第98話side5『『第一位』の過去と『悪魔』』
いつもより長いです。
――『第一位』ソールによって引き起こされた大爆発が部屋を包み込み、まともに喰らってしまったアレスは地面に倒れてしまう。
一方の『時間の神』、『空間の神』、『法則の神』。彼女らは喰らう前に時間を巻き戻したり、空間をいじったり、確率を変更したりして乗り切ったようだ。
「あ、ちょ、貴方が倒れたらダメだって」
倒れたアレスに触れ、肉体の時間を巻き戻すアスタリア。その一瞬でソールは前に進んだ。
悪魔のエネルギーから紫色の剣を作り出し、水平に軌跡を描く。すると、紫色の斬撃が飛ばされたのだ。
だが――
「――なっ。何が――」
アスタリアの金色の瞳が一瞬光り、この部屋内の時間が巻き戻ったのだ。何が起きたか分からず、戸惑っていたソールにスピリアの打撃が入った。
「どこにいても攻撃が当たるのか……。厄介すぎだ」
どれだけ距離が離れていようとも、スピリアの攻撃を避けることは出来ない。空間を圧縮し、当てているのだから。
それほど威力は高くないが、このまま遠距離で殴られ続けるのは邪魔だ。そのため、ソールはスピリアから潰すことにした。
悪魔の力を両足に溜め、脚力を上げる。そして――
「へぇ、そんな高くまで飛べるんだ」
「うわぁ……僕の方に来ないでよ」
スピリアのもとまで飛んだソール。そして紫色の剣を水平に振り――
「っ!? 速っ」
「僕はワープさせられただけだよ。はぁっ!」
スピリアによって、彼の目の前に瞬間移動させられたアレス。目を見開くソールに容赦ない蹴りを浴びせ、地面に叩きつける。さらに――
(――っ!? 血液!?)
地面から血液の刃が生え、ソールを身動き出来ないよう縛ったのだ。
さらに、血液の刃を大量に生成し、一気にソールに投げ飛ばす。その瞬間――
「――《反射》」
「っ!?」
飛ばした刃全てが反射され、アレスに返った。即座に反応し、腕を構えて防ぐことが出来たが、既にソールは後ろに回っていた。
(ここで一人抑えられれば――っ!?)
紫色のエネルギーを右手に集め、アレスに放出しようとした。しかし、血液の刃がソールの目の前に現れた。
血液の刃を投げた様子はなかった。それなのに、それはソールの目の前に来たのだ。
「――っ!? 危なかったね……」
後方に移動し、視線をずらす。だが、アレスはそこにいない。
(どこだ!?)
「《拘束》、《切断》、《虚構の創作》」
瞬間、後ろから声がした。アレスが『権能』を発動させたのだ。透明な鎖がソールの四肢を縛り、不可視の斬撃で切り刻まれる。
さらに空中に刃を描き、飛ばす。
「――っ!」
《反射》でそれを退け、悪魔の力で身体能力を強化する。そして――
「――っ」
アレスを地面に蹴り飛ばし、ゆっくりと降りてきたのだ。
「はぁ、はぁ……。まだ一時間も経ってないんだ。ここを進ませる訳には……」
悪魔の力を使った影響だろうか。右手は紫色になっていて、呼吸も荒くなっている。そこまでして、『魔王』達を守る理由は何なんだろうか。
「……貴方はどうしてそんなになってまでアレを守るの?」
「……」
アスタリアに尋ねられるがソールは無言を貫く。だが、アスタリアたちも無言だ。
――しばらくその時間が続いた。すると、ソールはため息をつき、重い口を開いた。
「……僕は昔、『魔王』様に救われたんだ」
と、ソールは呟いた。
◆◇◆◇
――およそ四百年前、ソール・アスタリウスはただの平凡な子供だった。
強靭な肉体も、優れた魔法の実力も持っていない。毎日毎日、つまらない生活を送っていた。
「……はぁ、つまんないな。何もないし」
レガリア王国のある村に生まれた彼だが、この辺りには本当に何も無い。子供たちが唯一遊べるものといえば、近くの森くらいだろうか。
さらに、子供の数も少ないため、ソールはほとんど一人で過ごしていた。
森の木に登り、ただぼーっとするだけ。今日も変わらず同じことをしていた。
――陽が暮れ、空が赤く染まる。そろそろ帰らないと両親が心配するだろう。そう思ったソールは村に向かい、ゆっくりと歩く。
しかし、村に近づくにつれて熱気が身体を覆ってくるのだ。今日はそこまで熱くないはずなのに、汗が止まらない。袖で拭いながらも歩き続けていると、その瞳にとんでもないものを確認してしまった。
「――これは」
村が炎で包まれていたのだ。木や肉の焼けるような匂いが広がり、鼻につく。
吐きそうになりながら必死に口を抑え、家まで走る。しかし、家は全焼。跡形もなかった。呆然としていると、後ろから声をかけられた。
「あれ、子供か。こいつであってんのか?」
「――っ!?」
後ろにいたのは、人でも吸血鬼でもなんでもない。ソールの知らない種族の化け物だ。その手がソールに触れそうになる瞬間、彼の全身を紫色の光が覆った。
「眩し!? なんだ!?」
「これは……」
目を覆う化け物に対し、紫のエネルギーが炸裂する。すると、化け物は唸り声を上げながら消えてしまった。腰が地面に落ち、唖然としていると、知らない空間に飛ばされてしまった。
「ん……ここは……」
冷たく、暗い空間だった。吐いた息が白くなるほどの寒さ。ゆっくり立ち上がり、周りを見渡す。目の前にある巨大な石像と目が合った。
恐怖……というよりも、驚愕の方が大きい。村は燃え、自分はこんなわけの分からないところにいる。夢なのかと思って顔を叩くが、夢では無いことを悟る。
唾を飲み込み、じっとしていると、石像から声が聞こえた。
「やあ。危ないところだったじゃないか」
「……あなたは?」
「私は『魔王』だ。あのままだとお前も殺されていたな。私に感謝するのだ」
「あ、ありがとう……ございます?」
◆◇◆◇
――そういうわけで、ソールは【十執政】『第一位』となり、あの方たちのために働いて来たのだ。
「――とまあ、軽く話せばこんな感じか。だから僕はあの方たちが困らないように、ここで食い止めないといけない」
「――あのさ」
ソールの口から話された過去を聞き、アスタリアは腕を組んでいた。そして、顔を上げると奥にある扉を指さす。
「貴方が言ってる化け物ってあれのこと?」
「え? ――っ!? な、なんで……?」
部屋の扉が少しだけ開き、そこから数体だけ化け物が出てきていたのだ。そしてそれは、ソールの村を襲ったのと同じ。冷や汗をかき、足を震わせる。
すると、化け物のうちの一つから声がした。
「あーいたいた。まだ負けてなかったな」
「その声……まさか――」
その瞬間、言葉を話した化け物は地面に倒れ――
「あ、う……あぁぁぁ!!」
ソールが突然叫び出した。全身から紫色のエネルギー、即ち、悪魔の力が放出される。苦しむソールの声が空間を響き、地面に膝を付いて倒れる。
「な、何が起こってるの?」
苦しむソールを見つめ、アスタリアがつぶやく。何が起きているのか分からない。ただ、目の前の出来事を見ることしかできずにいた。
――そして、ソールはようやく起き上がった。しかし――
「ハハッ、ハハハッ! どうやら上手くいったみたいだな。ようやく、この身体を俺のものに!」
どちらかというと理性的だったソール。しかし、今の彼はどう見ても危険な人物だ。突然笑いだし、右手を空に掲げて嬉しそうに叫んでいる。
意味がわからず、顔を見合わせるアスタリア、スピリア、ファルネラ、そしてアレス。そんな四人を見たソールはニヤニヤしながら言葉を紡いだ。
「改めて自己紹介しようか。俺は『悪魔』エリゴス――」
「違う! 僕だ!」
ソールの声が被さるように叫ばれた。右手が左手を掴み、何やら一人で争っているように見える。
「あれ何やってるんですかね? 芝居ですか?」
「そうは見えないよね。『悪魔』エリゴス? って名乗ってたし」
ファルネラとスピリアがそう話している最中も、一人で暴れているソール。無闇に手出しも出来ずにいると、再び叫び声が聞こえた。
「僕の中から居なくなれ! 消えろ!」
「うぅっ!? 俺の力を結構使ったし、そろそろ行けると思ったんだが……なぁ!!」
全身から悪魔の力を放出し続け、フラフラしながら叫び続けている。その声質は同じだが、全く別の存在が話しているような話ぶりだ。演技にしてはできすぎている。
「黙って……消えろ!」
――瞬間、全身から放出されていたエネルギーが一気に収まった。そして、ゆっくりとこちらを振り向き、彼は言った。
「ふぅ、取り乱したな。俺は『悪魔』エリゴスだ。さっきまで『第二位』を乗っ取ってた存在――って言えば分かるか?」
ソールの意識はもうなかった。今の彼は、『悪魔』エリゴス。
アッシュの父親、ルシェルと続いて、今度はソールを乗っ取ったようだ。
「ソールに悪魔の力を使わせてくれたことに感謝するぜ。って訳で、じゃあな!」
「っ!?」
紫色の霧が部屋を包み込む。この霧は神である四人には無意味なものだったが、視界を一時的にでも邪魔するのは効果あったようだ。
――霧が晴れると、そこには誰も居なくなっていた。
「逃げた……んですかね?」
「だろうね。……気にしてる暇は無いね。急ぐよ」
――そして、四人は『魔王』と『破壊神』の像がある所に行くため、部屋から飛び出した。
「あーもう邪魔邪魔!!」
「邪魔です! 消えてください!」
迫る化け物を次々と潰すアスタリアとファルネラと、その後ろを走るアレスとスピリア。
そんな中、アレス以外の三人は全く同じことを考えていたのだ。
(((この化け物、アステナの村を滅ぼしたのと同じ?))ですね)
ソールの話を信じるなら、この化け物は彼の村も滅ぼしたそうだ。彼とアステナの住んでいた村は全く別の所にある。関係など無いはずだが、どうして化け物たちが出たのだろうか。
(考えてる場合じゃないね)
心にそう言い聞かせるアスタリア。そして、四人は進み続けた――
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