表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/58

第40話:思いもよらぬ実験体

山賊たちをすべて縛り上げ、レオンはようやく腰を上げた。

小屋の外には、倒した男たちの身体を並べてまとめてある。


全員生きている。

できる限りの無力化で抑えた――料理人としての矜持だった。


「さて、ギルドに報告だな……」


荷をまとめ、足を踏み出そうとしたその時だった。


――カツン。


乾いた音が、森の奥から響いた。

複数の足音。重装歩兵のそれ。

鉄具の揺れる音が次第に近づいてくる。


(……この数、五、いや十以上)


木々の間から現れたのは紋章を掲げた騎士たち。

重騎兵を先頭に、後列には魔導師風の男も見える。

そして中央にいたのは、装飾のついた白銀の鎧を纏った男。


「――その場を動くな。貴様が、この山賊共を討った者か?」


鋭い声に、レオンは瞬時に警戒を強めた。


(……まずい、ギルドの依頼とは別の勢力か)


「そうだが……お前たちは?」


「我らは領主卿の命を受け、この廃村に潜伏する盗賊団の掃討に来た。

 貴様が討伐者であるなら、所属と身元を明かせ」


「……俺は、冒険者ギルドの依頼で来ただけだ。名はアッシュ。偽りはない」


「ふむ、アッシュか。……この状況を見る限り、確かに貴様が倒したのだろうな。

 しかし、その力量。……ただの冒険者にしては動きが良すぎる」


男が一歩前に出た。

その目は探るように細められ、視線はレオンの腰――武器へと注がれる。


「ひとつ、確認しておこう。熱による切断痕がある者がいる……貴様、魔術師か?」


「火は使った。……料理人だからな。包丁と熱で足りた」


軽く皮肉めいた笑みで返す。

男は眉をひそめたが、それ以上は詮索してこなかった。


「……いいだろう。だが、報告のため同行願おう。

 戦果の正確な確認、並びに残党の警戒が必要だ」


(逃げる理由はないが……警戒は必要か)


レオンは数秒沈黙し、やがて頷いた。


「……わかった。従おう」


こうしてレオンは、戦果を挙げた冒険者として騎士団とともに廃村をあとにした。


ギルドの一室。

騎士団の副将と受付が戦果の詳細をやり取りする中、レオンは壁際に黙って立っていた。


「討伐対象、すべて生存で確保済み。

 報酬と処遇は――新領主の判断に従えと?」


「その通りだ。既に通達は出ている。

 この街は、先月から新たな新領主および治安統括のノエル様を迎えている。彼女の命により山賊は即時掃討と厳罰が指示された」


――その名を聞いた瞬間。

レオンの心臓が一拍、強く脈打った。


(ノエル……?)


無口で、合理主義者で――

かつてのパーティーで、自分を追放すべきだと冷たく言い放ったあの女。


(あいつが……領主?)


そんなはずは――と思ったが、同時に納得する部分もあった。


「……そのノエルって奴、若いのか?」


レオンは問いを押し殺した声で投げた。


副将が横目でこちらを見て、小さくうなずく。


「二十代前半だな。若いが頭が切れる。……冷たいが、公正だ。

 忖度しないし無駄を嫌う――だが敵に回すには厄介だな」


(変わってない……)


あの冷徹な目。

「有用なら使う、不要なら切る」――

そう言って、誰よりも早くレオンの追放に賛成した女。


(……ノエル)


かつて自分を追放した者の一人。

冷静で合理的で非情なまでに感情を排した判断を下す女性だった。


今、そのノエルが――この地の新領主。


誰よりもロイドに近い立場にいて

そして、ロイドのスキルに影響されている可能性が高い人間。


レオンの胸の奥で、何かが冷たく、静かに動いた。


(――むしろ、好都合だ)


この瞬間、ノエルの存在は“貴重なサンプル”になり得る。


(もしあいつがロイドのスキルにかかっているとすれば――)


スキルの影響が見えるか。

その影響を目に見える形で打ち消せるか。

バクルアの抗体料理が、効果を示すかどうか。

“実証実験”として、これ以上の対象はいない。


そして、それを“料理によって打ち消せた”となれば――


(ロイドのスキルが絶対じゃないってことを、証明できる)


それは重要な切り札になる。


「……悪くない」


レオンは小さく呟いた。

敵のど真ん中に身を置く危険を感じつつも、心には妙な冷静さが宿っていた。


(まずは、ノエルに近づく方法を探る)


ギルドの戦果報告に加え、領主への貢献者として面会の機会があるかもしれない。

名は偽っているが、すでに実力は示した。


(対面の機会が与えられ――スキル解除の料理を食べさせれば)


言動に変化が生まれるか。

ノエルが、正気を取り戻すか。


それを確かめることで、レオンは確信を得る。


「……お前で確かめさせてもらうぞ、ノエル。俺の料理が、本当に人の心を救えるのか」


窓から差し込む西陽が、レオンの横顔を照らしていた。

その瞳には、迷いのない光が宿っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ