第108話『『破壊神』にとっての正義』
――サフィナ・カレイドのフロリーレという対の扇が水平に軌跡を描き、【十執政】『第一位』ソール・アスタリウスの胸が斬撃を受けた。
血を垂らしながらゆっくり落下するソール。自分の命令で斬ってくれたサフィナに微笑み、全身から溢れる悪魔のエネルギーを掴む。
「ど、け……! 邪魔だ……!」
「や、めろソール……! 無駄な抵抗はやめ……」
「あぁぁ!! 退け!!」
今までで聞いたこともないような叫び声をあげるソール。そして、彼は体内から『悪魔』エリゴスを引っ張り出し、殴り飛ばしたのだ。
そのまま、彼は地面に落ちてゆく。このままでは頭から衝突し、命が危ない。
「《引力の王》!」
その時、ロエンに向かって引力が発生し、ソールは空に舞い戻った。
「ソール、なぜエリゴスに乗っ取られていたんですか? ルシェルに入っていたはずじゃ……」
「ルシェルは負けたんだろう。そして、僕の中に入ってきた。……あいつを信用してた訳じゃないけど、もう少し警戒するべきだったな」
これまで様々な肉体を転々としていたように、ルシェルの肉体で負けた後、『悪魔』エリゴスはソールを乗っ取った。しかし、今ここで無理やり外に出された。今度は一体、誰を乗っ取るのだろうか。
「あーしたちも気をつけないとね。サフィナ、大丈夫?」
「全然大丈夫ー。ていうかー、あいつの乗っ取れる対象が分かればいいんだけどー」
『第五位』ミレーナとサフィナが話していると、ソールが話に割り込んできた。
「僕の予想だけど、あいつは悪魔の力を使った存在に乗り移れる。ルシェルがそうだったし、僕も神との戦闘で悪魔の力を使ってしまったからね」
悪魔の力は、【十執政】全員が悪魔にかけられた呪いによる力だ。呪いと言っても、そんな恐ろしいものではない。
ただ、悪魔の力の一部を使用できるとかいうお得なものだ。反動もなく、強力な力が得られるのだから。
――だが、そんなうまい話があるわけなかろう。
「流石、ソールじゃないか。だが、少し惜しいな。俺が乗っ取れるのは、瀕死状態のやつ、そして、俺が決めた量以上の悪魔の力を使った存在だけだ」
空を浮く紫色のエネルギーに、人間のような実体はない。ソールの肉体から出されたエリゴスは、ただそうして浮き、次の標的を定めていた。だが……
「……チッ、お前らは乗っ取れる対象になんねえ。なんで俺の力を使わねえんだよ」
この場にいる、ロエン、サフィナ、ヴァルク、ミレーナは悪魔の力を使ったことがない。そのため、乗っ取れる対象にはなり得ない。
さらに、グレイス、エリシア、セレナ、エルフィーネも同様に対象にはならない。
(クソ……どうすれば……。あの四つ子を乗っ取れるわけもねえ、となると、レヴしかいない。――待て、『剣聖』はどこに――)
冷静に周囲を見渡すエリゴス。
何があったのか分からないが、『破壊神』、『魔王』と互角の戦いを繰り広げている四つ子を見る。……どう考えても乗っ取れるわけが無い。
この場にいる、悪魔の力を使っている存在は『第九位』レヴしかいない。彼の方を見ようとするエリゴスだったが、一人足りないことに気がついた。
――『剣聖』が、いないのだ。『破壊神』たちの方向に行ったのは知っている。だが、今見てもそこにはいなかった。一体、どこに――
「――後ろっ!?」
「僕の方が速かったね。もう逃がさない」
光の『神剣』セレスティアが縦に振られ、『悪魔』の身体を真っ二つに――できなかった。目の前には、邪魔が入っていたのだ。
「……君は誰かな?」
「オレは【十執政】『第三位』レグナード・ロウ。よろしくな、『剣聖』」
それは、セツナたちと戦っていた『第三位』だ。セツナが殺さずに血液で縛っていたのだが、もう抜け出してきたのか。
アッシュの振った剣を手で受け止めると、レグナードは呟く。
「《適応》」
――それは、ありとあらゆるものを切断できる『剣聖』の技を防げるようになる最強の手段だった。
◆◇◆◇
――真っ赤な空の下で、『破壊神』アズラエルとライン、レンゲが対峙している。分割された神の力を全て取り戻した『創世神』。
二人をじっと見つめ、アズラエルは右手に破壊のエネルギーを纏った。
「行くぞ、レン――」
両手に『創世神』のエネルギーを纏い、攻撃の準備をするライン。しかし、左腕の感覚が消えた。見てみると、切り落とされていたのだ。
「腕だけしか切れなかったか。威力が弱いのか、貴様が硬いのか。ん?」
瞬間、血液がアズラエルの全身を縛る。振り払おうとするが、何故かできない。よく見てみると、血液が白く光っていた。
――そう、『創世神』の力を流し込み、簡単には壊れないようにしたのだ。
身動きが取れないアズラエルに、兄妹の攻撃が入る。
「さすが、力を取り戻しただけの事はある。だが」
「――っ!? 危ない!」
何もしていない。そのはずだが、ラインとレンゲには命を脅かす何かを感じ取った。空間を圧縮し、後ろに逃げる。その瞬間、巨大な爆発音と共に空気が揺れた。
「なんだ、今の――」
――ラインの目の前には、既に『破壊神』が迫っていた。破壊のエネルギーを纏った右手に殴られ、下に飛ばされてしまう。
「チッ! ――っ!?」
体勢を立て直そうとするが、アズラエルは目の前にいる。弾丸のように飛ばしてくる破壊のエネルギーを、『創世神』の力を混ぜた血液で粉々にする。
「貴様たちでは俺に勝てない。力も、経験も全て俺の方が上だ。たった十五年しか生きていない貴様らなど、俺には及ばない」
「ラインお兄ちゃん!」
助けに入ったレンゲごとラインを蹴り飛ばし、彼の目の前に接近する。
今、ラインは『生』の力を出していない。そのため、触れられたら破壊されてしまうのだ。アズラエルの右手はもう、顔に――
『私にだって、君を助けるくらいは出来るんだよ?』
その瞬間、声が聞こえた。すぐに姿が脳内に思い浮かんだ。白銀の髪と瞳を持つ、神秘的なあの女神の事を。
その声が幻聴だったのか、はたまた遥か彼方から呟かれたものなのかは分からない。
――刹那、ラインの目の前を真っ白な光が包んだ。無意識に手を伸ばしそれを掴むと、白銀の斬撃が起こった。
斬撃は近づくアズラエルの両手を切り落とし、念動力で吹き飛ばした。
「……何だ? その剣は。……『知恵の神』だな?」
その質問には答えず、真っ白な光とともに一閃が放たれた。切断された腕を再生し、一閃を防ごうとした『破壊神』。しかし、防御は意味もなく突破された。
(……消えた?)
『空間の神』の力で離れた所へ瞬間移動し、『時間の神』の力で、自分の動く時間を加速させ、アズラエルの後ろに回り込む。
(後ろに……。――っ!!)
ラインの方を向くアズラエルだが、再び後ろから殺気を感じた。
――ラインとレンゲに挟まれてしまった。どちらも、自分と対になる創世のエネルギーを纏い、世界の破壊を目論む自分とは全てが対照的だ。
『創世神』アルケウスと同じで、世界を守るために『破壊神』を倒そうとする四つ子。
世間体から見れば、どう考えてもこの世界を滅ぼそうとしている『破壊神』は悪、そして、救おうとしている『創世神』は正義だ。
そんなことはアズラエルにも分かっている。でも、それでもアズラエルは止まれない。
『破壊神』としてこの世に誕生した限り、彼は何もかも、全てを滅ぼさなければならない。それが、彼に求められた使命なのだから。
「俺は、俺の使命を果たさなければならない。貴様らにとって俺たちが悪だろうが、俺にとっての正義は破壊だ。それに、破壊なくして創造はないだろう」
「……ッ! だとしても――」
破壊のエネルギーが周囲を覆い、ラインとレンゲを倒そうとする。だがしかし、それより先に『破壊神』アズラエルは夢の世界に引き込まれた――
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