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第29話:情報を求めて

金貨袋を腰に下げ、レオンは人通りの多い大通りを抜け、裏通りへと足を向けた。


情報を得るには、表の世界よりも裏の世界に近い場所の方が手っ取り早い。

そしてこのアストリアにも、その手の情報を扱う者は当然存在していた。


レオンはフードを深く被り、静かに人の流れを見つめていた。

目指すのは、裏の情報屋に通じる者

正面から尋ねても教えてもらえるはずがない。だが、金があれば話は別だ。


「……あいつだな」


(……必要なのは観察力。他の人間と違う匂いを感じとればいい)


口数の少ない露店の男。串焼きを焼く手は無駄がない。

レオンは静かに、袋から銀貨を五枚、屋台のカウンターに置いた。


「……情報を買いたい。『話せる相手』の居場所を知りたい」


男の手が止まり、焼けた肉の香ばしい匂いが一瞬、風に流れた。


「客か? 紹介は?」


「ない。その分、金は多めにに払う」


レオンは、ためらいなく金貨三枚を積んだ。


男の目がわずかに見開かれた。

金貨を急いで胸元に滑り込ませる。


「……いいだろう。案内してやる」


そう言って店のすぐ近くにある地下室へと潜っていく

そして重い扉が音を立てて開いた。


薄暗い部屋の奥には、静かに煙草をふかす中年の男が一人いた。


「新顔だな。どんな情報が欲しいんだ?」


「聞きたいのは――王都にいるロイドという男についてだ。王都で冒険者でありながら騎士でもある男だ」


ダルマスが興味深そうに目を細めた。


「……ほう、ロイドね。王の娘と婚約しちまってるって噂の色男か。なんだ、あいつに恨みでも?」


「余計な詮索はいらない。欲しいのは、あの男の情報だ。それと――奴のパーティーメンバーの動向も」


そう言って、レオンは音も立てずに金貨を十枚、卓上に並べた。


「ほう……気前のいいことで」


情報屋が目を細め、ニヤリと笑う。


レオンは淡々と続けた。


「それと奴に恨みを持っている者がいれば教えてくれ。僕だけじゃないはずだ。あいつに大事なものを奪われた奴は」


その言葉に、情報屋の顔が変わる。


「……へぇ。いいじゃねぇか。そういう話、嫌いじゃねぇよ」


情報屋は笑った。その笑いは、長年裏稼業に身を置いた者のものだった。


「だったら、一人だけ心当たりがある。大事な女を盗られたって怒ってる元騎士がな」


「名前は?」


「ラース。昔は優秀な前衛だったらしいが、今じゃ飲んだくれてやがる。この街の酒場に行けば会えるだろうよ」


レオンは金貨を一枚、静かに机の上に置く。


「……助かった」


「礼には及ばねぇよ。復讐ってのは、何より面白い見世物だからな」


レオンは無言でその場を去る。

背後ではリュミエルが囁く。


「好きな女性を奪われた人”……レオンと同じような苦しみを知る者に会うことになるんだね」


「……ああ。そうだな」


レオンはフードを深く被り、目的の酒場へと足を向けた。

通りの外れ、小さな広場に面した建物。

看板は斜めに傾き、扉の蝶番は軋んでいる。

それでも、中からは酔客の喧騒と酒の臭いが流れ出ていた。


「ここか……」


扉を開けると、空気が一変する。

汗と煙草、安酒の混ざった重い空気が鼻をついた。


カウンターの隅、ひときわ荒れた雰囲気の男がいた。

乱れた髪にボロボロの服。

手には安物の酒瓶。

誰とも話さず、虚ろな目で一点を見つめている。


「……お前がラースか?」


レオンはその名を呟きながら歩み寄る。

ラースは動かない。が、レオンの影が射した瞬間、僅かに眉が動いた。


「なんだ……俺に何か用かよ」

低く濁った声だった。


「お前に訊きたいことがある。……ロイドのことだ」


その名が出た瞬間、ラースの指が止まる。


「……ここで、あのクソ野郎の名を聞くことになるはな」


ラースの目が、酒に沈んでいた男のそれではなくなる。

まるで、目の前に仇を見据えたような視線だった。


「話を聞いてくれるか?俺もロイドに大切なものを奪われた」


レオンがそう告げた瞬間、ラースは酒瓶を机に勢いよく置いた。


「聞かせろ、お前は、あいつに何をされた?」


レオンの瞳が静かに揺れる。


「大事な女性を……奪われた」


その一言にラースは一瞬だけ肩を震わせ――そして、荒く笑った。


「ははっ……そうか、お前もか。あの野郎はどこまでも腐ってやがる」


レオンは微かに頷いた。


「ラース。協力して欲しい。俺には一人でも仲間が必要だ。」


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