第109話『『魔王』の目的』
いつもより少し長いです
「魔族と吸血鬼のハーフって言ってたよね? そんな人が何したいの?」
『魔王』ヴァルザードと対峙しているアレスとセツナ。『魔王』を睨みながらセツナがそう呟くと、不敵な笑みを浮かべ、笑いが響いた。
「ハハッ、そうだな。俺にとって、いや、お前らにとってもいい世界になるかもしれんぞ?」
「何を言ってるのか理解できないね」
冷たくアレスが言い放つと、ヴァルザードは腕を組んで話し始めた。
「アズラエルに世界を壊してもらった後、吸血鬼、魔族、悪魔だけの世界に作り替えるんだ。それ以外の生命には絶滅してもらう」
「……そんな事して、一体何になるの? 人間や他の種族を消しても、いい事なんか何もないでしょ?」
「はぁ、お前らは平和ボケがすぎる。お前らは吸血鬼ということで魔法学園で差別を受けたことはあるのか?」
突然変な質問を投げかけられ、二人はポカンとしてしまう。
三百年前に四人の吸血鬼が事件を起こしたせいで、吸血鬼は殆ど淘汰され、四つ子はその血を引いていることを自分から話したことは無い。
それは、外に出れば差別されると両親が感じ、話させなかったからだ。
魔法学園に入学しても名乗ったことは無いが、『煌星の影』レオ・ヴァルディ=『第九位』レヴ・ダイナスのせいで生徒にバレてしまった。
だがそれでも、彼らを差別してくる人は居なかった。もちろん、吸血鬼だということに驚いた人はいたが。
「……いや、された事ないけど」
セツナがそう答えると、再び『魔王』は不敵に笑った。
「そうだろうな。王都でもない、人口の少ない村で育っても差別があるわけない。それに、お前らの住んでるあたりは吸血鬼が問題を起こしていないからな」
「なんでそんな事知ってるの?」
「ハハッ、決まってるだろ? なんせ……」
ニヤける口を抑え、ヴァルザードは言葉を紡いだ。そして、とんでもないことを口にしたのだ。
「その四人の吸血鬼は、俺の眷属なんだからな」
「……は? 一体、何のために……」
「さっき言った通りだ。他の種族を滅ぼそうとしたんだが、『剣聖』に『魔導師』にお前らの先祖に倒されてしまってな。上手くいかなかったんだよ」
吸血鬼は眷属にしたいと思った相手に血を与えれば、吸血鬼にすることが出来る。そして、それは純血だけでなくハーフである『魔王』にもできる事だ。
――ということは、元々人間の次くらいにたくさんいた吸血鬼が淘汰されてしまったのはこいつが原因ということになる。
「……それじゃあ、吸血鬼への差別が起こったのはあなたのせいって事だよね?」
「ああそうだ。そして、吸血鬼は殆ど消えてしまった。だから、そんな事をした他の種族を俺たちが消し去り、吸血鬼たちが住みやすいようにするのが俺の目的だ。どちらにせよ他種族を滅ぼそうとしたんだ。一石二鳥だろ」
「他種族を滅ぼそうとしたせいで、どれだけの吸血鬼が淘汰されたと思ってるの? もしかしたら、吸血鬼だってもっと普通に――」
「はぁ、うるさいな。折角教えてやったのに。十五年しか生きていない子供に、吸血鬼の生き方を諭されたくない。差別してきた種族を滅ぼせば良いじゃないか。それに、お前らは差別も受けずに平和に過ごせたんだから良いだろ?」
……言ってることがめちゃくちゃだ。こいつと話しているだけで頭がおかしくなる。
彼の言ってることを簡潔にまとめるならば、他種族を滅ぼそうと四人の眷属を生み出したが、それのせいで吸血鬼への差別が深まった。
だから、今度は差別してきた種族を八つ当たりで滅ぼせば、他種族も滅ぼせるし差別も無くなるし一石二鳥で良いだろう、と。
流石に無茶苦茶がすぎる。差別されるようになったのは彼が原因だというのに。そもそも、なんで他種族を滅ぼしたいのかが理解できない。
「そもそも、なんで他の種族を滅ぼしたいと思ったの?」
「え? うーん、なぜと言われてもな……。理由はない。他種族がこの世界に必要ないと思っただけだ」
理由もなく、他の種族を滅ぼそうと考えていたのか……。あまりにも身勝手だ。
「どうだ? 共に住みやすい世界を創らないか? お前らの力があれば、もっと楽に――」
「興味無い」
持ちかけられた提案をバッサリ切り捨て、ヴェルザードの後ろに回り込む。
――そして、セツナの一撃により、『魔王』は吹き飛ばされた。
飛ばされてゆく『魔王』の瞳には、『悪魔』エリゴスが映っていた。
◆◇◆◇
「あっ、クソ……。この血液、破れないな……。破れねぇ……」
セツナ達に敗北し、『異能力』を封じる血液で全身を縛られてしまった【十執政】『第三位』レグナード・ロウ。
なんとかして脱出しようと試みるが、出来ない。身体に負った傷が多すぎて力が出ないのだ。
ビクともしない血液を引っ張るが、ちぎれる様子はない。レグナードはロエンたちとは違い、あの方にしっかり忠誠を誓っている。
そのため、すぐにでも手伝いに行きたいのだが、まずはここから出なければ。
「無理か、力が……出ない……」
万事休すか、そう思っていると、二人の足音が近づいてくるのが聞こえた。扉の方を向くと、おぼつかない足取りでこちらに歩み寄る二人の男が視界に入った。
「ハハッ、酷いザマだな、レグナード」
「……お前には言われたくないけど。ボロボロじゃないか。残機はどうした?」
「全部削り取られた。何度も何度も、得体の知れない技で殺された。まあ、急に止まったんだがな」
全身が傷だらけの彼は『第四位』セルヴィ・ミレトスだ。『生と死の神』アリシアスらと対峙したが、最後は彼女の力によって残機が無くなるまで命を奪われてしまった。
そして今、彼の残機はゼロ。死んでしまえば、二度と生き返ることは出来ない。
「で、お前はなんで生きてるんだ? エリゴスが抜けたってことは、負けたんだろ?」
「《複製》って『権能』があってさ。殺した相手を部下として蘇らせる事が出来るんだけど。それを使って僕を蘇らせたみたいだね」
彼こそが『神龍オメガルス』戦で学園を襲った生徒であるルシェル・バルザーグだ。
ここ最近は『悪魔』エリゴスに乗っ取られていた彼だが、エリゴスが負け、『第一位』ソールに憑依したことでルシェルは自分の肉体を自分の意思で動かせる。
――ルシェルの肉体で敗北したエリゴスは、最後にこう呟いた。
『――っ。《複製》』
それと同時に肉体は崩壊し、新たな肉体が構築されたのだ。
「わざわざ復活させてくれるなんて、優しいところもあるんだな」
「優しいってか、あの方に仕える人数を減らしたくないだけだとオレは思うけど」
使った肉体は捨てるもんだと思っていた彼らからすれば、消えそうだったルシェルの肉体を復活させてくれたのは驚きだ。まあ、特に情がある訳では無いと思うが。悪魔だし。
「まあいいや。この血液切ってくれ。『異能力』を封じるモンだから、『権能』で頼む」
「えっと……それじゃあ……《手刀》」
ルシェルの生来の『権能』である《奪取》は、『権能』を奪い、蓄えられるものだ。その中から《手刀》を選び、素手でも鋭い切断能力を得た。
右手をレグナードを縛る血液に近づけ、縦に振る。すると、いとも簡単に切断された。
「さて、手助けに行くか。ルシェル、あれ使って」
「うん。《瞬間移動》」
――その瞬間、三人はこの空間から居なくなった。
◆◇◆◇
「オレは【十執政】『第三位』レグナード・ロウ。よろしくな、『剣聖』」
『剣聖』の一撃を受け止め、レグナードは『異能力』を発動する。
「《適応》」
――それは、ありとあらゆるものを切断できる『剣聖』の技を防げるようになる最強の手段だった。
再び、光の『神剣』セレスティアを振るアッシュだが、斬撃を与えられない。
――そう、一度《適応》を発動してしまえば、対象の攻撃は通らなくなる。一種の無敵状態なのだ。
「エリゴス、肉体がねえのか? てか、ソールとミレーナもあっちにいるじゃねえか」
肉体を持たず、紫色の粒子に成り果てた『悪魔』エリゴス。そんな彼をセルヴィは横目で確認し、『第一位』ソールと『第五位』ミレーナが向こう側についているのを見る。
「そんな目で見ないでよー。あーしはこっちの方が良いし。サフィナがいるもん」
「……僕は……」
ミレーナは特にあの方に忠誠を誓っていない。言ってしまえばあの方たちのために行動するにはやる気がないのだ。
だが、ソールはどうだろう。彼もあの方に救われた男だ。そんな彼が裏切るとは思えないのだが……
そう思うロエンたち。すると、ソールは言葉を紡いだ。後ろにいる、ロエンを見て。
「さっき、大量の化け物に会っただろ? 見間違いじゃなきゃ、あれは僕の故郷を襲ったのと同じだ。そして、僕がロエン達を助けた時も見た。あんな奴が、なぜあそこにいたんだろう」
先程、『魔王』と『破壊神』の石像にたどり着く前に視界に入った化け物たち。
それは、ソールの故郷を襲ったものでもあり、幼馴染の三人――ロエン、サフィナ、ヴァルクの村を襲ったのとも同じだ。
ロエンの話を聞き、グレイスとエリシアも顔を見合わせる。化け物を見た『知恵の神』アステナも、なにかトラウマにあったように焦っていた。
――この五人の故郷を襲った相手が、なぜ【十執政】の住処にいたのか。それがソールにとって気がかりだった。これまで【十執政】として活動してきた中では見たことがなかった。
彼の中に、嫌な推測が立てられる。それは――
「僕らの村を襲うように『魔王』様が細工したんだろ?」
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