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「呪いに使われた道具などがないか、屋敷を探されましたか?」

「ええ。屋敷中のカーペットの裏から、カーテンの縫い目まで入念に探しました」

 ウィザーズの質問にダリアは答える。

「では、外かもしれないですね」

「屋敷の外……庭ですか」

「少し見てみてもいいですか?」

 ウィザーズはびくびくと動く人形を手にしたまま、ダリアに外を案内させた。



「ウィザーズ女史。あなたは、呪いの媒体がこの屋敷にまだ残っているとお考えか?」

 ジャービス卿はウィザーズに尋ねる。

「なんていうか、時間の経った呪いって変質しているものだと思うんですよ」

「変質ですか」

「はい。誰か特定の人を呪うはずだったのが、不特定の人を呪うものに変わっていたり、ある家の誰かだけを狙ったものが、その家の一族全員を呪うものに変わったり、逆に呪いそのものが弱っていたり、なんて感じだと思うんですよ」

「ふむ、確かに……」

 ウィザーズの見解にジャービスはうなずく。


「この呪いは四代に渡ってかけられているのに、全く変質していない。だから、私、この呪いは現在進行形なんじゃないかと思うんですよ」

「え?」

「当主が妻に愛を語れば死に至る。それがまったくぶれていない。つまり、当主が変わる度に新たに呪いがかけられているんじゃないかと思うんです」

「呪いがかけられ続けている……?」

 ウィザーズの仮説に、ダリアは愕然とさせられる。



 庭園を執事の先導に従って歩く。すっかり日も暮れているので、執事が持つ灯りが頼りだ。

「ここはもしかして、当主の方の執務室の窓の下あたりですか?」

「ええ。確かに」

「では、こちらかしら」

 ウィザーズがその窓から庭園の端へと歩いていく。


「あの小屋はなんですか?」

「あれは、庭師の道具を置いている小屋ですね」

「そうですか……」

 ウィザーズはうなずきながら、その小屋の裏へと回った。


「ここを照らしてくださいますか」

 執事に小屋の裏にあった木の根元を照らすようにと頼む。

「……一度掘り返したのかな? 他に比べると柔らかそうだ」

「ええ。怪しいですねえ」

 ウィザーズの口元がにいっと笑った。



「ほら。ありましたよ」

 掘り返してみれば、草木や花を束ねて作った人形がそこにあった。

「この花は、この庭で育てている花……?」

「ほうほう。なるほど……」

 ダリアがショックを受けている傍らで、ジャービスが興味深いとうなずいている。

「草木で作って土に埋めればいつかは土に還りますね。証拠としては残りません。中々うまい方法ですね」

 ウィザーズが呪いの方法を褒めた。その時、小屋から物音が聞こえた。


「道具を置いているだけにしては、大きな小屋じゃないですか?」

「庭師が住みこむ部屋も併設しているんです」

「では、庭師の方にも話を聞きましょうか」

「ええ……」

 ウィザーズに促されて、彼らは小屋の表に回った。




「あらあら。随分苦しそうですねえ」

「……っ!」

 小屋の中には、胸を抑えて苦しむ老人がいた。その様子を見て、ウィザーズが飄々と語りかける。

「うふふ。この人形が凹むのと同じタイミングで胸を抑えてらっしゃいますね」

「ヘンリー……」

 ダリアは、彼の名を呼びながら目に涙をためている。


「ヘンリー、どうして……? あなたは、私にとても親切にしてくれたわ。お義母様に対しても、そう。アデラにも優しく接してくれた……」

「彼が恨んでいるのは、ハガード家の当主であって、その奥方は恨んでないからでしょう」

「……ふむ。もしかして、彼はネイト・ハガードとクラリッサとの間に生まれたご子息かな?」

 ジャービスが推論を口にする。


「そう。彼は自分の父と兄弟に呪いにかけたのです。そして、兄弟の血を引く子供達にも呪いをかけた」

「ヘンリー……」

「なるほど。愛人がかけた呪いよりも辻褄が合う」

 室内に入ってきて好き勝手話す面々を男は苦しみながらにらみ上げた。



「ヘンリー、どうしてなの?」

「冥途の土産に教えてくださいよ。奥様の頼みですよ」

 ダリアは跪き、ヘンリーに目線を合わせて手を差し伸べる。そこへ、ウィザーズが挑発的に言葉を被せる。

 ヘンリーはウィザーズへ憎々しげに視線をやったが、ダリアに向き合うと表情を穏やかなものに変えた。



「この家に嫁いでくる女性はみんな性格がいい。あの馬鹿には本当にもったいない……」

「その馬鹿とは御父上のことですか? それともご兄弟のことでしょうか?」


「……母と奥方の両方を苦しめた、あのクソおやじだよ」



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