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第1話 「最悪の転生」

青い空、白い雲、暖かい光を届けてくれる太陽。


うん、この世界はまるで地球のようだ。前世の世界と大差ない。


風も吹くし、雨も降る。朝が来て、夜が訪れる。


本当に地球のようだ。


だが、俺は知っている。


この世界は、前世の世界では無い。


似ても似つかない。そんな世界だ。


俺だって、最初はこの世界は前の世界なのでは無いのかと、信じてやまなかった。


だけど、そんな期待はすぐに消えた。


まず、俺には親がいない。


もちろん、この世界での話だ。孤児というやつだろう。


赤子として転生した先は孤児院という名の教会だったのだ。ここでは、身寄りのない子供達を引き取って、身の回りの世話や何やらまでしている。


まぁ、至りつくせりと言うやつだな。


日本じゃこうもいかなかったに違いない。


この教会には、俺の他にも似たような子が少なからずいる。年齢も性別も、種族すらも違う。


そう、この世界には人間以外の知的生命態が存在するのだ。


まるで、人間のように話し、動き、生きている。


教会にいたのは、世話役のシスターも含め、3人。


この事を目の当たりにし、この世界は、前の世界とは違うのだと知ったという訳だ。


しかし、それだけでは無い。


そんな事実を知って、すぐに俺は初めて外に出る機会を得た。そして、明るく光る、太陽を見て驚いた。


太陽が、球体ではなかったのだ。


立方体というべきか。とにかく、四角だった。


ちなみに、地面がどうなっているとかは分からなかった。赤子のせいで、俺は上しか見れないからな。


太陽が四角という事に度肝を抜かれていた俺に、追い打ちをかけるかのように、シスターが目の前で男の子なら誰でも憧れる、アレを使ったのだ。


そう、アレだ。


マジック、トリック、マリック。


とまぁ、冗談はおいといて。


彼女は魔法を使ったのだ。


綺麗な水がパラパラと降り注がれていく様は、まるでジョウロで水やりをしているかのようだった。


このことから、この世界は、魔法も使える異世界なのだと、気づいてしまった。







「はぁ…。異世界ねぇ…。何でこんなことになったんだろう…」


教会から少し離れた公園のベンチに1人座り込み、ため息をつく。


すると、


「そんな所で何をしているのですか?」


静かに近づいてきたシスターが声をかけてきた。


彼女の名前はネルティ・オーガスト。


彼女こそが、俺の目の前で初めて魔法を使ったシスターだ。ちなみに、父親が獣人族で、人と獣人のハーフである。


そのため、彼女にはケモ耳としっぽがある。


縦に細長く、猫のような耳の形をしている。


また、しっぽは何故か2本あり、意志を持っているのかは定かでは無いが、くねくねと微妙に動いている。


色は彼女の髪色と同じく、黒色でお淑やかなイメージが、シスターという職そのものととても似合っているように感じる。


ここまでを聞くと、ツンとした黒猫のようなイメージが浮かぶかもしれないが、意外にもジト目という事もあってか、そんな事もなかったりする。


「考え事です。僕も、もうすぐで6歳になるなと思いまして」


自分が転生者であるということは黙っておくことにしていた。


彼女を、彼女達を信頼してない訳では無いが、万が一があれば、俺はきっと誰も信用出来なくなってしまうだろう。


それは、俺の為にも、彼女達の為にもならない。


「たしかに、そうですね。もう6年も経ちますか…あなたがこの教会に来てから…」


ネルティは、少し思い出に浸るように考え込む姿勢を取りながら、クスッと微笑む。


そう言えば、もう6年も経つのか…。


時の流れはやはり早いものだな。


赤子の頃よりは動けるようになったとはいえ、まだまだ未熟な所が多い。


肉体的にも精神的にも。


「シスターネルティのおかげです。もちろん、他のシスターやこの教会に住む皆のおかげでもありますが…。それでも、僕はあなたに色んな事を学びましたから。僕にとってシスター・ネルティは恩人であり、先生のような存在です」


そう言いきって、彼女の目を見つめる。


今の言葉は本音だ。


本当に彼女には感謝してもしきれない。


赤子の頃から1番面倒を見てくれたの他の誰でもない、彼女だ。


ご飯を食べさせてくれたのも、服を見繕ってくれたのも、沢山話しかけてくれたのも、挙げ句の果てには、魔法についての知識を教えてくれたのも、全て彼女なのだ。


きっとこれからも、彼女に力を借りる事があるだろう。


いや、ある。


だから、感謝を伝えるのだ。


こういう事はいくら伝えてもいい。


「私はシスターですから。女神の加護がある限り、誰も不幸にはなりません。あなたにも幸がありますように。私は今日も祈るだけです」


彼女は、首にかけた円型のネックレスを両手で握り、祈るように少しの間、その場で静止していた。


俺はその姿を無言で見つめ、しばらくしてから口を開いた。


「そう言えば、シスターネルティは僕に何か用でもありましたか?わざわざ、こんな所に来るとは思わないので」


少し考え、彼女は答える。


「そうでした。この辺りはしばらく近づかない方がいいと伝えに来たのでしたが…うっかり忘れてしまっていました。申し訳ございません」


彼女は忠告をしに来てくれたのだ。


「しばらく近づかない方がいい…?と言うと、また物騒になってきたのですか?」


「はい…。また食糧を不正に貯蓄している組織が見つかったとかで…、最近はこの周辺にまでその影響が及んできていると、シスター・マルハがため息をつきながら教えて下さいました」


ネルティは何とも言えなさそうな表情を浮かべる。


物騒だったのは昔からだったが…。


教会があるのは、都市からはかなり離れた畑や農地が広がる辺境と言えるような場所。


そんな場所にまで話が広がってくるとは…。


俺が転生してきた時、この世界は崩壊しかけていた。


あらゆる生き物が、今から20年ほど前に起きた大厄災によって、死をさ迷ったと言う。


それは、人族も例外ではなかった。


住処を失い、子を失い、親を失い、食べ物もろくに無く、ただ、そこには地獄があったとか。


当時の詳しい状況などは分からないが、とにかく今ほどの平和的な日常では無かったという事は確かだ。


今が平和かと言われたらそうでは無いかもしれないが。


実際、都市兵がやってきている訳で。


「そうですか…。ご忠告ありがとうございます。早く、アルシャの統制機関が出来ると良いのですが…。こればかりはどうしようもないですね」


この都市を統制する機関。


言わば、政府のような立ち位置のものが未だに存在しない。


この歳は、五大都市の1つであり、あらゆる種族が生活している総合都市とまで言われているが、その有り様は決して良いとは言えない。


近々、新たな政府機関が出来ると噂になっているが、どこまで信じて良いものか…。


「そうですね。祈りましょう。また、平和な日々が訪れる事を。今はただ、祈りましょう。」


彼女はニコッと微笑み、目を閉じ、祈る。


俺も、彼女を習うようにして、目を閉じる。


こんな世界でも、生きていけるのだろうか。


いや、生きよう。


せっかくのチャンスを簡単に手放してしまっていいわけが無い。


今度こそ、人生を全うしてみよう。


そして、知ろう。


人生の意味を。


人生とは何かを。


知るために、生きる。


そう、胸に誓った。


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