第4話 『四つ子の絆』
魔法学園から少し離れた商業街。華やかな装飾が施された石畳の通りには、洋服店、魔法グッズ専門店、カフェなどが立ち並び、週末には多くの人で賑わっていた。
「ラインお兄ちゃん!服買いたい!!」
「ああ、わかった」
四人は通りで一番大きな洋服店に入った。店内には新作の服が並び、魔法で輝くような装飾品も飾られている。
「わあ!! 綺麗!」
レンゲが目をキラキラ輝かせて服を見つめる。小さな手で様々な服の生地に触れ、その感触を楽しんでいた。
「嬉しそうだな、レンゲ。あれ、セツナは?」
ラインの問いにアレスが店内を見回して指さした。そこには服を手に取って悩んでいるセツナがいる。
「あそこで服見てるよ。レンゲみたいに目をキラキラさせて」
「本当だ……」
ラインが近づくと、セツナは白のワンピースを手に取っていた。
「セツナ、欲しい服あったのか?」
セツナは少し照れたように微笑み、
「まあね。私も女の子なんだし。レンゲのも買うつもりなんでしょ? 私の分も買ってね、お兄ちゃん」
とウィンクしてラインを見つめた。
ラインは軽くため息をつきながらも優しい表情を浮かべる。
「しょうがない。今日だけな」
「ありがと!」
セツナは珍しく笑顔を見せた。ラインとセツナが話しているのを見て、アレスは思わず笑みをこぼした。
「アレスお兄ちゃんどうしたの?」
「やっぱり仲良いよね、あの二人」
「私達が仲良いのはいつものことだよ! 四つ子だもん!」
レンゲは当然のように言って、アレスの少し後ろでラインと話しているセツナの元へ駆け寄った。
「セツナお姉ちゃん!! 欲しい服あったの?」
「うん」
セツナはワンピースを広げて見せる。
「この服良くない? 可愛いと思うんだけど」
アレスが近づき、真摯に答える。
「セツナに似合ってると思うよ」
「うん! すっごく可愛い! セツナお姉ちゃんに似合うよ!」
いつものように何でも褒めてくれる兄と妹を見てセツナは少しだけ照れ、頬が薄く赤くなった。
「じゃあ払ってくるから2人とも服貸せ」
ラインが手を伸ばし、二人の手から服を取ろうとする。
「いいの? ラインお兄ちゃん?」
レンゲは小さな手に持った水色のブラウスを差し出した。
「ああ。元々そのつもりだったし」
ラインは当然のように応じ、会計に持って行った。
「「ありがとう!」」
その後ろ姿を見た二人の姉妹は、長男に感謝を述べた。
◆◇◆◇
四人は洋服店から出て、次の予定を考えようとしていた。
「どうする? どっか行く――」
ラインが尋ねたその瞬間、突然、燃えるような赤い業火がライン達を包み込んだ。
「シャドウ・エクリプス」
低い声がひびき、業火だけでなく、さらに周囲が闇に包まれる。これは包み込んだ相手の五感と力を一時的に奪い、意識を失わせる闇魔法だった。
「よし、とりあえずは様子見をしよっか」
聖煌魔法高等学園の制服を着た三人の男が、数メートル先に立っていた。魔法の残り火が彼らの周囲でまだ消えずに漂っている。
「こいつを倒してどうするんだ?」
三人の中で一番背が高い男が他の男たちに尋ねる。
「……まあ、戦って見たくて」
中央にいる男が答える。どうやら三人は先日の決闘でレオを倒したラインに何かしら興味を持ったようだ。
「さて、見に行くぞ。って、あれ?」
三人は驚いた表情を浮かべた。
「昨日も今日も……なんで俺は突然魔法を撃たれないとといけないんだ?」
いつの間にか三人の後ろに立っていたラインが言い放ち、三人の頬を殴る。
「まじか、まあやるね。あれを破るのは難しいはずなんだけど」
ライン達の持つ創世神の力は『出来ないことはない』と言われる。やろうと思えばなんでも出来てしまうものだ。
何故か炎や水などの魔法は出せないため、四つ子は魔法を覚える必要があったが、ほかは大体なんでも出来る。
しかしこの力は強すぎるがゆえに、かなり大きな代償が伴う。その代償は計り知れないため、どのような結果をもたらすかは誰にも分からない。
そのため、ライン達はこの力を必要最小限の範囲でしか使用していなかった。
「……休日なのに制服着るってそんなに学園大好きかよ」
少しからかうようなつもりで言ったが、それには何も反応しなかった。
「こうすればなぜ自分たちが襲われたのかすぐわかるだろ?」
三人の一人が意味ありげに応じる。
「ああ、俺がレオに勝ったから試してやろうみたいな感じか? めんどくさいから帰れ」
「無理だね。そんなめんどくさいことはしたくない」
「いやめんどくさいの俺たちなんだけど?」
中央にいる男はめんどくさい事したくないらしいが、突然戦わせられる4つ子の方がめんどくさいだろう。
その瞬間、ラインと話していた男の腕にセツナが放った血液の刃がかすった。男は腕をかばい、一歩後ずさる。
「今日は帰って。タイミングが悪いよ」
セツナは冷たい視線を向けながら言った。
「うん、タイミングが悪かったね」
買った服が入っている紙袋を持ったレンゲをお姫様抱っこしているアレスもまた血液の刃を飛ばし、軽やかに空へ舞い上がった。
「えい!!」
レンゲは小さな手を前に出し、瞬時に三人を血液の糸で拘束し、ラインの目の前に引き寄せた。
「じゃあな」
「「「グエッ!」」」
ラインは学園の校庭へと繋いだワープホールに向かって三人を容赦なく蹴り飛ばした。青い光が瞬き、三人の姿は消えてしまった。
「いいとこで邪魔してきたな、あいつら」
ラインはため息をつく。
「でもなんで僕たちの場所わかったんだろうね?」
アレスは不思議そうに首を傾げた。
「監視でもしてたんじゃない?」
「聞けばよかったな。ま、帰るか」
「「「そうだね」」」
三人が揃って頷き、屋敷への帰路を歩いていた。
◆◇◆◇
「帰ってきたー! ラインお兄ちゃん、疲れたー」
屋敷の玄関を開けると同時に、レンゲはラインに抱きつく。
「疲れないだろ、俺たちは」
レンゲの甘えた態度にラインは冷たく返すが、その表情は優しかった。
「もう、可愛い妹が甘えてるんだからそんな態度取らないの」
セツナがラインの耳を軽く引っ張る。
「痛い痛い」
今度はラインがセツナの両頬を弱く引っ張り、セツナは少しだけ怒った顔をして拳を握りしめ、ラインの顔を見る。
「もう、ぶっ飛ばすよ!」
「ごめんって」
ラインは両手を上げて降参のポーズ。アレスはそれにクスッと笑い、屋敷の扉をゆっくり開ける。
「ほら、早く屋敷に入ろうよ」
玄関から大きな声を出し、三人はアレスに続くように屋敷に入って行く。
「そうだね!」
――屋敷に入るとすぐに、セツナがラインに向けて両手を広げた。
「ねえお兄ちゃん、はい!」
「どうした? セツナ」
ラインは不思議そうに見つめると、衝撃的なことを言われる。
「さっきアレスがレンゲをお姫様抱っこしてたでしょ? 私にもやって」
セツナは少し照れながらも真剣な表情で言った。
「なんでだよ。アレスにしてもらえよ」
ラインは困ったように首を傾げた。
「いいじゃん、やってよ。ぶっ飛ばすよ!」
セツナの目がわずかに赤く光る。
「わかったわかった」
ラインは諦めたように言い、セツナを軽々と抱き上げる。
いつも兄たちにはツンツンした態度を取っているセツナだが、たまにレンゲのように甘えることがある。
ラインにお姫様抱っこをされてご満悦の様子をしているセツナを、アレスとレンゲはニコニコしながら見つめていた。
「セツナお姉ちゃん、凄く嬉しそうな顔してるね!」
レンゲは無邪気に笑った。
「やっぱり可愛いよね。いつもあの態度でいいのに」
アレスも微笑みながら言った。
「アレス、ちょっとうるさい」
セツナがアレスに向かって指先から血液を弾いた。
「怖!」
「照れるなよ、セツナ」
「照れてない!」
セツナは顔を赤らめながらラインから視線をそらした。
こうして、四つ子の休日は終わった――
空から見下ろす満月の光が、屋敷の窓から漏れる暖かな灯りを静かに照らしていた。何者かに狙われている気配を感じながらも、この夜は平穏に過ぎていくのだった。
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