第9話 黎明都市
黎明都市 プランサー
真東に位置する産業都市であり、鉱物の街としても有名。
この街は100年以上前に天人族が作ったとされており、
特徴としては住民のほとんどが草食獣人、草食鳥人に限られている。
産業都市のため、ダンサー同様、外観は綺麗に整え
られている。だいたい何でも揃っており、中でも高価な
宝石が他の都市よりも安価で手に入るので、
人気が高く都市の中央区域には天人族御用達の店が並ぶ。
「やっとさよならだ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「こら!最後くらい仲良くしないか!」
相変わらず喧嘩三昧の2人に呆れながらも
レオが仲裁に入る。
「元気でね。」
「天人様もお元気で。」
ドタバタと暴れている3人を他所に
モルとライは今生の別れかのように感傷に浸っていた。
「お前も妹見習ってもっと狡猾に動けよな。」
「そういうお前も良い子にしてないと天人様に
愛想つかれるからな。」
「余計なお世話だよ!」
「こっちこそだ!!」
そういうとキャベルとアイは南区域の方へと
行ってしまった。
「結局最後まで喧嘩してたな。」
「ふん!あいつずっと意地悪だったもん!」
「俺にはライの方が意地悪に見えたけど。」
「どっちの味方なわけ!?」
「2人とも!私たちは長居出来ないんだから
さっさと探すわよ!」
「そうですね、急ぎましょう!」
3人は商人達が持ち寄った珍しい物が売られている西区域へと向かう。
黎明都市 西区域
ここは中央区域や北区域、東区域と違い、
主に商人達が許可を取らずに商売が出来る場所として
人気があり、縄張りも定められて居ないため、
早い者勝ちとなっている。1番の魅力としては、
その自由さから、他の区域では規制されるような珍しい
商品も売られている点で、黎明都市に無いものは
他の都市にもないと言われるほどである。
3人は区域に着くとまずは一軒一軒を周り商人達に
紙に書かれた日記は無いかを聞いて回るがそう簡単に
見つかるはずもなく、早々と時間が過ぎる。
「う〜ん、黎明都市ならあるかと思ったのだけど…」
「レオが見つけたこの日記もボロボロだったし、もしかしたらもう無かったりして…」
「!それは困るわ、」
「日記が無くともせめて、エデン・ノイズがどこに
あるか知っている人がいればまだ希望もあるんだけどな、」
ライ、レオ、モルはそれぞれ途方に暮れていると、
「おい!あんたら!」
どこからともなく現れた少年が声をかけてくるが
あちらもフードを深々と被っており、顔はおろか体型も分からない。
「君は誰だ?」
「俺に聞く前にあんた達が先に名乗れ!」
「…俺はレオだ。」
「僕はライ!」
「私はモールよ。」
名乗った後も少年は値踏みするようにジロジロと
3人の周りを歩く
「顔が良く見えないから全員フードを取れ。」
「!」
「…顔を見せてこちらに何の利益が?」
モルが冷たく言い放つと少年はクスクスと笑う。
「君達こそ顔を見せられない理由でもあるの?」
「…」
「んふふ、あるんだね?」
ニヤニヤと笑う少年にモルが痺れを切らす。
「…私達は急いでるからもう行くわ。」
モルはライの手を引き、少年を避けて歩き出し後に
レオが続く。
「じゃあこれは要らないか〜。」
見ると少年の手には1枚の紙が高らかに掲げられた。
「それ!!」
そうそれこそ、3人がずっと探していた
エデン・ノイズの手がかりである日記のページだった。
「なぜ君がそれを!」
「これでしょ?必死に探してたの。」
「…どこでそれを?」
「どこだと思う?」
「…」
「ふふ、これ欲しいなら譲っても良いよ?」
「!」
「ただし!タダでは無理だよ?貴重な物だからね。」
「……何が望み?」
「その子、俺に頂戴」
「え、僕?」
少年はただ真っ直ぐライを指さすが、ライは呆気に
取られ、その場に立ち尽くしてしまう。
「それは無理だ。」
「それは無理よ。」
間髪入れず、2人は断るとあからさまに
ライを背に隠す。
「…まぁ、そういうだろうと思ったけど、
それならお前ら1つ頼まれてくれるな?」
「……?」
「最近この当たりでスリが多発している。
目撃情報によれば、2人組の兄妹で、
特徴としては耳が長いらしい。」
「ん?」
「なんでも、最初は妹の体調が悪いと、助けを求めて
仲良くなった後、この街まで案内してくれるそうだ。
そして別れた後、銀入れ(サイフ)が無くなっているそうだ。」
「……」
「どうした?」
「……荷物はレオが持っていたわよね。」
「え、ええ、」
「……最後に銀入れを見たのはいつ?」
「……あの二人に会う前です。」
3人は急いで荷物をひっくり返すが
銀入れは見当たらない。
「……はぁ、やられたわね。」
「あれ?まさかお前らもスラれたのか?」
「……荷物は俺がずっと持っていたのに、いつの間に、」
「先に取られていたとは…なら尚更だ。
俺はスリを捕まえたい。お前らは自分達の
銀入れとこれが欲しい、そうだろ?」
「ええ、」
「交渉成立だな、捕まえたらここに連れてきてくれ」
少年は懐から出した紙と筆で簡単な地図とサインを書く。
「これを見せれば中央区域に入れるから。」
「貴方、それ、」
「早めに頼むよ?んじゃまた後で!」
少年はそれだけ言うと手を振りながら
さっさと東の方へと走っていってしまった。
「あの子、何者かしら、」
「どうしたのモルさん?」
「あの筆、それに紙、どれも高級品よ。
一般人が持っているようなものでは無いわ。」
「結局最後まで名前も何もかも不明だったし。」
「…とりあえず今はあの二人を探しますか、」
「やっぱり気に入らないと思った!」
「確か二人は南区域に向かって行ってたから、
まずはそこに行ってみましょう。」
「うん!」
次回、第10話 お楽しみに!