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第113話『感情を取り戻した少女』

 《適応(アダプト)》と《確率操作(フォーチュナム)》といった厄介な『異能力』を持つ、『第三位』レグナード・ロウ。


 攻撃の当たる確率を操作し、さらに受けた攻撃は二度と喰らわなくなるというバカみたいな『異能力』の持ち主。

 そんな彼を倒すには、一撃で沈めなければならない。


 しかし対峙するのは、『第一位』ソール・アスタリウスと『第十位』ヴァルク・オルデイン。残念ながら、二人とも決定打といった攻撃を持っていない。どうするべきか……。そう悩む時間もなく、レグナードは襲ってくる。


「ッ、危ない」


「避けるの? マジかよ。オレの攻撃を必中にしたのに」


「僕に最善の未来に向かってるからさ。それに、『異能力』は順位順に干渉力が強くなる。レグナードよりも、僕の方が優先されるからね」


 『異能力』は、順位が高い順に優先されるのだ。

 そのため、レグナードの《確率操作(フォーチュナム)》とソールの《未来の選択(オプティマム)》が発動すると、ソールの方が優先される。

 つまり、ソールへの様々な確率をいじることはできない。ならば――


「――まあ、俺の方来るよな」


「当たり前だよね」


 自分より順位が下のヴァルクを狙った。悪魔の力で強化された打撃は、簡単に岩をも砕く火力だ。

 それがヴァルクの腹を突き、強く押される。だが、そんなものでダウンするほど、ヴァルクは弱くない。


 レグナードの腕を掴み、詠唱する。


「フレイムスパーク」

 

 炎魔法が発動し、それが顔面へとぶち当たる。だが、もちろんそれは、


「《適応(アダプト)》」


 されてしまった。もう、ヴァルクからの炎魔法は喰らわない。ニヤリと笑みを浮かべ、悪魔の力で槍のようなものを作り出した。


 そして、ヴァルクの身体を一瞬で貫く。


 (さて、どうするもんかな?)


「――《時間反転(タイムリバース)》」


 すると、ヴァルクの時間だけが巻き戻り、少し位置がズレる。レグナードの背中に回ったヴァルクは、魔力を込めた左足で蹴りを放った。


「ヴァルク、腹突かれたけど大丈夫?」


「ああ。それも巻き戻ってる。どうやってあいつを倒す?」


「一撃で倒さないと、《適応(アダプト)》されるからね。僕が倒すよ」


「出来るのか?」


「うん。僕は『第一位』だから。任せてて」


◆◇◆◇


「はぁ、痛いじゃねえかよサフィナ。《亡者の印(グレイブ・シグル)》」


 サフィナの扇で切断された右腕を、過去に殺した吸血鬼の力で修復し、血液の刃を上空に設置する。


 刹那、右手に持つ扇を振り回し、雨のように降ってくる刃を粉々に切断した。


(怖いもの知らずだなこいつ……。あれ、フロリーレって対のはずだが――)


「《斥力の王(リペル・ロード)》」


 思考中のセルヴィを弾き飛ばし、抉れた地面に立ってその先を見つめるロエン。その隣には、両手を叩いて喜んでいるミレーナがいた。


「凄い凄い! そのままぶっ飛ばしちゃえー!」


「……いや、あなたも何かしてくださいよ!」


「あーしの『異能力』弱いもーん。仕方ないでしょー?」


 頑なに戦ってくれないミレーナだが、まあ彼女の言う通りではあるので否定はしない。

 この場にいる三人と比べたら、ミレーナの『異能力』なんて殺傷能力が全く無いものだ。

 

 しかし、【十執政】は実力主義。なのになぜミレーナのような子が『第五位』の席にいるのか。ロエンとサフィナも、彼女の戦いを見たことがないので分からないのだが。


「……まあ、良いです。私とサフィナで出来るだけ削って……。あれ? ミレーナ?」


 自分とサフィナでセルヴィを倒そうと考えたロエン。だが、彼が隣を見ると、ミレーナは居なくなっていた。

 そして――


「――っ!? なんだ!?」


 突然、セルヴィは上空に蹴り飛ばされてしまった。ロエンもサフィナも動いていない。となると、蹴ってきた相手は――


「ミレーナ……!」


「はーいはーいドーン!」


 ミレーナの声だけが響き、セルヴィは段々と上空に飛ばされていく。その姿を見て、ロエンは目を見開いた。

 が、何も見えない。当たり前だ。だって、彼女の『異能力』の一つは――


「――《透明化(インビジブル)》」


 自分の肉体も、身につけるものも全て透明にし、どんな方法を使っても視界に映らないようになるものだ。ただ、透明になるだけの『異能力』。それなのに、ミレーナが『第五位』にいる理由は――


「あっ、チッ……! クソが! どこだよ!?」


「遅い遅ーい! 『第四位』なんだから、あーしに苦戦しちゃったらダメでしょ?」


 ――姿は見えないが、分かる。おそらく、彼女は身体能力がめちゃくちゃ高いのだ。

 ただの身体能力で、空を自由に動き、目の前の戦闘を起こしている。


「お前強かったのかよ……。ま、いい。獣人」


 すると、セルヴィは今度は獣人の力を引き出した。それによって、感覚器官を高めることが出来る。目では追えない透明状態だが、空を駆ける音を聞き、匂いを感じ取る。

 そして――


「そこだ!!」


 一点を見つめ、右手を突く。だが、そこには何も居なかった。困惑するセルヴィの顎を、一撃が当たる。


「《透過(トランスパレンテ)》もあるんだからさ、喰らわないよ」


 彼女の二つ目の『異能力』である、《透過(トランスパレンテ)》。それは、あらゆる物理干渉をすり抜けられるようになるものだ。今回のように、セルヴィの一撃を交わすことも容易に出来る。


「チッ、面倒な女が……! なっ――」


「《引力の王(グラビティ・ロード)》」

 

 瞬間、ロエンのもとに引き寄せられ、魔力を込めた拳で頬を殴られる。そして、下から飛び上がってくるサフィナの『異能力』が発動した。


「《幻焔花界(エクリプス・ガーデン)》」


 左目を隠し、光った右目の瞳孔が花びら状に変化する。そして、フロリーレを振ると、大量の花の斬撃が軌跡を描き、セルヴィを囲んだ。


 いつものセルヴィなら、こんなもの、突進すれば突破出来た。だが生憎、今の彼には残機がない。『生と死の神』アリシアスのせいで、何度も殺されてしまったから。


「――っ、どうすれば……」


 ――瞬間、五感を錯乱させる花の軌跡は消え、接近するサフィナの扇がセルヴィを捉えた。


「これでおしまーい」


「――フッ、お前がな」


 ――次の瞬間、セルヴィから放たれた、悪魔の呪いによる力が、サフィナの心臓を貫いた。


 ――はずだった。


「え、ロ、エン?」


「――ッ…… 《斥力の王(リペル・ロード)》!」


 ロエンに邪魔をされ、弾く力で上空に飛ばされてしまったセルヴィ。


 それをしたロエン本人は、左肩に深刻な傷を負ってしまった。サフィナを守ることは出来たが、セルヴィの放った力はロエンの肩を貫いたのだ。


「だい、じょうぶ? ロエン?」


「……ええ、まあ。痛いですけどね。サフィナは怪我してないですか? してないなら良かったです」


 左肩を抑え、笑顔でサフィナの無事を心から喜んでいるロエン。

 だが、その笑顔は急に崩れた。


「あっ、うっ……!? これは……一体……?」


 痛みが全身を襲い、動けなくなってしまう。サフィナにしがみつきながら必死に呼吸をしていると、空から声が聞こえてきた。


「悪魔の呪いの力は、精神と魂を削る。力を使ってる俺は大丈夫だけど、これまでその力を使わなかったお前には、一定量が身体に入ったら毒になるんだよ。残念だったな」


 と、セルヴィが叫んだ。全身が燃えるみたいに熱い。さらに意識が朦朧とし、今にも気絶しそうだ。この毒を何とかする方法は――ない。

 治癒能力のある『水神』は消え、その力を引き継いでいる四つ子も、戦闘で忙しく、こちらに構う暇がない。


 苦しそうに悶えるロエンに、サフィナが囁いた。


「――ねぇ、なんで、ロエンはアタシのこと助けるの?」

 

 前も、いや、昔からそうだった。昔から、サフィナが危ない目に遭いそうな時は、ロエンかヴァルクが助けてくれた。

 

 生まれつき、感情が無かったサフィナは、そのことを隠すように誰にでも笑顔で、優しく接してきた。

 感情がないと周りにバレたあとも、幼馴染のロエンとヴァルクは変わらずに一緒に居てくれた。


 初めこそ、自分を庇ってくれる幼馴染のことを「痛そー」、「何してるんだろ」のようにしか思っていなかった。でも、共に過ごしていく内に、段々と、彼女の気づかない中で感情が生まれようとしていた。


 だが、肝心な、感情の蓋を開けてくれる人物がいない。開けて貰わないと、彼女の感情は外に出れないというのに。


「――ねぇ、なんで、ロエンはアタシのこと助けるの?」


 そうサフィナに問われ、ロエンは朦朧とする意識の中、必死に思考を巡らせる。どうして、自分とヴァルクは彼女を何度も何度も助けるのだろうか。

 ヴァルクはただ、サフィナに傷ついて欲しくないし、幼馴染だからだという理由だ。でも、ロエンはどうだろうか。幼馴染だから? 友達だから?



 ――いや、違うでしょう。私がサフィナを何度も危険から救うのは――


 ――そして、ロエンは長年その心に秘めていた思いを打ち明けることに決めた。


「――そう、ですね。私は、サフィナのことが……大好きだから」


「――は、っ!?」


 瞬間、ロエンとサフィナの頬が真っ赤に染まる。意識が朦朧とする中で、ロエンはサフィナの肩を掴んだ。


「……後は、頼みましたよ。サフィナ」


 ――そして、ロエンの意識は途絶えた。全身から力が抜けたロエンを抱え、サフィナはミレーナの元に飛んだ。


「サフィナ……」


「ミレーナ、ロエンを預かってて」


「どうするつもり?」


「アタシが終わらせるから。勝ったあと、ロエンに言いたいこともあるし。それに――」


 サフィナは自分の胸を右手で抑え、呟いた。


「アタシの心の蓋、開いてくれたから」


 ――そう言って、太陽のように明るい満面の笑みを浮かべる少女の心は、大好きな、大切な幼馴染によって開かれた。

 そして――


(――っ!? 速っ!?)


 これまでとは比べ物にならない身体能力を披露し、一瞬で空にいるセルヴィに距離を詰める。右手に持つフロリーレで花の斬撃を浴びせながら、セルヴィの全身を切り刻む。


 (こんな、馬鹿なことが……。『第八位』に『第四位』が負けることが、あってたまるか!)


 心の中でそう叫び、《亡者の印(グレイブ・シグル)》で過去に殺害した者の力を合わせて一気に襲いかかるセルヴィ。だがしかし、その攻撃はサフィナの扇で対処されるだけだ。


「――っ!! 鬱陶しい!!」


 (なんで、なんで俺がこんなに押されて――)


 表と裏の声で叫びながらサフィナの攻撃を受けるが、速すぎて防ぎきることができない。

 焦りながら、目の前の少女を見ると、これまで見てきたサフィナとは違う顔つきで動きが止まってしまった。


 (なん、だ、その顔は……)


 今まで無表情で扇を振っていたサフィナだが、今の顔には明らかに感情がある。ロエンをやられた憎悪のようなものだろうか。見たこともない顔に怯んでしまい、その一瞬を、サフィナは見逃さなかった。


「――っ、まだだ! まだ俺は――」


「じゃあね、セルヴィ」


 ――刹那、フロリーレが軌跡を描き、セルヴィの胸をザックリ切断した。

 そして、その身体は塵のように崩れゆき、消滅していった。


「終わったよ」


 抉れた地面でロエンを抱えるミレーナのもとに戻り、倒しきったことを伝える。まだ周りでは激しい音がして戦闘が止む気配が見えない。


「あーしたち、どこかの手助け行く? メイドの子たちのところとか行った方が良いんじゃない?」


「ううん。大丈夫だよ。あのメイドの――セレナちゃんにはこれを渡してるから」


 そう言って、サフィナは右手に持つ扇――フロリーレを見つめる。対のはずだが、今の戦いで一つしか使用していなかった理由。それは、片方をセレナに渡していたのだ。


「へー。考えたねー。やるじゃん」


「ありがと。ねぇ、ロエン」


 意識を失ったままのロエンに近づき、抱えてぎゅっと抱きしめる。


「アタシもロエンのこと、大好きだから。だから、まだ居なくならないで。もう少しの辛抱だから。頑張って」


 ――そして、【十執政】『第四位』セルヴィ・ミレトスとの戦いは、決着を迎えた。

 

 

読んで頂きありがとうございます!

次回、グレイス&エリシアvsレヴと、セレナ&エルフィーネvsルシェルです!

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