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第115話『メイドvs略奪者』

「さーて。メイドの君たちはどんな『権能』を持ってるのかな? 僕に見せてくれよ」


 ロエンの《斥力の王(リペル・ロード)》で吹き飛ばされ、セレナ・クラヴィールとエルフィーネ・モランジェと対峙することになった、ルシェル・バルザーグ。


 『悪魔』エリゴスに肉体を乗っ取られていた身として、彼自身が戦いに出てくるのは久しぶりだ。


 (『権能』が危ないんでしたっけ……?)


 『神龍オメガルス』と彼が学園を襲った時、まだセレナとエルフィーネは学園に入学していなかった。

 だから彼女らはルシェルのことを知らないはずだが、四つ子のメイドとして暮らしている間に、「こんなやつと戦ったんだー」とセツナに教えてもらったことがあった。

 

 その中で、危ないと言われたのは『権能』だ。

 ルシェルの『権能』は《奪取》と《破壊の衝撃》。さらに、《奪取》で奪ってきた数多の『権能』があるらしい。


 その上に、自分の『権能』を奪われる心配もしないといけないのだ。こんなに戦いにくい相手はいない。


「《早駆》」


 ――まず、最初の一歩を踏み出したのはルシェルだ。尋常ではない速度で動けるようになる『権能』を使用し、一気に近づく。

 どこでもいい。身体のどこかを触れたら奪える。その手を広げ、まずはセレナを……。

 だが、その瞬間、ルシェルの動きが遅くなった。


「《刻律の調律》」


 セレナが『権能』を発動し、時間のリズムをいじることでルシェルの速度を遅く、自分らの速度を上げた。


 迫る手を避けてセレナが手に持ったのは――


「っ!? その扇は――」


 身体が素早く動かない。手を振りあげるより先に、セレナの持つ扇――フロリーレで右手を切断されてしまった。


「あっ、ぐっ……なんで、その扇を……」


 痛みに耐えながら血が溢れる右手を抑え、なぜセレナがフロリーレを、サフィナの扇を持っているのかを問う。


「先程貸してもらったんです。あなたと戦う時に手で触れないようにって」


 ロエンに飛ばされる前、サフィナが対の扇の片方を渡してくれた。ルシェルと安全に戦えるように。


 (よく分からない方だと思ってましたけど、優しいんですね)


 と、セレナは心の中で思った。正直、彼女はサフィナたちを信用していない。今は何も害はなく、協力関係ではあるが、元々は敵として現れた者たちだ。

 四つ子も、『剣聖』も『魔導師』も、気にせず接していたが、セレナは常に注意を巡らせていた。それも、つい先程まで。


 だが、ロエンに吹き飛ばされる瞬間、扇を渡してきた少女の瞳にはなにか悪い企みも一切なく見えた。


 完全に信用している、という訳では無いが、彼女のおかげで戦えているのは事実だ。戦いが終わったら料理でも出しましょうかと思う。


「サフィナの扇か……。《再生》、《破壊の衝撃》」


 すぐに切断された腕を再生し、指先から破壊のエネルギー弾を放つルシェル。金属の音が空間を響き、それは叩き落とされ、フロリーレはルシェルの顔を捕捉した。


「《手刀》」


「そんな事も出来るんですね……。ハッ!?」


 扇を手で受け止め、その手から斬撃のようなものを放つ。獣人で感覚器官が発達しているセレナは危機を感じ、後ろに下がることで斬撃を避けれた。


「セレナ〜どうする〜? アタシが魔法で邪魔しながら戦おうか〜?」


「それも良いですね。そうして貰えれば――」


「話し合ってる場合じゃないでしょ? 僕のこと無視しないでよ」


「――っ!? エルフィーネ!」


 《早駆》で接近してきたルシェルの手が、もう目の前に。エルフィーネを引き寄せて守ろうとするセレナだが、その前に、腕は止まった。


「あれ〜なんか止まってるよ〜」


「な、んだ? 手が進まない。それに……この、恐怖心は……? 一体……?」


 金色のバリアのようなものがセレナとエルフィーネを守ったようだ。地面に尻を付いてわけがわからない表情をするメイド二人と、身体が震え、恐怖に心を襲われるルシェル。


 ゆっくりと後ろを向き、空を、さらに上空を見上げた。そこにいたのは――


『私の大切な人を傷つけたら許さないから』


 『魔王』ヴァルザードと激しい戦闘をしているセツナだ。真っ赤に染まった空の中で、真っ白の髪が輝くように見えて神々しい。そして、その目は『生と死の神』の力を使ったことで真っ赤に染まり、ルシェルを睨みつけていた。


『私は今助けにいけないから、悪いけど頑張って。信じてるから』


「セツナ様の声が、脳内に直接……」


 『知恵の神』の力でセレナとエルフィーネにテレパシーを送る。そして、エルフィーネの目の前に真っ白な光が輝き始めた。

 そこから生成されたのは、透明感のある細身の長剣――レイピアだ。


 それをエルフィーネが掴んだ瞬間、彼女らを守っていたバリアは消えた。


「「えいっ!!」」


 扇とレイピアを同時にルシェルに向け、突く。だがしかし――


「《無視》!!」


 (やっぱり、使っちゃいますよね、それ……)


 どんな干渉も受け入れなくなることで文字通り無敵の防御力と化け物みたいな力を得ることが出来る《無視》。それを破るには、同じく無敵の《無敵》か《虚無の防御》、もしくは『創世神』でなければならない。


 前者二つの『権能』はグレイスが、後者は四つ子に当てはまるが、生憎どちらもこの場にいない。


 セレナとエルフィーネは無敵の相手と無謀な戦いを繰り広げなければならないのだ。


「まずはこれでも喰らってみよ?」


 右足から蹴りが放たれ、セレナとエルフィーネを蹴り飛ばす。容赦ない一撃は二人の顔を傷つけ、唇が切れる。


「っ、容赦なく蹴られましたね……。まあ手加減されるのもおかしいですけど……」


「痛〜い。アタシ怒っちゃった。《跳刃の舞踏》〜!」


 いつも気だるく、怒る印象が全くないエルフィーネ。『権能』を発動すると、空間を跳ねるように不規則に動き出し、ルシェルは目を追うのに必死になっていた。


「ちょこまかと動くね。ま、いいや。《破壊の衝撃》、《手刀》」


 そして、不規則に迫ってくるエルフィーネのレイピアを手で捌きながら破壊のエネルギー弾を放ち、放ち、放ち……と、繰り返していると、セレナが立ち上がったのが視界に入った。

 

「――無敵状態をどうにかしないといけませんね。《封界の楔》!」


 ニヤッと笑い、セレナは『権能』を発動した。その瞬間――


「ガッ!? な、んで刺さって……」


「さ〜なんででしょ〜? インフェルノ〜!」


 レイピアが刺さった右掌を見つめるルシェルに、火柱を立てる炎魔法が炸裂する。

 叫び声が上がり、火が消えると、酷い火傷を負ったルシェルが現れた。


「《無視》が……なんで……」


(わたくし)の『権能』ですよ。(わたくし)が魔力の楔を打つと、一定の範囲内で『権能』行使が制限されます。それも、(わたくし)が選んだ相手だけですが」


 セレナの『権能』のせいで、ルシェルの『権能』は強制的に解除されてしまったのだ。そして、魔法も使えなくなった状態で高火力の炎魔法を浴びてしまった。魔力で全身を守れなかったことで、酷い傷を負い、治癒魔法も使えない。

 ――もう、ルシェル・バルザーグに出来ることは無くなった。

 

「……どうすれば良いんでしょうか……? 斬るべきでしょうか……?」


 ルシェルを殺すか、このままにしておくか。普通に考えれば、殺すべきだ。でも、他者の命を奪う決断はそう簡単に出来るものではない。

 倒すと殺すはまた別の話だ。震える手で持つフロリーレを振るうべきなのか、否か。汗が頬を流れ、思考が渋滞する。

 ――そんな時、脳内に声が聞こえてきた。


『殺さなくて良いからね。縛って、暴れないように見張ってて。全部終わったら、私たちもそっちに行くから』


 再び、セツナからのテレパシー。その発言に、セレナは手を落ち着かせる。すると、どこからともなく現れた血液がルシェルを頑丈に縛った。


『私じゃないと壊せないから安心していいよ。頑張ったね、二人とも』


「ふふっ、本当に、神様のように優しいですね」


「ま〜神様は事実だけどね〜」


 ――そして、この地で行われた戦いの7分の4は終幕を迎えた――

読んで頂きありがとうございます!

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