第7話 草食獣人
ライ達三人が黎明都市の入り口手前に差し掛かった時、
道から少し離れた所で泣き声がし足を止める。
視線の先には草食獣人の二人がいるが一人は、地面に
倒れておりもう一人は、何やら慌しそうにしている。
「どうしたんだ?」
レオが話しかけると、草食獣人は腰を抜かし転けてしまう。
「肉食、獣人!!」
後ろに倒れている多分、妹だろう女の子を
背中に隠して威嚇する。
「離れろ!!」
「驚かせてごめんね!!だけど危害を加える気はないよ!!」
「そうよ、落ち着いて、」
「いいから離れろ!!妹に近寄るな!!」
モルとライは必死に説得するが、草食獣人の少年は
臨戦体制に入ってしまっており全くもってこちらの
話を聞かない。やむ追えずモルはフードを脱ぐと、
少年と視線を合わせるため膝をつく。
「て、天人様、」
目隠しをつけた状態でも、特徴的な白い髪で
気づいたようだ。
少年はギョッとした顔で固まってしまう。
「訳あって肉食獣人と黎明都市に来たのだけど、
驚かせてしまってごめんなさいね、」
そう言いながら謝るモルにバツが悪い少年は
顔面蒼白で慌てている。
「!…天人様、早く立ってください!!
僕なんかに膝を着くなんてダメです!!」
余りの慌てように仕方なく立ち上がるモルを
見て、安堵のため息をつく少年。
「どうして泣いていたの?」
モルの後ろからライが恐る恐る聞くと
少年は何か思い出したかのようにまた
泣き出してしまった。
「妹が、急に倒れて、」
どうやらもう少しで都市につくという所で
妹がいきなり気を失ってしまい、呼びかけても
返事が返ってこないため、どうしていいか分からず
泣いてしまったそうだ。
「たった一人の家族なのに、妹に何かあったら、」
「近づいても良いかしら?」
少し渋っていた少年だったが、モルが私だけだから、
と念を押すとレオとライはその場から少し離れる。
「はい、」
その様子を見て渋々許可をだす少年に
ありがとう、と一言いうと妹に近づき
顔を除きこむ。
「…顔色が良くないわね、」
少女は青白い顔をし眉間に皺を寄せている。
見るからに体調が良くないようだ。
「…、だれ、」
少女はしんどそうにそれだけ言うと
また気を失ってしまう。
「仕方ないわね、皆少し下がって」
モルはまた掌を合わせると杖を出し唱える。
「アヴァ・リス・フィル」(水の恵鐘)
水のベールが小さな鐘の音を鳴らし少女を包むと
遠目からでも顔色が良くなっていくのが分かる。
「ん、…お兄ちゃん、」
「わ!凄い!」
先程まで起き上がれなかった少女が
ゆっくりではあるが起き上がれるまでになり
思わず大きな声を出してしまうほど興奮を隠せないライ。
「…光の魔償ではないから、応急処置にしか
なっていないけど都市までは大丈夫よ。」
「!、天人様ありがとうございます!」グスッ
祈るように手を握り合わせると何度もお礼をいう
少年にモルは優しい笑顔を見せると頭を一撫でした。
「もう少しで黎明都市だけど、心配だから
良ければ一緒に行かない?」
「良いんですか!」
「ええ、もちろん。」
嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねる少年と
可愛らしい笑顔を浮かべる少女に皆が笑顔になる。
ただやはり肉食獣人は怖いようなので
レオは少し後ろを歩くことになった。
「僕はキャベル・へルダンです!こっちは妹のアイ・へルダン!」
「私はモールよ。2人はどこに住んでるの?」
「僕達は南西の村から買う物があって来ました!」
仲睦まじく話している3人に少し後ろで
しょぼくれるレオとヤキモチを焼くライ。
「モルさん取られちゃう!」
「俺ってそんなに怖いかな…。」
次回、モルさんの隣を争ってレオとキャベルの
熾烈な争いが繰り広げられる。モルさんの隣は誰の手に?!
第8話 大波乱 お楽しみに!
アイ・ヘルダン(左)
キャベル・ヘルダン(右)