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「この者は勇者ではありません。」


矢野祐介は女性の声で目を覚ました。目の前には異様な光景が広がっていた。

さっきまで高校の教室で授業を受けていたはずであるが、今は広場で多くの人がこちらを見ている。人々の服装も和服でも洋服でもなく、昔ながらのファンタジーで見かけるような服装をしている。


こちらを見ている人達は落胆している者もいるが、祐介への興味を既に失っている者もいる。意識が戻った時に聞こえたが、祐介は勇者ではないのでこの反応なのだろう。


「では、次の召喚を執り行う。準備を始めよ。」


貴族か神官か他の人達とは明らかに身分が違う服装をしている男がそう命令する。

その言葉と共に祐介は、隣にいた女性に近くにある教会へと誘導された。さっき祐介を勇者で無いと言ったのは彼女だ。


「どうぞ、こちらへ。ご説明の方をさせていただきます。私はアンリ・レムナントと申します。まずはいきなり呼び出してしまった失礼をお詫びいたします。」


アンリは深く礼をしながらそう言った。茶髪で眼鏡をし、秘書の様な風体であり、その美貌の中に知的さと生真面目さが伺える。


「俺は矢野祐介です。さっきの話から推測するに勇者を召喚しようとしているんですか?」


このままアンリの説明を待っていたら、一から十まで説明してくれるだろうが、それだけ時間がかかる。今時はタイパとかコスパとかいうが、面倒な事は早く終わらせたいと思うのは、普通だろうと祐介は考えている。そのせいで頭は回るがせっかちであるとよく言われてしまうがそんなことも気にする性格ではない。


「その通りですユースケ様。我が国では近年魔王の出現と魔物の増加、この2つの問題に頭を悩ませております。その為、勇者の召喚をしているのですが、実際には勇者が召喚される可能性はかなり低いのです。」


申し訳なさそうにアンリは告げる。


「その為、呼び出されて勇者で無かった方々には選択肢をご用意しております。」


そう言ってアンリは紙に書かれたプランを説明し始める。

携帯電話の契約のような慣れた口調で。


「プランA、こちらはこのままこの国に暮らしていただくようになります。スキル補助と1年間の補助が受けられますが、そのあとは自分で生計を立てていただくのですが、その先のキャリアプランもサポートさせていただきます。また、生産やギルドで魔物の討伐などで活躍されている先輩転生者も数多くいるので、組合や仲間に困ることもないでしょう。」


「スキル補助とは何ですか?」


「はい、この世界では魔法や特殊な能力を神に与えてもらう事により、魔物などに人が立ち向かっております。通常は産まれた時に祝福としていただくのですが、召喚された方々は祝福を受けておりませんのでスキルをお渡ししております。また、スキルは自分の潜在的な物から自由にお選びいただけます。」



「なるほど、その場合は元の世界には戻れないのですか?」


「はい、行き来するのにリソースをかなり使いますので、戻りたい場合はプランBとなります。」


「そのプランBというのは?」


「プランBは、元の世界にお戻りいただく事ができます。ですが、契約魔法でこの世界のことを他の人には話せなくなります。その上でスキルを一つ差し上げます。」


「スキルも貰えるんですか?」


「はい、お手数をおかけしておりますのでそれくらいはという神のご意向でして。」


「偉く太っ腹な神様ですね。」


「とはいえ、選べるスキルに制限はございます。ユースケ様の潜在的に取得できるスキルに限られること。上級スキルは選べず基礎スキルであること。あと魔法はユースケ様の元の世界では使えませんのでおすすめしません。」


祐介は考える。今提示されているシートでは、プランAからはさらに選択肢が広がっており、生産であったり戦闘であったり派生先は広がっている。魅力的に見えるようになっていて。プランBに関しては、小さく記載されていてサブスクリプションの退会の仕方をわかりにくくしているような小賢しさが見え隠れしている。


自分は平凡な高校生であり、スキル一つあるだけでこの世界で非凡な活躍が出来るとは思えない。スキルを貰って元の世界に戻るのが一番妥当だろう。


「であればプランBで大丈夫です。私ではこちらの世界で活躍できそうもありませんので。」


「かしこまりました。でしたら、元の世界に戻っていただくことと致します。この中から取得するスキルを選んでください。」


提示された中から祐介はスキルを選ぶ。言っていた通りチートみたいな能力は特に無い。


「知能向上のスキルでお願いします。」


武器スキル、身体能力の向上などもあったが、結局これが腐らないだろうと選んだのである。


「わかりました。では、知能向上のスキルを授けます。」


アンリは祐介には聞き取れない言語で何かを呟いている。みるみるうちに祐介の周りに光が集まり、そして消えた。


「特に何も変わった感じはしませんね。」


「基本スキルですし、元の知能がある程度あればそこまで違いが感じられない事もあります。」


だが、現実ではこの少しの差で大きな差となることもある。棚からぼた餅的な感じでスキルを手に入れたのだから、ありがたくいただいておこう。


「では元の世界に戻してもよろしいですか?」


「この世界を少し見ていくことはできないですか?」


「申し訳ございません。次の召喚者の方が控えておりますので。」


アンリは言う。どうせなら異世界を見学してみたかったが、それも叶いそうにない。召喚された後もすぐこの建物に誘導されたし、あまり情報を漏らさないように気を使っているのだろう。この秘密主義で事務的な所に自分は納得出来なかったのだと気づいた。祐介はプランBにして正解だったかなと思っていた。


「大丈夫です。戻してください。」


そして、祐介は元の世界へと戻る。そういえば、授業中に召喚されたのであった。気づいたら自分の席へと戻っていた。授業の内容は先程聞いていた数列の内容の続きで時間の経過はしていないようだ。


「夢だったのか。」


そう思うくらいには、テンプレートなファンタジーの世界であった。

知能向上の影響か、少し授業の内容が分かりやすくなっているような気がした祐介であった。






そして翌日祐介はまた同じ光景を見る。

ファンタジーな世界の広場の真ん中にいた。そして、隣には昨日と同じくアンリがいる。昨日と変わらず美人であるが、祐介を見て焦った様子である。


「っ。この者は勇者ではありません!」


そして昨日と同じく教会の中に案内された。

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