牢獄での会話
ノエルが書類の束を手に前に進み語り始める。
「レオン、偽書類は…完璧だ。ギルドも街も、お前の無実を信じない。だが、な…」
彼女はロイドの冷たい視線を感じ、言葉を切り続ける。
「正直、こうまでする必要があったのかって思う。ごめんレオン。私も…ロイドの計画に巻き込まれただけだ。」
その言葉は謝罪とは程遠いが、ノエルの声には微かな後悔が滲んでいた。レオンはノエルの目を見つめ、訴える。
「ノエル、君もわかってるはずだ。まだ間に合う。真実を話して!」
ノエルは一瞬唇を噛むが、すぐに首を振る。
「もう遅い。私はロイドにつく。だが…魔獣の森で、せめて生き延びてくれ。」
レイナが腕を組み、ノエルの後ろから口を開く。
彼女の声はいつもより柔らかく、どこか重い。
「レオン、私たちはロイドの計画に乗った。だがお前の料理は悪くなかった。嫌いじゃなかったよ。」
彼女は目を逸らし、続ける。
「お前をここまで追い込むのは、私の望みじゃなかった。悪いな、レオン。だが、近衛隊長の地位が約束されてる。もう後戻りはできん。」
レオンはレイナの言葉に一瞬驚くが、すぐに言う。
「レイナ、お前にはまだ良心が残ってる。フローラのためにも、真実を――」
レイナは手を上げてレオンの言葉を遮る。
「やめろ。私はロイドを選んだ。だが…森で死なないでくれ。それだけだ。」
ロイドはノエルとレイナの言葉に苛立ちを隠さず、鉄格子を叩く。
「二人とも、感傷はいい加減にしろ! レオン、フローラは俺のものだ。明日、魔獣の森に送られて、獣の餌になる。それがお前の運命だ。」
ティアナが冷たく笑う。
「レオン。あなたみたいな醜い男がパーティーなんてずっと嫌だったの。魔獣の森で、せいぜい吠えてなさい。」
レオンはロイドとティアナの言葉に怒りを覚える。彼は鎖を鳴らし、声を張り上げる。
「ロイドお前の嘘は必ず暴く! ティアナ、ノエル、レイナ、君たちもいつか後悔する!!」
ロイドは冷たく笑い、仲間たちに声をかける。
「俺はちょっとレオンと話があるからお前達もう帰りな」
ティアナが身をひるがえしながら嘲る。
「さようなら、レオン。あなたはここで終わりよ。」
ノエルは一瞬レオンを見つめ、目を逸らして立ち去る。
「…生き延びろよ、レオン。無駄かもしれないがな。」
レイナも小さく頷き、言葉を残す。
「森で死ぬな。それだけだ。」
三人の足音が遠ざかっていく。
残ったロイドは唇に下卑た冷笑を浮かべる。
「なあ、レオン、最後に教えてやるよ。 あのフローラが俺の腕の中でどんな甘い声を上げたか。」
ロイドは目を細め、わざとらしく唇を舐める。
「彼女の肌は柔らかくてよ、俺の手の下で震えてたぜ。お前が俺のお使いをしてる間にフローラは俺のものになった。ベッドで俺を求めて、喘ぎながら俺の名前を呼んだぜ。お前が夢見てた女はもう俺のモノになってたんだよ。ちょっと媚薬を使って小細工はしたがな。どうだ、腹が煮えくり返るだろ?」
レオンの怒りが爆発する。
鎖を握りしめ、立ち上がろうとするが、鎖の重さに体がよろける。歯を食いしばり、声を張り上げる。
「ロイド!なんて汚ない奴だ!! 彼女はお前なんかに渡さない!お前の嘘は必ず暴く!」
ロイドは低く笑い、鉄格子を叩く。
「真実? そんなもん、魔獣の森で吠えてろ。お前みたいな汚ねえ料理人は、獣の餌になるしかねえ。」
ロイドは鉄格子に背を向け、足音を響かせて去る。
「あばよ、レオン。明日の朝、衛兵がお前を魔獣の森に連れてく。お前そこで終わりだ。」
独房は静寂に包まれる。レオンは壁に寄りかかり、フローラの笑顔を思い出す。
彼女が火傷を癒してくれた時の感謝の笑顔、二人で過ごした温かな夜。
「僕は負けない...ずっと封印していようと思っていたスキルを使ってでも必ず生きて戻る。」




