表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/46

笑顔の裏に牙を隠して

 癒しの光がゆっくりと引き、そこに現れたのは――まさに絶世の美少女だった。

 焼けただれていた肌は真珠のようななめらかさを取り戻し、金の髪は光を帯びてゆるやかに揺れる。

 頬にはほんのり血色が戻り、潤んだ瞳がそのまま宝石のように輝いていた。


「……フローラ……」

 レオンが、息をのむように呟いた。


 それを遠目で見ていたロイドだったが

 彼は口角を上げて舌で唇をなぞる。


「おいおい……マジかよ……」

 その視線はもうフローラに釘付けになっていた。

 胸元から腰、そして太ももへと、露骨にいやらしい目つきで舐め尽くしていた。


「(いやぁ、こりゃ……反則だろ。村一番どころか、王都でもそうはいねぇわ)」


 ロイドは口元に手をやりながら、ニヤリと笑った。


「なあ、フローラ。……こんなに綺麗になったんだ。もう少し見せてもいいんじゃねぇか? 軽装の方が動きやすいし、俺も……目の保養になる」


 その言い方には“見せろ”という要求と、“俺のために”という支配欲が混ざっていた。

 だが、フローラはそれを深くは読み取れず、ただ顔を赤らめて小さく笑った。


「ふふ……そんな風に言われるなんて、久しぶり……なんだか、照れるね」


 恥じらいながらも、まんざらではない様子だった。

 レオンにしか見せなかった微笑を、ロイドにも向けてしまっていることに――彼女自身、まだ気づいていなかった。


 ロイドはその笑顔を見て、口の中で呟く。


(クク……やっぱりな。女なんて、顔が整ってりゃ簡単に“特別”になれる)

(レオン? あんなツラの奴じゃもう無理だろ。今のフローラにあいつは似合わねぇ。こ


 ロイドはにやついた口元を隠そうともせず、ゆっくりとフローラに近づいた。

 そして、あくまで自然を装いながらも、肩に手を置く――いや、這わせるように触れる。

 その指先には、明らかに“所有したい”という欲望が滲んでいた。


「なあ、今度さ……二人で街に出ねぇか? ちょっといいカフェ知っててさ。騎士団員しか行けない特別なとこなんだよ。俺が奢るからさ、気軽な感じでさ」


 言葉は軽やか、口調も陽気。だがその笑みに込められた“下心”は隠そうとすらしていなかった。

 視線はフローラの体を一通り眺めたあと、唇へとわざとらしく留まる。


「お前、今マジで見違えるくらい綺麗になったからさ……一緒に歩いたら、周囲の目が羨望に変わるだろうな~。いや、冗談じゃなくてさ?」


 軽くウィンクを飛ばしながら、ロイドはフローラの肩へそっと手を置いた。

 ただの軽いノリに見せかけて、その手はじわりと二の腕を撫でている。

 “偶然を装った接触”という名の執着が、そこにはあった。


 フローラは一瞬戸惑ったように視線を逸らしたが、拒絶はせず、ただぎこちなく笑みを返す。


「えっと……うん……考えておく、ね」


 それだけの反応でも、ロイドには十分だった。


 彼女の表情には、戸惑いと、どこか居心地の悪さが浮かんでいた。

 それでも――拒否の意志を示せないのは、自分が今“普通の女の子”として見られていることに、どこか 嬉しさを感じてしまっているからなのかもしれない。


 ロイドはその反応に満足げに笑った。

 確信していた。自分の手のひらの中に、ゆっくりと落ちてきている、と。


(やっぱりな。女ってのは、見た目が戻りゃ気持ちも上がる。今なら落とすのなんて簡単だ。あとは雰囲気とタイミング……その気にさせりゃ、こっちのもんだ)


 その思考が、表情にもにじみ出る。

 飢えた獣のような目で、フローラの横顔を見つめながら、指先をさらに滑らせていく。


 その様子を、少し離れた場所からレオンは静かに見ていた。

 視線は、フローラでもロイドの顔でもない。

 彼の“触れている指”にだけ、じっと、視線を注いでいた。


 表情は変わらない。怒りも、哀しみも、浮かんでいなかった。

 ただ、目の奥のどこかで、言葉にならない感情が、焼け焦げたように静かに渦巻いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ