第97話side4『『知恵の神』のトラウマ』
――四方八方を囲んだ血液の刃。それらを炎魔法で一掃し、手を払う。
「容赦ねえな。ブーストリア」
そして、『第九位』レヴは瞬発速度を上げる魔法を使った。高速移動が可能となり、ラインに接近する。
「――っ」
「ハハッ、どうした? 俺相手に力が出せないのか? こりゃ好都合だな」
嘘をつき、レンゲを攫ったレヴ。許せない存在だが、これまで友達としてやってきたことは事実だ。攻撃する度に戸惑いが現れ、上手く戦えない。
それで生まれる隙をレヴは的確についてくる。そして――
「うっ!? 身体が……」
「お前は気絶しないのか? 妹の方は油断してたし効きやすかったのか」
教室でレンゲを攫う時に使用した黒い玉。それは、吸血鬼に対して気絶させるほどの電撃を与えるものらしい。だが、油断している訳ではなかったラインは身体を動かせなくなるだけで済んだ。
「吸血鬼の弱点は心臓だろ? 初めて戦った時、俺もお前に心臓を貫かれたな」
昔話をするように呟き、ポケットからナイフを取り出す。それで心臓を一突き――出来なかった。
「――っ。グレイス。邪魔だな」
「邪魔はお前だ。とっとと失せろ」
ナイフは《無敵》の『権能』で無敵状態のグレイスに防がれ、遠くに蹴り飛ばされてしまう。
飛ばされたレヴは体勢を立て直し、グレイスを見つめる。
「悪いが俺はこいつみたいに友達に手を出せないとかねえからな」
「そう言って、どうせ手が止ま――」
「止まんねえよ!」
俺は友達に容赦なく攻撃を浴びせられる。そう豪語するグレイスを信じられないという目で見ていたレヴ。だが本当に、グレイスの蹴りが顔に入った。容赦ない一撃だった。
「痛っ。意外だな。お前はこういうの出来ないと思ってたが」
「親友だろうがバカみたいに攻撃してくる奴がいるからな! 『剣聖』っていうんだけどな!」
グレイスが無敵なのをいい事に、アッシュはいつもグレイスに容赦ない攻撃ばかりする。それに対抗するように彼もアッシュに容赦なく魔法を撃つようになったのだが、まさかその経験が今役立つとは。少々複雑な気持ちだ。
「インフェルノ!」
炎魔法を詠唱し、火柱が上がってレヴを囲む。続けて水、雷魔法が詠唱され、水のビームと電撃が放出される。
しかし――
「《覇王の支配》」
レヴの『権能』が発動し、視界に入ったそれが操られ、グレイスに――否、立ち止まったままのエリシアに向けられた。
「え!? ちょ、待って」
「待たねえよ」
グレイスの出した水、雷魔法は本当なら弱いものだ。そのため、防御魔法を展開すれば簡単に防げる。
しかし、それを撃ったのが『魔導師』グレイス。そのせいで火力が格段に上がってしまう。
レヴに撃ったそれが容赦なくエリシアに返されたのだ。
「――っ」
防御魔法を展開したが、おそらく破られてしまう。目を閉じたエリシアだったが――
「痛っ。君、危ないだろ?」
なんと、アステナがそれを手で受け止めたのだ。当たった右手を振り、レヴを睨む。
「へぇ。お前よく手だけで受け止めれたな」
「誰がそれに魔法を教えたと思ってるのかな? これくらい止められるに決まってるよ」
「それって言うなそれって」
「うるさいな。それどころじゃないだろう?」
現在はファルレフィア邸に住んでいるアステナだが、以前まではグレイスが生まれる前からエヴァンス邸に住んでいた。そのため、彼に魔法を教えたのは彼女だ。もちろん、グレイスの魔法を受け止める事が出来る。
魔法を受け切ったアステナを感心したような顔で見つめるレヴ。立ち止まっていると、横から蹴りが入った。
「チッ。もう動けんのか? めんどくせえな」
両手から水、炎魔法を出し、ラインの打撃を次々と防ぐ。ラインと戦うのはめんどくさい。そのため、先程動けなくした時に他三人を倒すべきだったと後悔するレヴ。
彼は溜息をつくと、『権能』を発動した。
「《獅子の咆哮》」
それは、一時的に驚異的な身体能力を得るものだ。跳躍力が上がり、空に飛んだ。
「サンダークラッシュ、エアブレード。《覇王の支配》」
魔力を雷、風属性に変換し、落雷と真空の刃が同時に放たれた。さらにそれを『権能』で視界に収め、ラインに向けて飛ばした。
「――っ!? なんだ!?」
しかし、突然コントロールが出来なくなり、魔法は壁に衝突する。さらにレヴは地面に落下してしまったのだ。
それを行ったのは――
「《封界の楔》」
セレナ・クラヴィールの『権能』を使った。結界に包まれたこの空間内では、ラインが選んだ相手以外の魔法、『権能』使用を行使できなくなってしまう。そして、レヴはこの影響を受けてしまったのだ。
「シャドウ・エクリプス」
その瞬間、レヴが闇魔法を詠唱した。包んだ相手の五感を一時的に奪い、意識を失わせる魔法。だが、もちろん《封界の楔》のせいで発動できない。そう思っていたラインだったが――
「なっ!? これは……」
「見た事あるのか。クロイツがしてたんだし」
突如、悪魔の力によって紫の霧が一面に広がり視界が曇る。闇魔法を詠唱してブラフをかけるとはよくやったものだ。
しかし神であるラインとアステナが喰らわないのはクロイツとの戦闘で分かっている。ならば、なぜ彼はこれをしたのだろうか。
「っ!」
手を上に掲げ、真っ白な光が霧を消し去る。すると目の前には――
「なっ……あいつ、どこに……」
レヴはいなくなってしまった。逃げたのだ。まさかの出来事に放心状態になっていると、部屋の扉が空いているのが見えた。
「あいつ、逃げたのか!? 嘘だろ!?」
「お前ら大丈夫なのか? 今の霧を喰らったら気絶するらしいけど」
「《無敵》使ってるからな。大丈夫だった」
「私も大丈夫。グレイス君が近くにいたらなんか大丈夫だった」
どうやら、まだ無敵状態だったグレイスは大丈夫だったらしい。また、無敵の彼が近くにいたのでエリシアも無事だったようだ。
「どうする? 追いかけるか?」
「……いや、レンゲを助ける方が先だ」
逃げたということは、まだ何かするつもりだ。だが、今は少しの時間でも惜しい。一刻も早くレンゲを助け、石像を壊さなければ。
四人は外に出ると、すぐに暗い空間を炎魔法で照らす。すると、目の前に大量の化け物が広がっていたのだ。
「なんだよこいつら……。人? じゃない。なんなんだ?」
人でも吸血鬼でもエルフでもない。ラインの知らない生命体だ。こんな所にいるということは『魔王』たちの刺客だろう。構っている暇は無い。
「なんだこいつら。全員ぶっ飛ばせばいいか」
「ああ。行くぞ――。え?」
血液の刃を生み出すラインと、魔法を詠唱するグレイス。二人の後ろで、バタっと倒れた音が響いた。すぐに振り向くと、倒れていたのはアステナだった。
「あ、う……。ら、ライン……君……。たす、助けて……」
「アステナ!? どうした!?」
いつも落ち着いている『知恵の神』から発せられたとは思えない声。それは、まるでトラウマにあったかのような恐怖している声色だった。
優しく抱きしめ、背中を撫でるライン。少しはマシになったようだが、顔には汗が流れ、綺麗な顔が真っ青になっている。
化け物達に攻撃でもされたのだろうか? いや、そんな感じは無い。なら、一体彼女は何をこんなに怖がっている?
ラインは思考を巡らせるが、答えにはたどり着かない。
「ら、ライン君……ライン君……」
ラインの手を握りしめ、荒い呼吸が段々と落ち着いてくる。
「大丈夫か? 何かあった?」
優しい声でラインは尋ねる。すると、アステナは彼の顔を見て、一瞬困った顔をする。
――無言の時間が少し流れ、アステナはようやく口を開いた。
「君には話したことなかったけど……私の村は滅ぼされたんだ。数えられないほど昔にね」
「アステナ? 何の話――まさか」
突然昔話を始めるアステナに疑問を抱きつつも聞く姿勢を見せるライン。だが、すぐに彼女が怖がっていた理由がわかった。
「……そう。その化け物たち、同じなんだよ。私の村を滅ぼした奴らと」
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