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幼馴染に捨てられた俺は、素材と恨みを喰って最強に至る  作者: 雷覇
第1章

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疲れた心(フローラ視点)

夕暮れの影が窓辺を染め、部屋の空気はひどく重たかった。


フローラは机に突っ伏すように座っていた。

目の下には隈があり、指先は乾き、唇に力がない。

レオンがいない現実が、彼女を少しずつ蝕んでいた。


そこへ、足音もなくロイドが現れる。


「ずいぶん疲れているな、フローラ」


「……ロイド……」


彼女は力なく顔を上げるが、その声には張りがない。

ロイドはゆったりと近づき、フローラの横に腰を下ろす。


「大丈夫か。“慰め”に来てやったよ」


ロイドは優しげに微笑んだ――その目に冷たさを湛えながら。


「ティアナとの婚約は、もう誰にも覆せない。

 王の病が深まり、王家は継承の準備を始めている。

 ……次の王は、俺になるだろう」


フローラの目がかすかに揺れた。


「そんな……あなたは騎士でしょう……?」


「騎士であり、王となる器だ。姫を娶り、軍を掌握し、貴族を従わせる。

 ――だからこそ、お前にも“居場所”を与えようと思っている」


ロイドの声が低く、穏やかに落ちてくる。


「フローラ。お前を側室として迎える。お前だけでなくパーティーメンバーは全員もだ」


フローラの唇が、かすかに震える。

そして彼女は――目を伏せたまま、何も答えられなかった。


かつてのように自由に笑うことも、泣くことも――

今の彼女には、どこか遠い昔の記憶のように感じられていた。


「……私は、そんなつもりでは……」


「君はもう、十分に傷ついている。

 誰かに決めてもらうことでしか、生きていけない場所まで来てしまった。

 だから俺が“選んでやる”。お前を救ってやる」


その言葉に、フローラは反論できなかった。


(・・・このままロイドに従えば楽に・・・だめ。私はまだレオンのことが・・・)


その考えを打ち消そうとしたが、手遅れだった。

ロイドがそっと、彼女の肩に手をかけ抱き寄せる。

フローラは動けなかった。拒もうとしても声にならなかった。


「忘れさせてやるよ」


「(……やめて)」


そう言いたかった。

けれど、そのたったひとことが、なぜか――出てこない。

口の中に重く沈んで、石のように動かない。


息を呑むことさえ、はばかられるような静寂。

フローラは目を閉じた。


そのとき――

ゆらゆらと揺れていた卓上のランプの火が、不意に、ふっと落ちた。

窓も閉じたまま、風などどこにもないのに。

部屋の灯りが、ゆっくりと消えていく。


――

張り詰めた沈黙の中、布が擦れるわずかな音だけが部屋を震わせた。

そこに微かに息遣いが混じった。

誰のものかは、すぐにわかった。

ゆっくりと、けれど確実に揺れる吐息が少し熱を帯びていく。


――

朝の光が、薄いカーテン越しに部屋を満たしていた。

静かで、あまりにも穏やかな朝。

床には脱ぎ捨てられた衣類。


フローラはベッドの中で体を丸めていた。

寒くもないのに、シーツを胸元まで引き寄せて――まるで、何かから身を隠すように。


背中越しに聞こえた足音が遠ざかっていく。

けれどそれでも、彼女は一歩も動けなかった。


「(夢なら、よかったのに)」


昨夜の記憶は、音も匂いも感触も、輪郭が曖昧になっているのに、

心だけは、鮮明に傷ついていた。


「必要とされたかっただけ」

「居場所がほしかっただけ」


そう心で繰り返しても、言い訳にならないことは分かっていた。

言葉が喉の奥に貼りついたまま、涙も出ない。

ただ、体の奥から冷たい何かがじわじわと広がっていく。


誰かに怒りを向けることすらできず、

唯一責める相手が、自分自身であることが――何より苦しかった。


布団の中、誰にも見えない場所で、フローラは小さく唇を噛んだ。


(……私はどうすればいいの?)



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