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幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

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第57話:心のほころび(ティアナside)

王都の貴族区、荘厳な宮廷の一室。


日差しの差し込む広い部屋の中で、ロイドはいつものように上機嫌で微笑んでいた。

その傍らに控えていたのは――フローラ。


繊細な装いに身を包んだ彼女が、静かにロイドのそばに立っている。

だが、その距離はあまりに近く、まるで特別を誇示するかのようだった。

その光景を少し離れた椅子から見ていたティアナは、明らかに不機嫌な表情を浮かべていた。


「……最近、あなた。フローラのことばかりね」


ロイドはその言葉にも笑みを崩さず軽く返す。


「気のせいだよ、ティアナ。彼女が少し体調を崩していたから、気を配っているだけだ」


「そう。私には、そうは見えないけれど?」


ティアナの声には、冷たい刺があった。

かつてならロイドのスキルは彼女の心の苛立ちすら緩やかに鎮めていたはずだった。けれど今、彼女の怒りは理不尽な嫉妬として収まることなく、静かに膨れ続けていた。


(……おかしい)


ティアナは自覚していた。


本来の自分なら、ロイドの些細な仕草や言葉だけで、心が満たされるはずだった。

どんなに優遇されなくても、選ばれているという確信に包まれていられた。

それが今は、ふとした違和感や、視線の揺れだけで苛立ちが湧く。


原因に気づきかけている者も、まだ無自覚な者もいた。

だが確実に、ロイドの支配に綻びが生まれていた。

ティアナは静かに立ち上がる。


「……気分が悪いわ。少し、席を外させてもらう」


「ティアナ?」


ロイドが声をかけたが、その言葉にも、もはやかつてのような絶対の力はない。

ティアナはそれに答えず、静かに扉をくぐった。

その背中には、わずかながら疑念が、確かに芽吹いていた。


――応接室。

高価な調度品が並ぶ中、ティアナは一人、窓辺に立っていた。

風に揺れるカーテンの向こう、空は晴れているというのに彼女の心は晴れなかった。


(……どうして、こんなに苛立つのかしら)


窓の外では、ロイドがフローラと談笑している。

微笑み、肩を貸し、何かを耳元で囁いて。

その様子は、まるで選ばれた者にだけ注がれる特別な光のようだった。


(私だって、彼に選ばれたはずなのに)


苛立ちと、わずかな胸の痛み。

だがその感情すら、ティアナは当然の感情だと思っていた。


(……嫉妬。私がこういう気持ちを抱くのは当然。だって私は、ロイドは私の夫で、忠誠を誓っているのだから)


ティアナはそう、自分に言い聞かせる。

だがそれは、本当に自分の意志だったのだろうか。

その疑問すら、心に浮かびかけた途端、何かにかき消されるような感覚が走る。


(……考えなくていいことを、考えた?)


思考の輪郭が、どこか曖昧にぼやけていく。

ティアナ自身は気づいていない。


ロイドのスキルは彼女にも及んでいた。

むしろ、フローラ以上に深く、長く、強く。


選ばれた王女としての自負。

それらに巧妙に絡め取る形で、スキルはティアナの思考をねじ曲げていた。


(……でも、なぜ。ロイドを見ていると、最近、胸がざわつく)


それはスキルの揺らぎ。

小さなきっかけが、スキルの均衡をそっと崩していた。

ティアナは静かにため息を吐いた。


胸の奥に居座る、名も知らぬもやもや。

ロイドの優しさも、フローラの無表情も、今の自分にはただ鈍く刺さるだけだった。


(……こんなの、私らしくない)


窓から視線を外す。


「……こんなときは、余計なことを考えるのが一番いけないわ」


そう呟いて、彼女は自分の頬を軽く叩いた。

考えるな。感じるな。

忠誠を捧げているはずの相手に、疑問を抱くなんておかしい。間違っている。


だからこそ。


「レイナ……」


思い浮かんだのは、あの頃から変わらない、穏やかで理知的な横顔だった。


(彼女なら、何も言わずに話を聞いてくれるかもしれない)


王女という立場上、そう簡単に弱音を吐くわけにはいかない。

けれどレイナは特別だった。王城に仕える騎士でありながら、私的な時間も共有できる数少ない相手。


ティアナはすっと立ち上がり、控えの侍女に声をかける。


「レイナを探して。たぶん近くにいるはず。伝えて、私が少し話したいって」


「かしこまりました、姫様」


侍女が去っていくのを見届けた後、ティアナは小さく息を吐く。


(グチでも何でも、吐き出せば少しは楽になる……はず)


だが、彼女の知らぬところで――

その、ささいな訪問が、やがて自らの覚醒への一歩となることを、ティアナはまだ知らなかった。

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