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第4話 「怒涛の誕生日」

ルルが居なくなった。


その事実に心がまだ追いつかない。

本当は、あのまま手を取って、この場から逃げるのが良かったのかもしれない。

それすれば、彼女は傷つくなんて事はなかったはずだ。でも、そうは出来なかった。

あの場では、ああする他なかった。

俺に力がないから。ルル1人も庇う事が出来ない。そんな自分に嫌気がさす。


1人落ち込み、暗い部屋で座り込む俺に人影が近づいてくる。


「エイル。大丈夫ですか?……大丈夫なはずありませんよね。ルルを助けれなかったのは、私の…私たちのせいでもあります。あなた達を守るのが私たちの役目なのに…何も出来ませんでした…。本当に申し訳ないです…」


彼女は深く頭を下げて、謝罪する。


「…シスターネルティのせいではないですよ。もちろん、シスターマルハのせいでも。これは僕自身の問題です。あまりお気になさらないでください」


今回の事は誰のせいでもない。

仕方がなかったと割り切るしかない。

それよりも大切なのは、彼女を、ルルをどうやって助けるかを考える事だ。


都市兵に連れられていった事を考えるに、彼女は恐らく、都市中心にある都市兵団が管理する拘置所にいるはずだ。


兎に角にも、まずは情報を集める必要がある。

最終目的は、ルルを助ける事。

その目的を達する為に今の自分に何が出来るだろうか。


思い詰める自分を見兼ねたのか、側で見守っていたネルティが口を開く。


「エイル。あなたはルルを助けたいのですよね?」


「…はい。ルルは僕の大切な幼馴染ですから。必ず助けます。このままにする気はありません」


強い眼差しを彼女に向ける。それは決意でもある。


「分かりました。私も同じ気持ちです。ルルを助けたい。あなたの力になる事を約束します」


「ありがとうございます。シスターネルティがいれば百万力ですね」


ふと微笑みが溢れる。


「でしたら、早速作戦会議をしましょう。現状ですが、ルルの罪が分かりません。それからですが…彼女がどこにいるのかも詳しくは分かりません。この都市の何処かにいるのは確実でしょうが…」


ネルティも同じ考えのようだ。

やはり、情報を集めるのは必須か。

情報は、町の方に出れば集めれそうだ。

定番は、酒場だろうが、この体では入るのは無理だろうな。


「情報を集めたいですね。ただ、僕だとあまり有益な情報は集めにくいかと思います。幼いというのを理由に、大人たちは情報を教えてくれない可能性が高いですから」


「うーん、確かにそうですね。情報が集まりやすい場所には、エイルはまだ入れないでしょうし…。分かりました。情報は基本的に私が集める事にします。その方が効率がよさそうです」


納得したような表情で、手をポンと叩く。

ネルティが情報を集めてくれるのであれば、正確な情報が集まりそうだ。


「分かりました、お願いします。ただ、無理はしないでください。自分の身を第一に、ですから」


「お気遣いありがとうございます。えっと…では、エイルの話になりますが…力をつける事を中心に行動するべきだと思います」


彼女はいつになく、真剣な表情だ。


「力ですか?それは、身体を鍛えるとか、そういうものでしょうか?」


「それもあります。あとは、やはり魔法を使えるようになるべきです。今のエイルでは、ルルの所へまでは辿り着く事が出来たとしても、助け出す事が出来ないでしょう」


正論だ。

今の俺では、彼女を本当の意味で助けるなんて事は出来ない。

彼女を助けるという事は、少なくとも都市兵たちと対峙する事になる。

そうでなくとも、いずれ誰かと対峙する事が必ずくる。

この世界は、前の世界とは秩序が異なる。

だからこそ、力をつけておく事は、決して無駄にはならない。

魔法に、剣術、体術は必須だな。


「誰かを助けたいのであれば、それ相応の力が必要ですから。私が魔法を徹底的にあなたにお教え致します」


「…はい…!」


強く頷き、顔をあげる。

ウジウジ考えていても、悩んでいても、時間は返ってこない。

それは前の世界でも同じだった。

現実は残酷に過ぎていく。

それでも、生きている以上、抗って抗って、抗い続けて、何度でも立ち上がって、向き合うしかない。それが人生で大切な事だと、知っているから。


「言い忘れていましたが、仲間を見つけておくといいですよ。孤児院の子達でも、町の人でも良いですから。1人だとどうしても大変ですからね」


彼女はそう言うと、スッと立ち上がり、夜ご飯の用意をすると言って、部屋を出ていった。







1人になった部屋で考える。


「仲間か…」


あてがないと言えば、嘘になる。

町には知り合いはいないが、孤児院となれば、そうともいかない。

全員が顔見知りのようなものだ。

とは言え、一癖も二癖もあるような奴らばかりだが…。


不安こそあるが、今は行動するのが第一。

俺は重くなった腰を上げ、ある部屋まで向かった。


軽くドアをノックし、ある人物の名を呼び、返事を待つ。


しばらくして、ドアがゆっくり開いた。

そこから覗かせた顔は今にも死にそうな表情で、ジロッと見つめてくる目が異様に恐ろしい。


「や、やぁ。今、時間大丈夫ですか?フェーレ」


フェーレと呼ばれた男は、無言のまま、部屋の中に帰ってしまう。

しかし、ドアは開いたまま。

入っても良いと言う事だろう。

俺は遠慮する事なく、部屋の中へ入っていった。


「……。単刀直入に言います、僕に力を貸して頂けないでしょうか?僕に出来る事はどんな事もしますので」


彼の部屋は、自分の部屋よりも暗かった。

カーテンが完全に外からの光を遮断している。

蝋燭もついていない。

目を凝らしてようやく見つけた椅子に腰をかけ、彼の方を向き話を続ける。


「知っているかは分からないですが、ルルが都市兵に連れて行かれました。僕は彼女を助けたいと考えています。そこで、君に知恵を借りたいのです」


彼は孤児院の中でも、群を抜いて頭が良い。

学力が高いというわけではなく、IQが高い、要は賢いのだ。

1人でいるところしか見た事がないが、彼の実力は確かに本物である。


「……僕に何をしろというんだ?」


それまで頑なに口を開かなかったフェーレが、ようやく話し始める。


「僕の仲間になってほしいのです。そして、ルルを助ける手段と方法を一緒に模索してほしいと思っています」


ネルティが言った通り、俺1人では限界がある。

今の自分では人1人助ける事もままならない。

でも、仲間がいれば話は変わってくる。


「…先ほど、何でもすると言っていたが、本当か?」


怪訝そうな様子でこちらを見つめる。


「はい。僕に出来る事であれば、何でもします。それは約束しますよ」


「そうか。じゃあ、仲間になってもいいぞ」


あっさりと了承を得れるとは思ってもいなかった。もう少し手間がかかるだろうと踏んでいた手前、僅かに呆気に取られる。

しかし、彼は言葉を続ける。


「ただし、先に僕の頼み事をこなしてからだ。それからだなこの話は」


彼は手に持っていた書物に目を落とし、黙り込んでしまった。

この条件を呑まない限り、話は平行線か。


「分かりました。頼み事をすれば、僕に力添えをして頂けるということでよろしいです


「そうだな。でも、いいのか?僕の頼み事はかなり面倒だぞ?」


書物への視線はそのままで、言葉だけが綴られる。


「大丈夫です。もう後には引けませんから。それで、頼み事の詳細を何ですか?」


フェーレは書物をゆっくり閉じると、後ろを振り返り、机の上に書物を置くと、そのままの姿勢で話し始めた。


「ある人を探している。名前は知らない」


「ある人ですか…」


彼の頼み事の内容はこうだ。

ある人物を探していて、その人物を探し出して欲しい。

その人の名前は知らないが、女性で、フェーレと同い年ぐらいの女の子。

フェーレは13歳なので、それぐらいの年齢層の子である。

彼女の特徴は、初雪のような真っ白な長髪と、それを結ぶ、魅せる紅い縦長のリボンを身につけている事。

そして、何よりも、年齢に似合わないような美貌の持ち主である事。


俺はあまりにも無茶な頼み事の内容に、呆気に取られていた。

そんな彼女をアルシャという大きな街中で、探し出すのは至難の業だ。

それは、砂場の中で砂金を見つけ出すようなもの。


フェーレは、恋している乙女のような表情を浮かべながら、彼女の話を続けていた。

その話に耐えられなくなった俺が、もう大丈夫という仕草をすると、彼は少し照れ、話を元に戻す。


「それで…いけそうか?彼女を探し出すのは」


「む、難しいかもしれませんが、出来る事はやってみます。明日にでも街中に出る予定でしたから、話を聞いたりしてみます」


「本当か!?頼む!もう一度、彼女と会いたいんだ!」


フェーレの彼女への想いはどうやら本物のようだ。


その後、軽く今後の話をして、俺は部屋を後にした。






フェーレの部屋を出て、自室に戻る途中で、シスターマルハに声をかけられた。


「エイル。今、時間よろしいですか?」


「シスターマルハ…。大丈夫です。何か用ですか?」


マルハは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

まるで、俺に何か悪い事をしてしまったかのような表情だ。

恐らく、ルルの事で後ろめたい気持ちがあるのだろう。

気にしてないと言えば、嘘になるが、あの時のマルハの行動は間違っていなかった。

あれが、最善の手だったと思っている。

しかし、マルハとしてはそうはいかないのかもしれない。

きっと、思う事の一つや二つはあるだろう。


俺は、自分は大丈夫であると、マルハに伝える。

すると、彼女は先ほどまでの表情から、いつもの表情に少しづつ変わっていった。


「エイルは本当に強いですね。シスターである私よりもよほど強い。その強さは、あなた自身の強みだと私は思います」


精神的な強さ。

それは、きっと、前世の記憶があるからだろう。

一周目の人生だったら、こんなに強くは居られない。

少し、ズルをしている気分になった。


「ありがとうございます。シスターたちのおかげです」


「私は、あなたを誇りに思います。きっと、他のシスター達も同じです。もし、困った事があれば、いつでも話して下さいね」


彼女は微笑みながら、温かい手で、俺の頭を優しく撫でてくる。

その温もりが、一層、ルルを助け出す決意を強くした。








その日の晩。


予定通り、俺の誕生日会が行われた。

そして、その場で、ルルの事がみんなに伝えられた。

少しの間、しんみりとした空気が流れたが、せっかくの誕生日会という事もあってか、徐々にその空気感は薄れていき、俺はみんなに誕生日を祝って貰った。


その終わり際、俺はネルティに呼び出された。


彼女に連れられ、外に出ると、空一面に星空が広がっていた。

月は無い。しかし、星がそこにはあって、光は反射している。

地球で見れた景色とは、また違った綺麗さがそこにはあった。


「…エイル。改めまして、6歳のお誕生日おめでとうございます。これをあなたに」


そう言って差し出したのは、古いペンダントだった。

暗くて見づらいが、全体が銀色で、透明なガラス玉のような物が真ん中に付いているのが特徴的だ。少しだけ錆びついているが、これが良い物であるのはすぐに分かった。


「ペンダント…ですか?」


「そうです。私の大切な物です」


「そんな大切な物は貰えませんよ」


「大切だからです。私のとって大切なエイルだからこそ、貰って欲しいのです。きっと、あなたを守ってくれます」


彼女はそう言って、無理にペンダントを俺の手に渡してくる。

仕方なく、それを受け取り、首にかける。


「似合ってますね」


「ありがとうございます」


微笑む彼女に、どこか妖麗さを感じる。

ふとした瞬間に消えてしまうような、そんな危うさと儚さ。


「さて明日から、ばんばんしごきますからね。エイルには魔法を覚えて貰わなければなりませんから」


座り込んでいた彼女は、スッと立ち上がり、お尻の方を手でサッと払い、入り口のドアに手をかける。


「明日から、お願いします。ネルティ師匠」


「師匠だなんて…照れてしまいますね」


一瞬複雑そうな様子を見せたが、そのままドアを開けて、部屋の中へと戻っていってしまった。


1人なった俺は、空を見上げながら、大きく深呼吸をしてから、みんなの待つ部屋の中へ帰っていった。

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