ティアナはそっと視線を落とす。


(アッシュの料理……)


思い返せば、彼の作る料理は、城の一部で噂になっていた。


「元気が出る」「疲れが取れる」「心が軽くなる」


はじめは冗談半分に聞き流していた。

けれど、それが本当だとしたら――


(私も、食べてみたい。彼の……アッシュの料理を)


それは、王女としてでも、聖女としてでもなく。

ひとりの人間として、生まれて初めて芽生えた、心からの願いだった。


「……アッシュの店、私も行ってみたい」


そう告げたティアナに、レイナは一瞬だけ迷うような沈黙を挟み、ふっと微笑んだ。


「ちょうど、いい機会があります」


「え?」


ティアナが不思議そうに首をかしげると、レイナは立ち上がりながら静かに続けた。


「実は、数日後に騎士団の慰労晩餐会が予定されていて……その料理を、アッシュに依頼しているんです」


「晩餐会……?」


「ええ。騎士たちの労をねぎらう非公式な集まりですが、あなたが来ても問題はありません。むしろ……私としては、あなたにこそ来ていただきたいと思っていました」


ティアナの胸が、静かに高鳴る。

彼女は迷った末に、ゆっくりと頷いた。


「わかったわ。少しだけなら……顔を出してみる」


「ありがとうございます。必ず……後悔はさせません」


レイナの言葉に、ティアナはどこか安堵したような表情を浮かべた。

そうして、運命の糸はさらに一筋、確かに結ばれていく。


次にティアナがアッシュの料理に出会うとき、

支配と自由の境目が、ついに揺らぎ始める。


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