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第2話 「幼馴染は人見知り」


この世界の俺には、幼馴染がいる。


姉のようなシスターだけでは無く、幼馴染までいるなんでズルい!なんて思われそうだが、いるものは仕方ない。

恨むなら神を恨んでくれ。


そんな幼馴染の名前は、ルル・ラヴェンデル。

同い年という事もあって、よく話す。

少し、内気なところもあるが、そんな所も可愛く感じる。


彼女は人間と魔女のハーフらしく、目が赤紫色で、かなり綺麗に見える。

また、少しだけつり目になっているが、思わず睨んでしまうような目つきにはならないのが特徴的だ。

博麗さの中に、どこか弱々しい印象が混じっている。


髪色は橙色に明るい赤が僅かばかり混じったような色。

高めの位置で髪を結び、まとまった髪は背中につくかつかないかぐらいの長さになっている。

俗にいう、ポニーテールというやつだ。

世の男子は、大体ポニーテールが好きだろう。

ちなみに、俺も好きだ。萌えとまではいかないが、ポニーテールをしている女の子は2倍も3倍も可愛く見えてしまうものだ。


そんな2倍も3倍も可愛くみえる彼女が、近づいてくる。


近くで見ると、より可愛く見えるのは気のせいか?


「どうかしましたか?ルル」


ボーッとしていた顔を起こし、口角をあげ、彼女に声をかける。


「んー、エイルがボーッと外を見つめてたから気になっちゃったの。何か悩み事?私が聞くの」


この世界での俺の名前を呼んだ彼女は、近くの椅子に腰掛ける。


いつもと変わらない表情と声。そんな些細な事に、俺は内心ホッとした。


「最近は暖かくなりましたね。そのおかげでこうやってボーッとしてしまう事が増えました。ルルも一緒にどうですか?」


少し考える様子を見せると、口を開く。


「エイルみたいになるかもしれないの。だから断るの。そんな事よりエイルのお悩み聞くの」


俺の事を心配しているのか、それとも、俺を下に見ていて馬鹿にしているのか分からないラインだな。


とは言え、彼女とはもうずっと同じような関係を続けてきていて、そんな関係がどこか心地よくて、このままでいられたら良いなとすら思えてしまう。


彼女の存在は、ネルティと同じかそれ以上に、俺の中で大きくて大切なものになっているのだ。


「お悩みですか…。はい、聞いてくれますか?」


「もちろん聞くの」


二つ返事で俺のお悩み相談が始まった。


「僕には、可愛くて仕方ない幼馴染がいるんです。それはもう可愛くて可愛くて仕方がなくてですね。本当は、とても内気で人見知りな所もあって、ちょっとだけ自信がなくて助けを求めてくる所もありまして…、そんな彼女が本当に可愛くて、好きなんです。」


最初こそ、うんうんと強く頷いて、目を輝かせながら、話を聞いていたルルだったが、徐々に恥ずかしさが上回ってしまったのか、頬を赤らめて俯いてしまった。


「ルル?大丈夫ですか?」


そんな彼女の表情を見ようと、顔を覗き込ませる。


すると、ルルは自分の顔を見られたくないのか、腕で顔を妨げる。

流石に顔全体が隠れる事はなく、鼻より上は露出している。


「だ、大丈夫…っ。そんなにそのお、幼馴染さんがお好きなの?」


恥ずかしさに当てられているからか、早口になる。


「えぇ、好きですよ。それよりも、大丈夫ですか?顔が赤いようですが?」


彼女はその言葉を聞くと、驚き、益々顔を赤らめる。

そして、特徴的なつり目を細め、睨みつけてきた。

しかし、それが照れ隠しである事を俺は知っている。

その瞳に嫌悪感などの悪感情は存在しない。


「やっぱり、エイルは馬鹿なの…。せっかくお悩みを聞こうと…」


そこで言葉を途切れる。


彼女は顔を俯け、力無く立ち上がり、弱々しく歩き始める。

その背から、本気で俺の役に立とうとしてくれていたのが、ひしひしと伝わってきた。

自分のした愚かさに気がついたのは、その時。

俺は、彼女の心を弄んだのだと、悔やんだ。

彼女と喧嘩をした事なんて今まで無かった。

それもそうだ。相手は5歳児。今まで言葉の壁があったのだから、普通喧嘩になんてならない。


こういう時、どうするべきか。


その答えは、もちろん、一つだ。


悪い事をしたのなら、謝る。誠心誠意を見せる。


前世では、そんな簡単な事をしてこなかった。


俺は、手をギュッと強く握りしめ、立ち上がり、ルルの背を追いかける。

そして、乾き切った喉から、声を、誠意を彼女に伝わるように絞り出す。


「ルル!ごめんなさい!僕が…僕が悪かったです!ルルの気持ちを蔑ろ…ううん、馬鹿にしてしまいました。本当は嬉しかったのに…恥ずかしいと思ってしまいました。本当にごめんなさい」


難しい言葉は要らない。自分の今の気持ちを伝えるだけで良い。


深く頭を下げて謝罪する。


どれくらい経っただろうか。


彼女は黙ったまま、時間だけが過ぎていく。


その間に耐えられなくなった俺は、瞑っていた目を薄らと開ける。


「おわっ!…え、な、な、…」


俺の目の前には、ルルの顔があった。その特徴的なつり目は、しっかりと俺の目を凝視するかのように、じっと見つめている。

先ほどまでの赤さではない、少しだけ赤く染まる頬。

口角が僅かばかり上がっている。彼女は微笑んでいた。


驚きで思わず、声を上げてしまう。


「あはは。やっぱり、エイルは優しいの。少しだけ落ち込んだふりするだけでここまで思ってくれるの」


「え、ふ、ふり?嘘だったわけですか?」


「うん。私こそごめんなの。エイルを試すような真似をして。あと、私も好きなの。エイルの事」


「ルル…。僕も好きです」


そこで、2人は気がついた。

お互いの顔の距離が近過ぎるという事に。

その事を意識してからは、早かった。

エイルは下げていた頭を上げる。

一方ルルは、しゃがんでいたので、立ちあがろうとする。お互いが同じ方向に動いてしまった。


「「痛っ!!」」


結果として、2人はぶつかってしまう。

特に、エイルはルルの勢いある頭の攻撃を顔で受けてしまっていた。

そのため、鼻血がダラダラと流れて落ちる。

ルルは、ジーンと痛む頭を撫でながら、エイルの方に顔を向ける。


「ご、ごめんなの。今すぐ、治療するの」


彼女は慌てた様子で、小く幼い手を俺の患部に向け、唱える。


「治癒の神よ。我が願いは、簡素なる治癒。その力を今ここに。ヒーリング」


すると、患部周りが緑色に光り輝き、痛みが引いていく。しばらくすると、鼻血が止まる。


彼女が使ったのは治癒魔法。

ルルは、5歳ながらも魔法をいくつか使う事ができる。

いわば、天才というやつだ。

俺は……うん、これからに期待と言った所だな。


「ありがとうございます、ルル。おかげで痛みも引いてきました。ルルは自身は大丈夫ですか?」


治癒魔法のおかげで、さっきまでの痛みが嘘のように消えた。しゃがんだままの彼女に手を差し出す。

彼女はその手を少し恥ずかしそうに取り、立ち上がる。


「わ、私は大丈夫なの…。それよりも、ごめんなの。私が揶揄ったせいでこんな事になって…。ごめんなの…」


申し訳なさそうに落ち込むルル。


「ルルのせいだけではないです。僕にも責任がありますから。今回は2人とも悪かった、それでどうですか?こう考えれば、気持ちも軽くなりませんか?」


責任の押し付け合いなど、意味がない。

2人とも悪かった。

しかし、2人とも間違ってなかった。それだけでいい。


「そう…。エイルがそう言うなら、私はそれでいいの」


ルルはゆっくり顔を上げ、微笑む。やはり、彼女には笑顔が似合う。


「そろそろ、お昼ご飯の時間ですね。シスターネルティが来る前に食堂に行きましょうか」


木で組み立てられている古い時計の針がもう少しで12時を指すところ。この世界にも時間という概念はある。1日は24時間。朝、昼、夜も存在する。


「ネルティは怒ると怖いの。だから、早く行くの」


ゆっくりと腰を上げ、早く、早くと急かす彼女と共に食堂へ向かう。


食堂に着くと、そこにはシスターネルティの姿だけがあった。他の子や、シスターはまだ集まっていない。


俺とルルの姿を見たネルティが声をかけてきた。


「あら?エイルにルルではないですか。どうかしたのですか?」


「もうそろそろで、昼食の時間になるので、早めに来たのです。先ほどまでルルとお話をしていたので、ご一緒したわけですが」


「そうなの!」


ルルは俺の背を盾にするように、背後から顔を少しだけ出して、ネルティの方を威嚇する。

お察しかもしれないが、ルルはネルティが苦手なのだ。

ネルティは特別嫌われるような性格をしているわけではない。

ルルは彼女の何が苦手なのかは分からない。


「ふふっ。そうでしたか。席についてしばらくお待ち下さい。もうそろそろ、他の子達も来るでしょうから」

 

ネルティはルルの様子に微笑し、そう口にすると食堂を出ていった。


「座って待ちましょうか、ルル」


「やっぱり苦手なの!ネルティは!」


そんな言葉に俺は、あははと薄ら笑いを浮かべる。

そんなに何が苦手なのだろうか。

謎は深まるばかりだった。



しばらくして、全員が集まり、昼食を取る。


そんな時間の終わり際に、ネルティが話し始めた。


「皆さん、明日はエイルの6歳のお誕生日です。こんなご時世ですが、めでたい事はしっかりお祝いしたと私は思っています。どうでしょうか?」


そう言えば、明日だったな、誕生日。もうこの世界に来て6年か。幼い頃の時間の流れは遅く感じるというが、精神年齢が大人だからか、遅いとは感じなかった。それどころか、早く感じている。出来ることが少なかったのもあるかもしれないな。


「そうですね。誕生日というものは大切にするべきものです。ネルティに賛成しますよ、私は」


そう言って、ネルティの案に賛同したのは、この孤児院の最高責任者であるシスター・マルハだった。


彼女は、シスターでありながら、この孤児院を作った本人である。そこそこ歳はいっているが、見かけによからず、かなり元気である。


孤児院の中心的人物が賛成した。そのおかげで、反対する者は出なかった。

そもそも、反対する強い理由もないだろう。むしろ、そうであってくれ。


こういった経緯で、俺の誕生日パーティーが開催される事になった。







翌朝。


俺は、眠くて仕方ない眼を擦りながら、ネルティと一緒に孤児院から少し離れたところに足を運んでいた。


「こんな朝早くから手伝ってもらって申し訳ございません。エイルももう少し寝ていたかったでしょう?」


苦笑いを浮かべ、積み上げられた丸太を手に取る。

丸太といっても、既に斧で手に取りやすいように小さくされている物。あまり力のないネルティや俺でも持ち運べる。


「いえ、眠いのはそうですが、、シスターネルティのお願いであれば無碍にはできませんから。あ、僕も持ちます」


「ありがとうございます」


手にできる分の丸太を持ち、来た道を2人で歩く。


「あ、昨日聞きそびれたのですが、エイルとルルは仲が良いのですか?」


歩き始めてすぐ、そんな事をふと彼女が聞いてきた。


「結構最近ですよ、仲良くなったのは。それまでは、あまり話すことも無かったですしね」


「そうなんですね。実は、昨日は驚いたんです。あの、ルルが誰かと仲良くしているなんて、初めてでしたから」


ルルが孤児院に来たのは、3歳の頃。

孤児院の子達はおろか、シスターにすら懐く様子を見せなかった。

扱いづらい子、といったのがシスター達の中での評価だったのだろう。


「人見知りなんですよ、ルルは。ちゃんと向き合えば、良い子だと思いますよ。それに、僕にとっては、彼女だけが同い年の仲間のようなものですから」


彼女はただ不器用なのだ。それでも、根はいい子。


しばらく、談笑しながら、歩き続けていると、急にネルティが足を止めた。


「どうかしましたか?」


「あそこを見てください。誰かいるのが見えませんか?」


彼女が指した方を、眼を凝らして見つめる。


すると、孤児院の前で、誰かが言い争いをしているのが見えた。


「孤児院の前ですね。言い争いのようですが…」


遠くてよく見えないが、恐らく、片方はシスター・マルハだろう。


「………っ!…………っ…!!」


会話の内容は分からないが、かなり怒っているのが、声色から分かる。何だか分からないが、まずそうだ。


「早く行きましょうか。不味そうな雰囲気です」


「そうですね。エイル、走れますか?」

 

「問題ありません」


手が塞がった状態で走るのは大変だが、そんな事を言っている場合ではない。


しばらく走り、目的地に辿り着くと、シスター・マルハの姿と、ルルの姿があった。


ルルはシスター・マルハの後ろで、彼女に抱きつきながら涙を流している。

何か一悶着あったのはほぼ間違いない。


「シスター・マルハ。これはどういった状況でしょうか…?詳しく教えて頂けますか?」


ネルティは、孤児院に辿り着くと開口一番、シスター・マルハに状況の詳細を求める。


「シスター・ネルティ…。これは、孤児院の存続の危機に関する問題です。彼ら、都市兵隊の横暴です。あなた方の要求は呑めません。お帰りください」


マルハはそう説明し、彼ら、都市兵らを睨む。


「そうはいきません。我らの使命は、この都市の平穏ですから。ルル・ラヴェンデルの身柄をこちらにお渡し願います。拒否され続ける場合、手段を選ばないと、ご忠告しておきます」


身柄の引渡し…。さすがに、快く首を振ることは出来ないだろう。

理由はともあれ、彼女が望んでいないのだから。

当然、そんな事を、マルハが考えていないなんて事はない。


「手段?暴力でも使うつもりですか?そんな事をすればどうなるかぐらい分かるのでは?」


強気で出るマルハ。


しかし、都市兵は引き下がるどころか、ますます言葉を強めていく。


「そうです。我々としてはそんな事をしたくはありませんが、これも上の命令ですので。それとも、この孤児院が無くなってもいいと思いですか?」


都市兵は本気だろう。

最悪の手段として、この孤児院で暴れることもあるという事。それは、マルハが1番避けたい結末。


「…………。ルルに、彼女に手を出さないと誓えるのかしら」


「シスターマルハ!?」


想像もしていなかった言葉に、驚きを隠せないネルティ。


「……エイル」


いつの間にか、俺の後ろに立っていたルルが、強く、弱く、俺の袖を握りしめる。


小さく震える彼女の手に触れ、俺は決意した。


彼女を俺が守ろう、と。


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