最弱職の料理人
レオン
職業:料理人/年齢:18歳
幼き日に故郷を襲った火災で顔と声を焼かれ、家族を喪った少年。
料理一族に生まれながら、今は魔物を狩って“素材”を集める冒険者。
調理スキルを応用した精密なナイフさばきは、もはや戦闘技術の域。
表向きは最弱職だが、真の力を隠している。
フローラ
職業:魔法使い/年齢:18歳
レオンの幼馴染で、同じ火災で顔を焼かれた少女。
現在は補助魔法と攻撃魔法を担当するパーティの支柱的存在。
焼けただれた顔の奥に、かつて“村一番の美少女”と称された面影が眠る。
ロイド
職業:聖騎士/年齢:22歳
名門家系出身のエリート騎士。
レオンの職業を見下しており、しばしば皮肉を飛ばす。
料理人という“場違い”な存在に苛立ちを抱えつつ、スキルだけは評価。
本人は追放を強く望んでおり、周囲にもそれを正当化する空気を作ろうとする。
ノエル
職業:格闘家/年齢:19歳
レオンに対して敵意はないが、好意的でもない。
「スキルが有用なら利用すべき、なければ替えるべき」という合理主義者。
ティアナ・ルヴァリエ
職業:聖女/年齢:20歳
現国王の実の娘。
美醜に対する偏見が強く
レオンの外見・声を激しく嫌い、時に感情的な侮辱を口にする。
追放には常に積極的で、他メンバーにも共感を促す。
レイナ
職業:剣士/年齢:21歳
無口で実力主義な女性剣士。戦闘力は高いが感情を見せない。
レオンの実力や人柄には興味がなく、「戦力になるかどうか」だけを見ている。
追放の話が出ても肯定も否定もせず、「どうでもいい」という立場を取る。
「腕ある料理人は、皿で語るべきだ」
それが、レオンの信条だった。
料理とは、理屈ではなく“味”で心を動かすもの。力や技術をひけらかすのではなく、黙々と仕事を果たす──それが、彼にとっての誇りだった。
彼は冒険者としてもその姿勢を崩していない。
“料理人”というジョブは戦闘には不向きで、最弱と蔑まれる。けれど、レオンはそれでいいと思っている。誰かの役に立てるのなら、自分はそれで充分なのだ。
「……ごめん、少し騒がしくなっちゃったね」
洞窟の中で倒れたゴブリンを見下ろしながら、レオンはそっと汗をぬぐった。手には、調理に使う小型のナイフが握られている。その切っ先は鮮やかに、かつ穏やかに、獣の急所だけを正確に貫いていた。
「本当に……容赦ないというか、手際が良すぎるというか……」
ノエルが肩をすくめる。彼女の表情には驚きと、ほんのわずかな敬意が混ざっていた。
「……素材を傷めないように、解体するのが得意なんだ。料理人だからね」
レオンはそう言って、笑みとも言えない柔らかな口元をわずかに動かした。
「でも、たとえ魔物でも……相手が苦しまないように終わらせるようにはしてる。……僕は、痛みをよく知ってるから」
かつてレオンには、大好きな家族がいた。
だが、ある日──魔物が故郷を襲いすべてを奪っていった。
「……切り方は悪くない。処理が速いだけの男だと思ってたけどね」
「魔物を恨んでるのか?」
レイナが静かに問う。
「……分からない。ただ、あの日守れなかったぶん、今は誰かを守る側に立ちたくて。だから僕は戦ってるんだ」
倒れたゴブリンの身体が光に包まれ、銅貨となって転がった。
「……やっぱり下級の素材だったね。でも、無駄にはしない」
その言葉を聞きつけた聖騎士・ロイドが、皮肉を込めて笑う。
「ずいぶんご立派な口ぶりだが、やってることはゴブリン解体だ。なあ、最弱職の料理人さん?」
「ロイド、そこまで言わなくても……」
フローラが口を挟もうとするが、ロイドは続ける。
「とはいえ、素材の処理と料理のスキルは使える。お前が役立たずでなければ、とっくに追い出してるさ」
その直後、氷のような声が響いた。
「そうですね。料理の腕だけは確かね。
その醜い顔さえ見なければ、食欲も削がれずに済むのに――本当に、残念ですわ」
聖女・ティアナ・ルヴァリエの瞳は氷のように冷たく、レオンに突き刺さった。
レオンの顔には、かつての火災によって深い傷が刻まれている。
喉も焼かれたため、その声は低くくぐもり、人々に忌避されるほど異様だ。
それでも彼は、静かに首を横に振り、わずかにかすれた声で答えた。
「……ごめん。気分を害したのなら、謝るよ」
「レオン、そんなこと言わなくていい……あなたは、悪くなんかないから」
フローラがそっと彼の肩に手を置き、そばに立つ。その声は優しく、それでも微かに震えていた。
「ふふっ……ほんと、ぴったりね。傷物同士お似合いのカップルってところかしら」
ティアナの嘲りに、レオンは一度だけ、顔を上げ、まっすぐに彼女を見た。
その瞳には怒りも、憎しみもなかった。ただ――静かな決意があった。
「それでも僕たちは、人を思う心だけは失っていないよ」
「……あの火災さえなければ、フローラは誰よりも美しかった」
レオンは心からそう思っていた。
「だから僕は、あの日を繰り返さないために強くなる。
たとえ最弱の料理人職だろうと、誰かの命を支える力を──手に入れるために」




