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第1話 『創世神と吸血鬼の血を継ぐ者』

創世神と吸血鬼のハーフとして生まれた4つ子が聖煌魔法高等学園に入学する。四つ子とその仲間が切り開く未来の物語が始まる──


――いつもとは違う朝、ファルレフィア家の屋敷で赤髪と緋色の瞳を持った男――ラインは目を覚ます。


 創世神が、生まれた者に『権能』という特殊な異能を与える世界で、この男は創世神と吸血鬼のハーフという、特殊な家庭で生まれ育った。


 自室から出て、朝食を取りに行く。すると、ラインとそっくりな顔をした三人が既に椅子に座っていた。


「おはよう兄さん」


「おはよ。遅いじゃん」


「おっはよーラインお兄ちゃん!!」


 彼らは、ラインと四つ子として生まれた次男のアレス、長女のセツナ、次女で末妹のレンゲだ。

 椅子に座ると、末妹のレンゲが話しかけてくる。


「今日から魔法学園に入学か〜ドキドキするね! どんな人が来るのかな?」


「どうなんだろうな。凄い魔法使いとか来るんじゃない? ていうか、自己紹介の時に余計なことは言うなよ?」


「うん! お父さんとの約束だし!」


 約三百年前、四人の吸血鬼が起こしたある事件により、事件に関係がない吸血鬼も忌み嫌われる存在となった。そのせいで、現在殆どの吸血鬼は淘汰されてしまいった。


 最近は、差別がかなり減ってきた方だが、吸血鬼という存在を忌み嫌う者は世の中に多く、ラインたち四つ子は安易に他人に吸血鬼の血を引いていることを明かさないようにしていた。


 四つ子は、『創世神』の血を引くことを他人に言うことが禁止された理由を正直よくわかっていない。しかし、特に文句もないため素直に従っている。


 ゆっくりとパンを口に運んでいると、時計を見て焦った表情を浮かべたセツナが、廊下から叫んだ。


「ちょっとみんな急いで! 時間ないよ!!」


「あ、本当だ。じゃあ準備しようか、兄さん」


 セツナの声に反応し、三人は急いで食事と準備を終え、屋敷の扉を開ける。


ギィィィ…


 ゆっくりとまばゆい朝日が入ってくる。四人は目を瞑りながら、屋敷の外に足を運んだ。


「げっ……今日日差し強いじゃん、最悪。お兄ちゃん盾になってよ」


「お前な……まあいいけどさ」


 吸血鬼の四人には、日差しが強い今日は少々体調が乗らなかった。だが、入学式の日に休むわけにもいかないし、何より魔法学園を楽しみにしていた。


「ほらー! 早く早く! 遅刻しちゃうよ!」


「あんた元気すぎじゃない?」


 兄と姉がだるそうにゆっくり歩くのに対して、レンゲはニコニコしながらスキップをしている。流石に対照的すぎて、本当にこの三人と同じ血を引いているか疑いたくなるが、彼女はれっきとした末妹だ。


 五分ほど早歩きすると、ようやく聖煌魔法(せいこうまほう)高等学園(こうとうがくえん)が見えてくる。

 巨大な広さの土地に大きな校舎が立っていて、その周りを木や何かの魔法に囲まれている。

 これが、この国――レガリア王国最高峰の魔法学園なのだと改めて再認識することとなった。


◆◇◆◇


  入学式が終わり、生徒たちはそれぞれのクラスの担任について行く。体育館から教室に移動する廊下で、ラインとセツナが顔を合わせた。


「俺たち同じ組だったな」


「久しぶりだよね。全員が一緒になれたの」


 四つ子の持つ赤毛と緋色の瞳と際立つ美貌は、周囲の視線を集めていた。顔が似ていることもあり、これまでの学校ではクラスはほぼ別々だったため、四人が同じクラスになるのは珍しいことだった。


キーンコーンカーンコーン!

 チャイムが鳴り、全員が席に着く。すると、若い男の担任教師が柔らかな笑顔で言った。


「みんな初めまして。入学おめでとう。俺はカイラス・ヴァルディだ。担当は魔法だからみんなと一緒に授業をすることになる。よろしくな」


 その自己紹介にクラス中で拍手を贈る。


「じゃあ、みんなにも自己紹介してもらおうか。そうだな……名前と『権能』を教えてくれ。順番は適当でいいぞー」


 そうして、どんどん自己紹介していき、やがて四つ子の番になった。


 立ち上がったラインは、背筋をピンと伸ばし、落ち着いた声で言った。


「初めまして。ライン・ファルレフィアです。『権能』は…《創造》と《破壊》です。よろしく」


 続いてアレスが立ち上がる。彼は言葉少なに、


「アレス・ファルレフィアです。『権能』は《未来予知》と《時間停止》です。よろしくお願いします」


 と、簡潔に述べた。


 セツナは優雅に立ち上がり、肩までかかっている赤い髪を軽く掻き上げながら言った。


「はじめまして。セツナ・ファルレフィアです。私は《創造》と《切断》を持ってます。よろしくお願いします」


 最後にレンゲが弾むように立ち上がり、満面の笑顔で言った。


「はじめまして!レンゲ・ファルレフィアです!私は……えっと……《早駆》と《復元》を持ってます!仲良くしてください!」


 クラス中から大きな拍手が寄せられた。


 みんなの自己紹介を聞いていくと、他とは違う雰囲気を持つ、青みがかった銀髪の少年が自己紹介を始める。


「始めまして。アッシュ・フェルザリアです。僕の『権能』は《超加速》と《空間操作》です。僕は魔法よりも剣の方が使えるんですが、仲良くしてください」


 そうして、次の銀髪の少年も自己紹介を始める。


「始めまして。グレイス・エヴァンスだ。『権能』は《無敵》と《虚無の防御(きょむのぼうぎょ)》を持ってる。あとはそうだな……俺は『魔導師』だから魔法の事はなんでも聞いてくれ。よろしく」


(フェルザリア……『剣聖』の家系か。もう1人のエヴァンスは『魔導師』の家系か。凄いな)


 と、ラインは心の中で思っていた。


 ライン達は吸血鬼の貴族であるファルレフィア家の者だ。正体が吸血鬼だと知られたくないにもかかわらず、ファルレフィアの家名を名乗れるのは、この家名が吸血鬼の貴族のものだと知っているのが『剣聖』と『魔導師』の家系、そしてレガリア王国の王家だけだからだった。


 ということは、この2人にも正体は知られている可能性がある。


――クラス中の自己紹介が終わり、放課後を迎えた。教室を出ようとするラインの袖をレンゲが引っ張った。


「ラインお兄ちゃん!私もう友達できたよ!!」


 飛び跳ねるようにして報告するレンゲ。兄妹の中で一番明るい彼女は、持ち前のコミュニケーション能力で昔から誰とでもすぐに友達になることができていた。


 ラインは妹の頭を優しく撫でながら言った。


「良かったな。てか今日入学祝いするんだろ?早く帰らねえと」


「あ!!そうだった!!」


レンゲは目を見開いて驚く。アレスとセツナは先に帰っていたため、ラインとレンゲはすぐに帰る支度をした。


◆◇◆◇


 ラインたちは現在、吸血鬼である母親が代々引き継いできた古城のような屋敷に住んでいた。急いで帰ると、広間には既に母親と父親の姿があった。今日の祝賀会を開こうとしたのはこの二人だった。


 母親のルナミアは長い赤い髪を背中に流し、永遠の若さを保つ美しい吸血鬼だった。彼女は手を叩いて言った。


「帰り遅いじゃない二人とも。早く早く!!」


 ラインは「そう急かすなよ…」と呟きながら、レンゲと共に急いで着替えて食卓に向かった。


 食卓には既にアレスとセツナが座っており、豪華な料理が並んでいた。父親のアルケウスは『創世神』としての威厳を漂わせながらも、優しい笑顔で言った。


「四人とも、入学おめでとう!!」


その言葉に四つ子はそれぞれに感謝を述べた。ルナミアは興味深そうに尋ねる。


「友達はできたかしら? 確かあなた達のクラスには『剣聖』の子と『魔導師』の子がいたはずよ」


と尋ねる。


「ああ、自己紹介でいたよ。それがどうしたの?」


「前も話したと思うけどわるーい吸血鬼を倒したのがうちの家系とそのふたつの家系の人達だったんだよ」


 とルナミアは独特の話し方で説明した。


「やっぱりレンゲは母さん似だな……」とラインは思わず呟き、それを聞いたアルケウスは微笑んでいた。


「お前たちも今日から魔法学園生だ。これまでは私たちがいないと危ないこともあったがもう大丈夫だろうと私とルナミアは考えた。そこで……」


「そこで……私とお父さんで夫婦旅行に行きます!!」


 アルケウスの話に乗っかり、ルナミアがそう言う。


「はぁ!? 急すぎるだろ!?」


ラインは驚きのあまり椅子から立ち上がってしまった。兄妹たちも驚いた表情を見せていたが、レンゲが落ち着いて尋ねる。


「お母さん、どこに行くとかは決まったの?」


「初めはこの世界を旅行するわ。それが終わったらお父さんの力で別の宇宙にも行くつもりよ」


 と、ルナミアは当然のように答えた。


「どんなスケールの旅行だよ……」


 ラインが呆れたように呟いた。旅行のスケールがあまりにも壮大すぎて、四つ子は驚くことしかできなかった。


 そうして祝賀会は終わり、ライン達が寝た夜中に両親は何の前触れもなく旅行に出発していった。


◆◇◆◇


  翌日の魔法の授業の時間、チームを作り外で実習を行うことになった。広い校庭に生徒たちが集まり、それぞれグループを作り始めていた。


(とりあえず『剣聖』と『魔導師』に話しかけるか)


ラインとアレスは視線を交わし、昨夜母親が言っていた『剣聖』と『魔導師』の子に話しかけに行くことにした。


 青みがかった銀髪を持つ、特徴的な少年に向かって、ラインが声をかけた。


「ねえ、チーム組まないか?」


その少年は昨日の自己紹介でアッシュと名乗った『剣聖』だ。


「うん、もちろんいいよ。魔法に関しては隣のグレイスもいるから」


「ああ、ありがとなアッシュ君」


そうラインが礼を言うと、アッシュは首を振った。


「呼び捨てでいいよ。ライン、アレス」



――こうしてラインたちの学園物語が幕を開ける。

未知なる冒険と友情の物語が、聖煌魔法高等学園から始まろうとしていた。

読んでくれてありがとうございます

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― 新着の感想 ―
自己紹介で権能も、ってのは斬新だと思いました。 魔法がある世界で宇宙旅行があるのは読んだことがないので、この先がとても気になります。 少しずつ読み進めて行きますね~。
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