第7話 『昨日の再会』
「さあ、神龍討伐戦だ」
そう言ったラインの声が響く。神龍が吐いた炎は、四つ子が『創世神』の力で無に返した。
「よし、みんなにお願いがある。俺達はこの結界を壊してくる。だからそれまでの間、神龍と戦ってくれ」
そう言うと、四つ子は圧倒的な身体能力で走り去り、消えていった。その速度に、生徒達は驚くことしかできなかった。
「速……」
「……よし、アイツが戻るまで、俺らでやるぞ!」
「「「「ああ!!」」」
ドォォォン!
激しい魔法の音と神龍オメガルスの鳴き声が学園に響く。
「喰らえ!」
「ハァァァ!」
全生徒が神龍に向けて魔法を撃ち続ける中、一人だけ長剣を持ち、立っている男がいた。
「……よし」
男は一回のジャンプで神龍まで辿り着き、長剣を振るう。
その男の青みがかかった銀髪が風でなびいた。
「あれは……アッシュか」
冷静に判断したのは、彼の幼馴染で親友のグレイスだ。
「まああいつは魔法よりあっちの方がいいな」
グレイスが右を見つめると、結界破壊の準備を行う四つ子の姿があった。
◆◇◆◇
結界を前にして、レンゲが尋ねる。
「ラインお兄ちゃん、どうやって壊す?」
「とりあえず、触るか」
ビリッ!
手を触れると、全身に電気が走るような感覚を覚える。先程、結界に触れた生徒は痛そうにしていたが、ラインはそれほど痛みを感じなかった。
「じゃあ、早速壊そうか」
ラインが結界を壊そうとした瞬間――
「シャドウ・エクリプス」
「おいおい……」
四つ子が闇魔法に包まれるが、瞬時に破壊する。それは、昨日商店街で四人が撃たれた魔法だった。
「この魔法……昨日も……」
「やっぱりダメかー」
その男に、四つ子は見覚えがあった。それは――
「あなた昨日の……また邪魔するの? 制服着てるってことは学園の生徒でしょ? 邪魔する理由を教えて」
「昨日はどうも。 ああそうだ、自己紹介をしよう。僕はルシェル・バルザーグ。以後お見知り置きを」
そう、昨日、四つ子が服屋から出た時に襲ってきた三人組のうちの一人だ。
「なんの用?」
「えー教えて欲しいの? どうしよっかなー」
飄々とした態度で四つ子を見つめる。その態度に、セツナはイライラしたような目で睨んでいた。
「……はーいいよ。そんなに戦いたいんだったらやろうか。勘違いしないことだね。昨日とは違うから」
◆◇◆◇
生徒達は、全員が様々な魔法や『権能』で攻撃する。
「くっ!」
「どうだ!?」
様々な攻撃を神龍に当てるが、どこから見てもダメージを受けている様子が見えない。
「チッ…… アッシュ! 一回降りてこい!」
グレイスの叫びでアッシュが地上に戻ってくる。
「なんだい?」
「あいつを剣で斬ってダメージがあるか?」
「今のところ百回近くは斬ったはずなんだけど、ダメージが全く見られないよ。魔法を当てられてもピンピンしてるし」
「……」
グレイスがなにか考えるように下を向く。
「……なあ、アレ使ってダメージ与えれると思うか?」
「確かにあの威力ならいけると思うけど、あれが再生能力なのか防御力なのか分からないからね」
「でも斬った感触はあるんだろ? だったら再生してるはずだ」
グレイスの考えでは神龍が防御しているのであればそもそも攻撃が通らないのではないかということだ。
しかし、もし再生能力で毎回回復しているのであれば大ダメージを与えられたとしても倒せるかは怪しい。
「まあ、やるんだったら構わないよ。僕の魔力も使っていいから」
「じゃ、お言葉に甘えて……」
グレイスは杖を神龍オメガルスに向ける。
そこで詠唱を続け、周囲から魔力を杖に吸収し、彼の足元に魔法陣が出来上がる。
「――エレメントキャタスト!」
刹那、学園内を大きな爆撃音が包み、激しい砂埃が起こった。
エレメントキャタスト――それは『魔導師』の家系、エヴァンス家に代々伝わるオリジナルの魔法。
詠唱中、炎、水、氷、風、雷、光の属性エネルギーを貯め、それを対象に向けて一気に放出する。
放出された場所には塵一つも残らない。
しかし――
「ダメか……」
「一応ダメージは受けてるようだよ。しかも見た感じ、回復速度が遅い。今叩けば倒せるかもしれない」
「やっぱり使うのキツイな……」
エレメントキャタストは強力な魔法だが、使用には莫大な魔力を使用することで使用者に多大な負担をかけてしまい、通常なら魔力切れで動けなくなってしまう。
しかし、グレイスは『魔導師』の『権能』により、底なしの魔力を持っていて、魔力切れは起こらない。 その為、全身を治癒魔法で治すことで再び動くというなんとも無理やり戦法だ。
「効いたんなら、倒す見込みはあるな。アッシュ、連れて行ってくれ」
アッシュはグレイスを抱え、先程と同じように一度の大ジャンプをする。
◆◇◆◇
神龍にダメージを与えた一方で、四つ子はルシェルと名乗るこの男に攻撃を通すことができなかった。
「どう? いくら攻撃しても無意味でしょ?」
四つ子は協力してルシェルに挑む。しかし、どんな攻撃も効かない。グレイスの《無敵》のようなものではなく、攻撃が通った感触はある。しかし、この男は全てのダメージを受けない。
「チッ……」
ダメージを受けないだけであれば弟達に戦闘を任せ、自分は結界を解く……とラインは考えていた。しかし、ルシェルが少しでも動く度に、身体に痛みが入る感覚を覚える。
昨日の戦闘では起こらなかったことが、今起こっている。
「昨日は僕の『権能』を使ってなかったからね。今日は使わせて貰うよ。僕たちの目的のためにね」
「目的?」
「おっと失礼。今のは聞かなかったことに」
変わらず飄々とした態度を取るルシェルに苛立ちを覚えつつ、魔法を詠唱する。
「ルミナスアロー」
「サンダークラッシュ」
ラインとセツナに唱えられた魔法――光魔法と雷魔法により、光の矢と雷の衝撃波をルシェルに放たれる。
だが、それを全て受けたにも関わらず、何も変わらない。
「無駄だよ。君達がどんな攻撃を仕掛けたところで僕には効かないんだ。もっと僕を楽しませてごらんよ」
ルシェルはニヤニヤして煽るような目つきで四つ子を見る。
まるで、お前らには何も出来ないと言うような目付きで――
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