第3話 「私の気持ち」
私には、幼馴染がいる。
彼と出会ったのは、3歳の頃。独り身になった私を拾ってくれた孤児院で、彼と、エイルと出会った。
もうすぐで、3年が経つ。私は、彼に助けられてばかりだった。何かするにも、彼に聞いたり、彼の近くに常に居たり、多分、私は彼の事が好きで、大切で、その存在が全てなんだと、本気で思っている。
彼の気持ちは分からない、知りたいと思う反面、怖い。言葉を聞いたら、もう2度と立てなくなるかもしれない。怖くて、目をつぶって、耳を塞ぐ。そうすれば、傷つくことは無い。でも、それじゃ、何も変わらない。
だから、私は、一歩を踏み出そうとした。
けど、そんな決意は、簡単に崩れて落ちてしまった。
彼の幼馴染への想いを聞いてしまったから。
その想いは、きっと、私へのもの。
その後のことは、あまりよく覚えていない。その日食べたご飯が何だったかも、話した内容も、全部、何処かへいってしまった。それもこれも、彼のせい。
あんな直接、好きだなんて言われるとは思っていなかった。これはきっと動揺だ。そう言い聞かせて、胸をそっと撫で下ろす。しかし、胸の鼓動は高鳴り続けていた。鼓動が早まれば、早まるほど、身体が火照ていくのがわかった。
両片思い。
今の私たちの関係は、きっとそんな言葉で言い表す事が出来るようなものだろう。両思いになるのは、そんなに遠く無いかもしれない。
希望に満ち溢れていた。
この時までは。
袖を握る力が、より一層強くなる。私は、思わず力を入れてしまっていた。目の前にいる、大人達が怖い。
そっと触れるエイルの手の温もりだけが、私の心を落ち着かせてくれる。彼と離れ離れになるのが怖い。
「エイル…。私は…」
そう言いかけたところで、都市兵の1人の声が妨げてきた。
「早く、こちらにその子を引き渡しなさい。こちらの手を煩わせないでくれたまえ」
「嫌です。シスターマルハ。本当に良いのですか?彼らの言うとおりにすると言うのですか?」
エイルがすぐさまに反論をし始める。シスターマルハは、じっとこちらを見つめて、少し間をあけてから、口を開いた。
「私としては、そうしたくはありません。…しかし、現実はそう楽観的なものでは無いと言う事です。エイル、あなたの気持ちは分かります。私も同じです。しかし、今は、冷静に行動するべきかと思います。それは、シスターネルティ、あなたにも言える事です。いい加減、相手を睨むのをやめなさい。そうした所で、この状況は変わらないでしょう」
その言葉を聞いた、2人は、しばらく考える様子を見せる。
私はどうなるのだろうか。このまま、引き渡されるのだろうか?何もしていないのに?なんで?
助けてよ。誰か。私を助けてよ。ねぇ、お願いだから。助けてよ。
そんな願いは、虚しく、儚く、散っていった。
「分かりました…。ルル、すみません。ここは、シスターマルハの言うとおりにします」
「…エイル、、ううん、私が悪いの。だから、エイルは自分を責めないでね」
彼は悪くない。どうしようもないのだから、彼を責めるのは違う。そして、彼が彼自身を責めるのも違う。もちろん、シスター達のせいでもない。
「よし、ご協力感謝する。こちらに乗りなさい」
私は紐に括り付けられ、馬車の乗り台に乗せられた。
「彼女は…!ルルは、どうなるんですか!?」
エイルがそんな事を都市兵達に尋ねる。その表情は鬼気迫るものがあった。
「尋問ののち、然るべき対処が行われる予定だ。最悪の場合は殺されるだろうな。恐らく、そうなる事はないだろうが」
その言葉を聞いた、彼は下を向いて俯いてしまった。そんな彼の姿を最後に、私たちはバラバラになってしまった。
馬車に揺られながら、小さくなっていく、孤児院の方を見つめながら、私は微笑んでいた。少しだけ、風が冷たく感じた。
目的地に着いた、私は拘置所という名の牢屋でしばらく過ごす事になった。中には誰もいない。私だけの場所。孤独をより一層感じるが、知らない人と生活するよりはマシだ。
ご飯やトイレはあり、生きていく上で困る事はない。強いて言うならば、体を清める事が出来ないことぐらい。水ぐらい浴びたい。
部屋はあまり広くないが、1人で過ごすには丁度いい。何もないが、考え事をするには最適だ。
エイルは何をしているだろうか。もしかしたら、私のことを探しているかもしれない。助けに来てくれるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて、眠りにつく。
そう言えば、言えなかったな…
「……お誕生日おめでとう…エイル…」
小さく呟いた言葉は、誰の耳にも届く事なく消えていった。
10日ほど経った頃、私は拘置所を出る事になった。
ようやく、取り調べという名の、尋問が行われる。
私は無実である事を証明する。そうして、早く彼の所へ、あの場所へ帰る。そして言うんだ。笑顔で言うんだ。
ただいまって。
そんな決意を胸に、私は第1回目となる、尋問の場へ足を運んだ。
私にとって長い長い、地獄のような日々が始まった。