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幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第2章

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第39話:山賊制圧

山賊のアジトにたどり着いたのは、日が傾きかけた頃だった。

かつて村だった場所は、今や朽ちかけた小屋と崩れた塀が点在するだけの無法地帯。

周囲の森には人の気配が薄く、ここが忘れられた地として利用されていることがわかった。


レオンは低木の影に身を潜めながら、息を潜める。

耳を澄ませば、焚き火のはぜる音と、男たちの下卑た笑い声が聞こえた。


(五人……二人は見張り。三人は小屋の中)


それを感じ取るように把握していた。

《嗅覚強化》。調理のために鍛えた、香気と空気の流れから人の位置を探る技術。

本来は素材の鮮度を見抜くためのものだったが、今では戦場の“目”になっていた。


(まずは、音を立てずに外を――)


レオンは静かに腰を落とし、風下を選んで見張りの一人に接近する。

敵の背後に立つと同時に、手にした小型ナイフで食材を扱う時と同じように神経を切断した。


一瞬で気を失わせる。致命傷ではなく、意識だけを奪う技。


(料理人の手は、人を殺すためのものじゃない。……でも、倒すためには十分だ)


気絶した男の体を木の陰に引きずり隠し、次の見張りにも同じ手順で対処する。

そして――残る三人。

彼らは小屋の中。油断しきった声で酒を酌み交わしていた。


レオンは腰の革袋から、調合しておいた煙玉を取り出す。

素材は山の香草と、精神への影響を与える微量の成分が、敵の警戒心を一時的に鈍らせる。


煙が小屋に忍び込み、咳き込む声が上がる。


「なんだ……煙か? 火事でも――」


その瞬間、小屋の扉が開き、レオンが飛び込んだ。


「誰だお前! ――ぐっ!?」


最も近くにいた男の腹に、レオンの膝が突き刺さる。

そのまま倒れた男の手から武器が滑り落ちた。


「こいつ……何者だ!」


斧を構えた男が飛びかかる。

だが、レオンは一歩、踏み込む。

攻撃の軌道を読み――斧の根本に手刀を打ち込んだ。


力の流れが崩れる。

そして、カウンター。顎を打ち抜き、男は沈む。


最後の一人。

元兵らしき男が長剣を抜き、間合いを詰めてくる。


(動きが違う……)


この男だけは戦い慣れている。

それでも――レオンは目を逸らさない。


(距離感……呼吸……攻めの癖)


すべてが見える。

料理人として長年鍛えた観察眼。

筋肉の繊維の流れ、骨の位置――

それと同じように、この男の体の使い方が読めるのだ。


「なに……っ!?」


レオンの刃が、男の剣の死角から滑り込み、手首を弾いた。


「くっ、くそっ……!」


抵抗する前に、背後からレオンの肘打ちが決まる。

数秒後、小屋の中には倒れ伏した山賊たちと、ただ一人立つレオンの姿だけが残っていた。


肩で息をしながらも、レオンは静かにナイフを収める。


(……殺さずに、全員制圧。いける。俺の力は、人にも通じる)


恐怖もあった。迷いもあった。

だが、それでも彼は戦えた。


「……終わりだな」


レオンは、元兵の男の手首を縄で縛りながら、ふっと息を吐いた。

小屋の中には、気絶または降伏した山賊たちの姿が転がっている。

血の匂いはない。誰も殺していない。

ギリギリの均衡の中で、彼は“人を制する力”を証明してみせた。


だが――。


その静寂を破るように、外から地を踏みしめる足音が響いた。


(……誰か、来る!?)


レオンは瞬時に立ち上がり、隙間から外を窺う。


見えたのは、二人の男。

一人は大型の片手斧を担ぎ、もう一人は弓を背負っていた。

どちらも汚れた外套に、腰には剣。

目付きも、戦い慣れた者のそれだ。


「おい!? 中の奴ら、どうした!? 応答しろ!」


声が上がった。

レオンは扉の脇へと身を伏せた。


(時間はない。……斧の男が突っ込んでくる)


予想通り、小屋の扉が激しく蹴破られる。


「おらぁッ!」


突入してきた男の第一撃は、大振りの斬撃。

レオンは床を転がるようにして間合いを外し、斧の軌道の“終点”に合わせて飛び込んだ。


「なっ……ぐっ!!」


手の甲に一撃を叩き込み、斧を落とさせる。

反射的に振るわれた拳を受け流し体勢を崩させる

そこに、膝蹴りを鳩尾に深く刺さる。


崩れ落ちた男を踏み越えると、もう一人――弓の男が既に構えていた。


(速い……だが)


レオンは懐から、小さな金属製の“調味粉ケース”を取り出し――弓の男に向かって投げた。


「なっ、目潰しか!?」


粉塵が視界を覆う。

その瞬間、レオンは壁を蹴って男の背後へ回り込む。


「――熱包丁!」


一瞬。

レオンの右手が、赤熱したように光を帯びる。

料理の焼き切り技術を応用した、精密かつ高温の一閃。


腕を横に薙ぐと男の武器ごと、その腕が焦げ落ちるように断たれた。


「がああああああああっ!!」


男が絶叫し、地面をのたうつ。


焼かれた部分には一切の出血がない。

筋肉も神経も、熱によって瞬時に“封じられた”からだ。

レオンは、手を震わせながら男の顔を見下ろした。


(……これは、“殺すための力”だ)


料理の延長として編み出したスキル。

熱の操作と刃物制御による精密な一撃。

本来は骨ごと食材を切り出すために開発した応用技だった。


だがそれは――人間に使えば、容易に“命”を奪えるものでもあった。


「……止めを刺す気はない。お前の腕は使い物にならなくなった。それで十分だ」


そう言い捨てて、レオンはゆっくりと立ち上がる。


「これで、本当に終わりだな……」


小屋の中に転がる山賊たちを順に拘束していく。

実戦を経て、ようやくレオンは“人と戦える自分”を掴みかけていた。


だが、この先はもっと深く、もっと危険な相手と向き合わなければならない。

その時、自分は――どこまで、戦えるのか。

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