前説:熱変性ユーモア
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まだ春も始まったばかりだというのに、鬱陶しいほどに屋上を照り付ける太陽が黒髪に吸収されていき、熱を籠らせた頭が目の前で起きた状況を処理しようと、さらに熱を上げて思考回路を唸らせている。
藤山葵。十五歳。身長は普通より少し高めで、体重は人よりも軽い自覚はある。
そしてなにより、これ以上の特徴を持ちえない自分が、恥ずかしくてたまらないということを常日頃から思っている。
高校の入学初日だというのに、そんな平凡を自覚している彼は今、高校生活最大の節目に立っていた。
その理由となる目の前の少女は、やかましく光る眼光から生命力を発散させて、煌めく白い歯をむき出しにし、唯一落ち着いた黒色のウルフカットをやかましく風に靡かせながら、彼女特有のやかましさに拍車をかけていた。
どうしてこの少女は、なんの変哲もない自分にここまで興味を持っているのか。いや、なんの変哲もないとは言っても、自分が少しだけ、ほんの少しだけ世界に対して、万華鏡のごとく目が回るような色眼鏡を掛けているのは承知しているのだが、それ以外にさしたる志も、将来の夢も、これといった特技も心躍る趣味も持っていない。
「ウチと、コンビ組まへんか!」
だというのに、なぜだろうか。なぜこの大阪訛りの少女は俺に、お笑いコンビを組んでくれと、頭を下げてまで頼んできているのだろうか。不思議でならないのだが、それよりもこんな自分を選ぶこと自体―
「いや、普通にセンス無いって。俺じゃなくても他にたくさんいるだろ?」
「それはあかん。ウチのアレに反応したんはあんたが初めてや」
初めてだとか言われても。そもそもお笑いは好きだけど、たぶんやるより見る方が好きだし、なにより見てきたからこそ分かる。テレビに出ているような芸人の高みへといくには、持って生まれた才能を磨き上げるしかない。
ただ、磨き上げたものがダイヤの原石であったなら良いのだが、残念ながら自分の持って生まれたセンスは、そんな煌びやかでも豪奢でも艶やかでもない。
「お生憎さま、俺は見る専なんだ。コンビを探すなら他を当たってほしい。それこそ全校生徒は一〇○○人以上もいるんだから、チャンスなんていくらでもあるんだし」
「ちゃうねん! ビビっと来たんや! これはもしかしたら初恋と一緒なんかもしれへん。今を逃したらあかん気がすんねん」
「俺みたいなのを捕まえたところでどうする気なんだよ」
「一緒に漫才しよや」
そう言って笑った彼女がひどく輝いて見えたのは、きっと春の柔風に乗せられた熱気のせいか。もしくは致死量の関西弁を浴びたせいで思考が鈍り、わずかな空気の変化に敏感になっていたせいかもしれない。
どちらにせよ、この後に取る行動なんて一つしかないのだ。
思えばずっと日陰者の人生を歩んできた。小学生のころから他人に流され、いやもっと前からだったような気もするけど。いつから他人に合わせることを覚えたのか、中学生のころには立派な『村人A』に成り下がっていた。
そんな鬱屈した自分を変えたいのであれば、この提案を、太陽の光を丸ごと反射するかのような瞳に乗せられた期待を、裏切るわけにはいかない。
「わかった。それじゃあ俺は帰るよ。別の人探せよ~」
俺は笑った。清々しいまでに満面の笑みを顔面に張り付けて、呆気に取られている彼女を放置して、後ろ手を振りながら屋上のドアへと歩みを進めていった。
「そうだ、気を付けて帰れよー」
唖然と、もしくは呆然としているはずの彼女の様子が気になって、そんなことを言いながら振り返り表情を確認して、ドアをくぐる。
これでいい。お笑いはやるより見るに限る。自分の中では完結した話だったから、他人にどうこう言われようが、その結論が変わることは無いのだ。
いま選択した自分の行動に後悔が無いと言ってしまったら、それは世界を覆し得るほどのウソになってしまうが、なによりも自分で驚いたのが、今の自分に自分を変えようとする気力が感じられなかったこと。
その事実が只々、自分のたくましいとも矮小ともつかないような、かと言って決して凡庸ではない胸中を締め付けていた。
ただ、少しだけ嬉しかったこともある。
屋上から出ていく直前、振り向きざまに確認した彼女の表情が、とても煌びやかだったこと。ただそれだけだ。
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