第77話『神々と【十執政】の客』
『炎神』達を書くのは30話ぶりくらいですね
――『知恵の神』と『炎神』をはじめとする属性神たち、さらに『時間の神』をはじめとする神たちを見てラインは驚きで声が出なくなってしまう。何を話せばいいかも分からず、とりあえずタルトを並べた。
「えっと……タルトです。どうぞ」
並べられたタルトを見て、十一人がそれを口に運ぶ。すると、めちゃくちゃ美味しかったのか顔がぱあっと明るくなる。
特に女性側が明るい顔に変わった。
「へぇ、美味しいねこれ。セレナちゃんが作ったのかな?」
「ボクはこんなに美味しいのを久しぶりに食べたよ」
「……ん。美味しい。ね、お姉ちゃん」
「美味しいわね。沢山食べられそうだわ」
と、それぞれ感想を残すのが『知恵の神』アステナ、『生と死の神』アリシアス、『氷神』イゼルナ、『水神』アクアだ。
男性陣や残りの女性は黙々と食べているが、頷きながら食べているので美味しいのだろう。
「えっと……なんでみんなここに?」
「アステナちゃんが私たちを招待しに来たんだー! ラインくんたちの学園祭があるから行こうって!」
ラインの問いに『風神』エオニアが答える。
「わたしたちは忙しかったんだけど、アステナがしつこいから来たんだ」
「まー良いじゃん。楽しめると思うよ? 実際今も楽しいしー」
続いて『時間の神』アスタリアと『夢の神』フォカリナがそう答え、ラインは頷く。そして目の前の神々をじっと見つめ、呟いた。
「何か面白いメンバーですね……。ていうか、イグニスさんたちはともかく、アスタリアさんたちは人に姿を見せて良いんですか?」
属性神たちはその身分を隠し、五人で村に住んでいる。そのためもちろん人々と交流はあるのだが、『時間の神』たちはどうだろうか。
以前、フォカリナがエルフィーネの夢に入ったことがある。その時、アスタリアが彼女に怒っていたことをラインは覚えていたので心配になったのだ。
しかし――
「ああ、大丈夫。もし神様だってバレてもフォカリナが記憶を改ざんするか、ファルネラが何かすればいいから」
「何かってなんですか。ワタシのことなんだと思ってるんですか」
アスタリアの話を聞き、『夢の神』ってなんて便利なのだろう。と思うのと同時に、ファルネラと呼ばれた彼女が誰なのか首を傾げる。
ラインの記憶が正しければ、彼女にだけは会ったことが無いはずだ。何を司る神なのかも知らない。
ラインの表情に気づいたファルネラは、目を合わせた。
「そういえばはじめましてでしたね。ワタシは『法則の神』ファルネラですよ。よろしくお願いしますね」
「あ、はい。ライン・ファルレフィアです。よろしくお願いします」
丁寧に挨拶してくれた彼女に頭を下げる。何を話せばいいか分からず、戸惑っていると『炎神』イグニスが声をかけてきた。
「てかお前なんで女になってんだ? そういう趣味か?」
「いやいや違いますって! こっちの方がメイドに見えると思って!」
何か変な誤解をされかねないので必死に否定し、ため息をつく。
「ライン、学園祭って夜まであるんだよね?」
「あ、はい。夜までありますよ。なんでそんなことを?」
突然『雷神』ヴォルスにそんなことを聞かれ、ラインは首を傾げる。すると、今度は『空間の神』スピリアが口を開く。
「それくらいまでなら僕たちも学園祭を楽しんで良いんじゃない、姉さん?」
「はぁ、まあ良いよ。ただ、学園祭が終わったら分かってるよね? 良い?」
弟の言葉を聞き、アスタリアはため息をついてそう言った。彼女の言葉に、十人は「はーい」と答えた。
◆◇◆◇
「どうぞ。宙苺の星空タルトで……す!?」
一方で、別の教室にいるお客様に二つのタルトを持っていったセツナ。その机に置いた瞬間、彼女は目を見開いて声が高くなった。
なぜなら、目の前にいるのは"元"【十執政】のロエン・ミリディアとサフィナ・カレイドだったからだ。
「なんでいるの?」
「ヴァルクから学園祭があることを聞いてましたので来たんですよ。そしたらあなたの兄妹に呼び止められましてね」
「せっかくだし行ってみよーかなーって思ってさー。楽しそーだしー」
「この間もだけど、いつも二人でいるの? 仲良すぎない?」
来ている理由は分かったのでセツナは頷くが、以前のクロイツとの戦闘といい、ずっと二人でいる彼らを「恋人なのでは?」と思ってしまう。
「アタシたち幼馴染なんだー。だから仲良しなんだよー」
彼らといい、『剣聖』と『魔導師』といい、セレナとエルフィーネといい、セツナの会ったことある幼馴染たちは全員仲がいい。
――正直、子供の頃は他の子と遊んだ記憶がほとんど無い四つ子からすれば羨ましい限りだ。
「幼馴染ね。良いじゃん。仲良しで」
「そうですね。あ、学園祭って夜まであるとヴァルクから聞いたんですが、夜に何かあるんですか?」
ロエンに尋ねられ、セツナは思い出したように「あー」と呟く。
「グレイス君から聞いた話では、夜空に星空を再現させる魔法を撃つみたい。私もよく知らないんだけど、この学園の初めての学園祭から続いてる風習らしいよ」
セツナが答えると、サフィナが目を見開き、キラキラさせる。
「へー綺麗そーじゃん。見てみよーよ。ヴァルクも一緒にさー」
「はぁ、まあ良いが」
瞬間、後ろから声が聞こえてセツナはビクッとしてしまう。なぜなら、そこにはヴァルク・オルデインがいたからだ。
「びっくりした……。いつからいたの?」
「今来たばかりだ」
相変わらず口数の少ない事だ。必要最低限しか話さないというような確固たる意志を感じる。
「それじゃあ私は戻るから。学園祭楽しんで」
そう言い残し、セツナは新たな席へと料理を運びに行った――
◆◇◆◇
「こちら、宙苺の星空タルトです」
「あ、ああ。ありがとな。フッ」
「……」
また別の教室では、タルトを頼んだ『煌星の影』レオ・ヴァルディにアッシュがタルトを運んだ。
彼のメイド服姿を見て、笑いを必死に我慢するレオ。アッシュはレオを無言でじっと睨み、ため息をつく。
「笑わないでよ。この格好恥ずかしいんだから。グレイスにもバカにされたし」
「そりゃ笑うだろ。だって『剣聖』がそんな格好してるんだぜ? グレイスが笑うのも分かるわ」
もう我慢出来ないようだ。涙が出るほどの大笑いをしている。
「ほら、バカにするんだったら帰った帰った」
「待てってまだ食べてないんだよ」
アッシュに教室から出されそうになるのを抵抗し、再び椅子に座る。そして、タルトを口に入れる。
「ん、美味いなこれ。やるじゃねえか」
「食べ終わったら早く帰ってね」
美味しそうに食べるレオに背を向け、アッシュは別の教室に向かっていった。
――タルトを食べ終わると、ゴミを用意されている箱に捨て、教室から出ていく。学園祭らしく騒がしい廊下を一人で歩き、角を曲がると地面に座った。
「はぁ、疲れるな」
誰も通らない廊下の角で、そう呟いたのだった。
読んでいただきありがとうございます!