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幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

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第43話:かつての仲間の元へ

領主の執務室。窓の外には、夕陽に染まる街の屋根が見える。


「……例の討伐報告書、ですか?」


兵士が提出した文書を手に取ったノエルは、目を通すなり眉をひそめた。


「生存者全員確保……それも一人で、だと?」


「はい。小屋に潜伏していた盗賊団十数名、すべて無力化済み。命を奪わず、縛り上げ、報告の直前に我々が到着しました」


「……そのアッシュという冒険者、所属は?」


「ギルドには登録済み。だが素性は浅く、活動歴も乏しいため情報がほとんどありません。偽名という可能性もございます」


「なるほど……」


ノエルはしばし沈黙する。


(不審な点は多い。なのに……なぜか、妙に気にかかる)


戦果の内容、報告の整合性、戦闘跡の痕跡。

すべてが正しい。だが、どこか噛み合わない。

理屈では納得できるのに、本能が警鐘を鳴らしている。


「アッシュ……か」


彼が言い放ったという一言――


『料理人だからな。包丁と熱で足りた』


(普通なら、牽制や誇示として戦士だと答える。

 だが彼は、料理人と言った)


ノエルは無意識のうちに、自らの右手を握りしめていた。

かつて、自分が無価値と切り捨てた男のことを――ほんの少しだけ、思い出した。


(……まさか、とは思うが)


あの男――レオン。


同じように、無益な殺傷を避けていた。

戦いよりも食事に意味を見出していた。


(ありえない。そんな偶然は)


けれど、否定しきれない何かが心に残る。


「……そのアッシュという男、もう一度目通しを頼む」


「はっ。何か問題でも?」


「――まだ、わからない。だが……警戒はしておくに越したことはない」


合理を信じるノエルの胸に、初めて感情が入り込んだ瞬間だった。


それから翌日。


整えられた空間の中心に、アッシュ(レオン)は静かに座っていた。

前に進み出る者の足音が響くたび、彼女の視線は一層鋭さを増す。


「アッシュ。領主ノエル様より、功績に対する特別面会の指示がありました」


中へと入ってきた男――

それは、アッシュと名乗る冒険者。だが、ノエルの目は一瞬、細くなった。


(やはり……どこか、似ている)


足取り、姿勢、無駄のない所作――

それは、かつてのパーティーメンバー・レオンを彷彿とさせる。

彼は、軽く頭を下げ、穏やかに口を開いた。


「アッシュと申します。光栄です、領主様」


男の声は、落ち着いた低音だった。

丁寧で、滑らかな言葉遣い。

あの頃の、どこか拙く感情を隠しきれなかったレオンとは明らかに異なる。


(……声が違う)


ノエルは静かに目を細め、彼の顔を観察する。

綺麗に整った顔立ち。火傷の痕など、どこにも見当たらない。


(顔も――違う)


かつてのレオンの顔は、顔半分を覆うほどの重度の火傷痕に焼かれていた。

まともに見られないほど痛ましいもので、誰の記憶にも強く焼きついているはずだった。


(別人……か)


しかし、それでも何かが引っかかる。

所作、話し方、そして――料理という奇妙な共通点。


(まさか、とは思う。……だが)


ノエルは、理性ではなく直感が告げる気配に戸惑っていた。


「……功績も含め、今回の件での貢献は大きい。よって、領主として正式に褒美を与える」


レオンの瞳がわずかに動いた。


(来た……!)


ノエルは椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらに歩み寄る。

そのまま正面に立ち、淡い声で問うた。


「望むものはあるか、アッシュ?」


その声には不思議な重みがあった。

まるで表向きの褒美ではなく、本音を聞き出そうとしているかのような。


(答え方次第で、疑われるかもしれない……だが、引きすぎても不自然だ)


レオンは一拍置き、微笑をたたえながらこう言った。


「――では、もし可能であれば……領主様の膝下で、料理人として働かせていただけませんか?」


ノエルの目が、わずかに見開かれた。


「……この私の元で?」


「はい。領主のために尽くせるなら、本望です」


真摯な声、穏やかな笑み。

だがその裏で、レオンの心は冷静に計算していた。


(料理人としてなら、ノエルに日常的に接触できる。食事を通じて、スキルの解除や再検証が可能になる)


ノエルは、しばし無言だった。

だがやがて、静かに頷いた。


「……よかろう。厨房を含めた出入りを許可する。ただし、軍機に関わる区域への立ち入りは禁止とする。……それでいいな?」


「感謝します、領主様」


こうしてレオンは――

追放されたかつての仲間の膝下へ、堂々と潜り込んだ。


料理人として。

そして、真実を暴く者として。


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