表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/58

第49話:王都に出店

レオンは慎重に鍋の蓋を開けた。

湯気の奥から、濃厚な香草と優しい甘みの混ざった香りが立ちのぼる。

鍋の中には、淡く輝く蒸気と共に煮込まれたバクルアのスープ。


「さあ、食べてくれ。これは精神系のスキル解除の効果がある料理だ」


「スキル……解除?」

ユナが眉を寄せた。


「そう。これまでは誰が影響を受けてるか、わからなかった。

 だから、解除の方法が確立するまでは仲間にも近づけなかったんんだ。俺の情報が洩れる危険があったからね」


二人はそろってスープを一口飲む。


「……うまい!」

ラースが短くそう言い、肩の力を抜いた。


「身体が軽い気がするが……俺は元々、スキルに縛られてなかったのかもしれないな」


レオンは頷き、ユナの様子を見る。

すると、彼女の手が僅かに震えていた。


「……な、に……これ……」


「ユナ?」

ラースが慌てて声をかける。


ユナは額に手を当て、目を見開いていた。

まるで、心の奥から何かが解けていくような――


「……っ、ああ……頭が……」


突然、ユナが膝をついた。

けれど、それは苦しみというよりも解放された安堵の反応だった。


「……そうか……私……。いつから……?」


レオンはそっと膝を折り、ユナの横に腰を下ろす。


「おそらく、王都で何かの場面で刻まれたんだろう。意識の奥に、命令や刷り込みのような何かが」


ユナは息を乱しながら、それでも震える声で呟いた。


「……『疑うな』……そんな言葉が、浮かんできた……誰の声でもない……でも……強制的に……怖くて……」


レオンとラースが目を見交わす。


「ユナ……それはもう君の中にはない。お前は今、自分の意志で立てる」


レオンは、そっと彼女の肩に手を置いた。


「スキルは解除された。君は、自由だよ」


ユナが、胸元に手をあてた。


「……この感じ……わかる。たしかに、誰かに誘導されたというより、自分で選んだような気がしてた。でも、それが選ばされた道だったとしたら……本当に怖いスキルね」


静寂を破るように、ラースが呟いた。


「……王都には、どれだけの人間がスキルにかかっているんだ?」


誰もすぐに答えられなかった。


ユナが伏し目がちに口を開く。


「王の演説……。確か、即位式の後に大広場で演説していたわよね」


レオンの手が、無意識に拳を握る。


「……あの時、スキルを使っていたとしたら――」


「街の者、騎士団、宮廷魔術師、貴族、商人、子どもから老人まで……聞いていた者すべてが影響を受けた可能性がある」


ユナの肩が小さく震える。


「演説の言葉が妙に説得力があったとか、反論する気が起きなかったって……みんな言ってた。普通ならただの騎士が王になるなんて反発が出そうなものなのに」


レオンは唇を噛んだ。


「……まさかとは思ってた。でも、今のユナを見て確信した。命令じゃない。誘導されていた」


彼の目が強い決意に変わる。


「ロイドは、王という立場を最大限に活用してる。

その声すら、スキルの媒介として利用していたとしたら――これは国家規模の洗脳だ」


ラースが低く呟く。


「……敵は、もはやロイド一人ではないってことか」


ユナが震える手を握りしめる。


「でも、私たちはもう自由よ。解除できる方法もある。あなたの手で……!」


レオンは深く頷いた。


「だから始める。王都に料理屋として店を出す。目覚めを届けるために」


静かな夜に、確かな意志だけが灯っていた。


それから数日後

王都の通りを少し外れた、裏通りの一角。

雑居区画の古い倉庫を改装したその店は、目立たないが妙に匂いだけが通りに漂っていた。

木の扉を開ければ、ほんのりと炭の香ばしさと、数種の香草の蒸気が出迎える。


「――『しずく亭』、これが俺たちの拠点だ」


レオンが静かに呟く。

カウンターは檜。調理場は炎の調整がしやすいように五つの釜を備え、奥には個室も用意された。密談にも使える構造になっている。

壁に掲げられた品書きは質素だが、一目でただの食堂ではないと分かる。


「……やりすぎじゃない?」とユナが呟いたが、ラースはにやりと笑った。


「本気の料理人ってのは、店の設計から勝負してるもんだろ」


厨房に立ったレオンは、食材の保存庫を確認しながら小さく頷く。


「ここで……準備を進める。名を売って料理の祭典に出る!」


オープン初日は目立たぬよう、知人にだけ伝える「仮開店」。

しかし、その夜。

ひとり、またひとりと噂を聞きつけた者が誘われるように、しずく亭を訪れ始める。


「なんか……不思議と足がこっちに向いたんだよな」


「最近ずっと気分が重くてさ……でも、この匂いをかいだら、ちょっと軽くなった気がする」


王都の片隅に、身体と心を軽くする料理屋がある

そんな噂が、静かに広がり始めていた。


レオンは、静かに火を見つめながら言う。


「これで、拠点は整った」


ユナが問いかける。


「けど……この王都には、ロイドの影響を受けてる人間が山ほどいるはず。

 一人ずつ解除していくの? それじゃ、あまりに手が足りないわ」


レオンは目を伏せ、そしてゆっくりと顔を上げた。


「解除するだけじゃ、追いつかない。だから、次は封じる。

 ロイドのスキルを無力化できる料理。その調理法を編み出す」


驚きに息を呑むユナをよそに、レオンは再び火を見つめる。


「次に作るのは、ただの食事じゃない。

 心スキルを鎮める封印の一皿だ。絶対に、完成させる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ