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<R15>15歳未満の方は移動してください。

女騎士さんは命乞いをしない

作者: 宿木ミル

 オークの襲撃が激しくなった大陸、キクシオンオーナ。

 その中心にあるキクシオン城は、不幸なことに大量発生したオークに襲われ続けていた。

 そんな城下町を支配していたのは不穏な噂。


『襲われた人間は、三日ほど帰ってこない。返ってきた人間が「辱められていた」と口にする』

『軽装の女騎士が重装備になって帰ってきた』

『城に帰ってきたと思ったら、すぐにどこかへいなくなってしまった』


 繰り返す不安が街を覆う度、人々は恐怖に怯えていた。

 しかし、私は恐怖に立ち向かいたいと願った。

 名のある家に産まれた存在としての義務を果たす。

 オークを撃退して、平和を取り戻す。確固たる意志で、立ち向かいたいと誓った。

 仮に、オークと遭遇しなかったとしても、使命を果たすという思いは誰にも負けないつもりだ。

 十五歳。まだ、女騎士として名乗るには幼いかもしれない。それでも、実力はあるつもりだ。私の意思を砕けるものはいない。

 騎士として無礼のないように。騎士団長の言を胸に噛みしめ、謁見の間へと向かった。









「女騎士クッコ・ロセ! よくぞ参られた」


 キクシオン城、謁見の間。

 王の声に顔をあげる。

 不屈の闘志を宿した私の名前を呼ぶその声に、敬意を持って。粗相のない対応をしなくてはならない。


「はっ、女騎士クッコ・ロセ! 私に行えることならなんだってしよう!」


 名前を言った瞬間に兵士がざわついたが気にはならない。

 若年で女騎士になったという経歴に不安を持っているものが多いのだろう。


「貴殿に頼みたいことはただ一つ。ナオの森のとある方に手紙を届けてほしいのだ」

「ナオの森……オークが生息している場所ですね」


 そこがどんな場所であるかは把握している。

 ナオの森。それは天然の自然に覆われた、入り組んだ地形が特徴的な森。人間の活動を難しいものにしているその場所には、オークが生息しており、人間が立ち入るには危険が多い場所とされている。しかしながら、薬剤に扱えるような貴重な植物が多く存在している空間でもある関係上、その場所に傭兵を携えながら滞在している者もいるとされている。

 ……とにかく、一般人が立ち寄るには危険な場所だ。


「任務は承ります。……しかしながら、私に任せてもよいのでしょうか」

「何か不安でも?」

「……いえ、不覚を取るつもりはありませぬが、重要なものであればより位の高い騎士に向かわせるという手段もあるかと思っただけであります」


 丁寧語に慣れていないが、粗相のないようにきっちりと話す。

 情報が戦の勝利に繋がる。それは騎士団長がよく口にしている言葉だ。騎士としての位がまだ未熟な私が請け負っていい任務であったか確認を取っておきたかったのだ。


「まだ、入隊してそこまでではない貴殿に任せるというのは重荷になるかもしれんが、実力を買って頼んでいる。それではいけないかね?」

「……いいえ、問題ありません。必ずや、成し遂げてみせます」


 無駄な心配なようだった。ならば、私も責任を持っていきたいと思った。

 習った敬礼を忘れず行う。

 そして、剣に誓う。


「宣誓、クッコ・ロセ! オークを打ち破り、必ずや任務を完遂す!」


 再びざわつく兵士。

 心配なのだろう。

 だが、問題はない。

 この名にかけて、必ず勝利する。


「頼もしい気迫だ。流石はクッコ家のご令嬢」

「偉大な兄、クッコ・ロスの名を汚さぬよう、鍛錬を重ねた身。足手まといになどなりませぬ」

「だが、道は困難を極める。くれぐれも気を付けるのじゃぞ」

「はっ、了解しました!」


 ありがたい言葉をしかと噛みしめる。

 偉大な兄、クッコ・ロスはその剣を祖国の明日の為に振るっている。狩りにおける討伐、そして祖国を守る戦にも参加する強者。私は、兄の背を追い続けている。


「これが例の手紙じゃ。これをナオの森にいるオクさんに渡してくれ」

「奥さん、で合っていますでしょうか」

「あぁ。合っているとも。体躯は大きいがおおらかでいい奴だ。多分、この手紙を見ただけで要件は伝わると思うぞ」

「了解しました」


 綺麗に包装されている手紙を受け取る。

 その丁寧さから、家族間の仲の良さを伺える。

 ますます任務を遂行しなければならないという使命感にかられるほど。


「では、失礼……」


 敬礼を改めて行い、粗相のない歩き方で外に向かおうとする。


「クッコ・ロセ!」


 王の声に振り向く。

 兵士たちはなぜだか口を押えている。


「……無理はするでないぞ」

「承知した」

「くれぐれも、殺されないようにするのだぞ」


 くくくっ、と堪えている兵士。


「問題はない」

「道中、オークに襲われたとしても命乞いだけはするでないぞ」


 一人、理由はわからないが、噴き出した。


「命乞い? なぜです?」

「……くっ、殺せなどと言ってはならぬということだ」


 ついに、我慢しきれずに多くの兵士が笑いだしてしまった。

 理由は不明。思い出し笑いかなにかだろうか。


「……お言葉ですが王様、それはできません」

「おお、なんと……」

「女である以前に、私は騎士です。騎士たる私が礼儀を忘れることなどできませぬ。名乗りを上げ、いざという時には雄々しく散るのが騎士の務め。クッコ・ロセと、敵に言わないという選択は、元よりないのです」


 騎士としてのプライド、そして私の騎士としての人生。それを捻じ曲げることなどできないのだ。

 ざわついた兵士がとてもなんとも言えない神妙な表情で見つめてくる。きっと心配しているのだろう、辛そうな表情だ。あの表情にさせている要因が私ならば申し訳ない。

 王も、複雑な表情だ。……このまま私がいても、迷惑がかかるだけだろう。


「……では、失礼する!」


 正々堂々と背を向けて歩いてゆく。

 もう振り返らない。

 戦う覚悟は万端だ。準備も怠っていない。

 成功の栄光を未来に望み、ただ目的地まで前進した。
















 街で旅支度をほどほどに済ませた私は、さっそくナオの森へと赴くことにした。目的地はナオの森の奥にある住居。

 大陸キクシオンオーナの中でも空気が澄んでいるとされている天然の自然は、呼吸を行うと心地がいい。街の空気とは大違いだ。

 女騎士が迷子になるという恥を晒したくはなかったので、目的地への道しるべなどもしっかりと思えておいた。抜かりなし。

 森を歩いていると、魔物に襲われることもあるが、その程度は気にすることもない。私の剣術は騎士団長に認められたほどのものだ。低級の魔物程度だったら難なく処理できる。無断もなく、確実に。


「……何かが、いる?」


 森の奥地に近づいてきたからか、怪しげな気配を感じ取った。

 独特な息遣い、大きなこん棒。緑色の肌。人間の二倍ほぼある巨大な体躯。間違いない、あれはオークだ。

 どしん、どしんと音を立てている。重量も重いのだろう。


「敵は一人か」


 奇襲の気配がないことを確認し、息を吸い込む。

 騙し討ちなど、騎士の風上にも置けない行為は私はしない。だからこそ……


「待てっ!」


 正面から果たし合いを望む!


「だ、誰だ!」


 オークは人間と同じく知識を持っている。だから、言葉も同様に通る。

 敵の注目を集めたところで、自分の名を言う。


「女騎士クッコ・ロセ!」

「……は?」


 何故か、困惑した表情をされた。

 敵なのになぜここまで気を抜ける? なめられているのか?


「クッコ・ロセ、と言っている!」

「いや、いきなりそう言われても反応に困るんだが……」


 顔を指でかきながら対応されている。

 ……何故だ、私は名を名乗っているだけだというのに!


「だから、私の名前はクッコ・ロセだ! クッコ・ロセと言っている!」

「え? えっ、マジ? マジでそういうのなの……?」


 常識的に対応されている。

 これではなんだ、私が異常者のようではないか。


「おのれ、翻弄するな! 名を名乗っているだけなのになぜここまで苦労しないといけない!」

「いやぁ、そう言われても反応に困るというか……」

「勝負しろ! 勝負して、私が勝ったら反省させてやる!」

「勝負かー、勝負ね。わかったけど……大怪我はしないでね?」


 ペースを相手に持っていかれたままなのは釈然としない。

 だからこそ、私は勝負を挑む。

 逃げ出すのは選択肢としてあり得ない。そして、通り道にいる存在は倒さねばならない。

 更に、ここまでペースを崩してきた相手に、なにもしないで引くというのは私の騎士としてのプライドに傷をつける。

 ……負けるわけにはいかない!

 私は、気合の掛け声を口にし、オークへと立ち向かっていった。









「私が……負けた、だと?」


 膝を付き、嘆く。

 勝負の結果は惨敗ではない。が、負けである。

 確かにオークにはダメージは入った。攻撃も無駄なく加えた。しかし、素の体力の差が如実に現れ、負けてしまった。

 私が受けた攻撃は一撃。

 しかし、その一撃が強烈であった。


「大丈夫かー、生きてるか―」


 回復魔法を扱えない私は、回復の道具を弾き飛ばされるとどうしようもない。

 手持ちに手が伸ばせないほどに身体に負担がかかる一撃は、私に敗北を悟らせた。


「生きてはいるが、戦場で負傷してしまってはどうしようもない」

「そっか、殴ったの俺だけど生きているならよかった」

「……敗者の定めは受け入れる」

「はい?」


 戦場に情けは無用。

 これは運命だった。


「首を刎ね、戦果を報告するといい」

「えっ、えっ? そういうこと言うの? マジ?」

「それが騎士道、ではないのか……?」


 大きな声を出せないが、在り方を否定されるような口ぶりに疑問を覚える。


「いや、なんていうか……女騎士ならくっ、殺せ! って言いそうなタイミングだなーって思って」

「……まさか。戦場で華々しく散れなかったものが名乗るなど、格好がつかないだろう?」

「……あー、うん、そうだよね」


 納得してくれた様子だ。

 これで、心置きなく逝くことができる。


「……ふっ、負けた人間に言える言葉など、ない」

「まぁ勝者こそが世界を導くとかそういうのを言いそうなやつとかはそういうことを言うよね」

「お前は、そうでもないのか……?」

「うーん、勝ち負けってわりかし残酷な世界だからね。俺的にはリベンジできる精神性とかが大切だって思ってるけど……」

「……お前は優しいオークなんだな」

「そう? ありがとう」


 本来の騎士としての逝き方ではないかもしれないが、相手を尊重するような存在に最期を見届けてもらえるならそれでいいのかもしれない。


「……さらばだ」

「あ、ちょっと? 勝手に眠らないでよなー、回復はしてあげるからさー」


 目を閉じて意識を遠ざけていく。

 騎士として、短い人生だったかもしれないが、こんな最期を悪くない。そう、心から思った。







 生きていた。

 いや、薄々気が付いていたのだが、私は眠っていた。生きているのも当然かもしれない。そうなると、今更のようにこれで最期だと思っていた自分が恥ずかしくなる。

 バレていないと信じながら、目を瞑っていた自分自身にも恥ずかしさを覚える。


「おはよう、元気になったかい?」


 意識をはっきりさせると、私を打ち倒したオークが実にフレンドリーに声をかけてきた。

 なにがなんだかわからない。

 ……まずは現状確認するべきか。

 まず、ベッドの上で横たわっている。

 服装も柔らかな布でできた綺麗なものになっている。

 傷もまるで何もなかったかのようにないし、後遺症みたいなものもなし。

 元気そのもの、という表現が近いかもしれない。


「ここはどこだ? 城なのか?」

「オークの住居だけど」

「……生かして何をするつもりだ、まさか労働力に」

「うーん、話がしたかったってことにしてもらえると助かるかね」


 大柄なオークが近づいてきて、ベッドの横にの大きな椅子に座る。彼用の椅子というところか。


「荷物にあった手紙、預からせてもらったよ」

「それは王からの重要な手紙だ。返してもらえると助かる」

「いいよ別に、まぁすぐに俺の下に戻ってきそうな気がするけど」


 その発言に首を傾げる。しかし、返してもらえるならありがたい。

 上体を起こし、手紙を受け取る。一度開けた後があった。

 

「……戦場であそこまでマイペースな存在に出会えた試しがなかった。私の、完敗だ」

「いや、なんていうか、普通の女騎士と色々勝手が違かったから調子が狂ったってだけなんだけどね? 本当は」

「……どういうことだ?」


 別にそこまで警戒しなくてもいいだろう。この相手は優しい。私を気遣ってくれたオークだ。種族で差別するなど、そんなことをするつもりもない。

 少なくとも、あの森に放置をしないでいてくれたという事実だけでもありがたいところだ。


「お前さん、改めて名前を聞いていいかい?」

「クッコ・ロセだが」

「そうその名前が不思議だった」

「……どういう、ことだ?」


 同じ言葉を繰り返しているのには自覚はあったが、それでもそうなってしまうくらいには疑問だった。


「よく勝負を挑んでくる女騎士って、負けた後こういうんだよな、『くっ殺せ』と」

「なるほど、その騎士としてのプライドを保つ発言と偶然にも名前が重なっていたということか」

「気にしたことはなかったのか?」

「いや、まったく」


 戦場で華々しく散りたいという気持ちの表れならば仕方がないことだろう。

 私は私の名前が気に入っているから名乗るが、殺せと相手に要求するのはしないことにしている。返ってその命乞いが見苦しいと思うから。


「そう、それがまず驚いたこと。そしてまだ、驚いたことがある」

「それはなんだ?」

「その、お前が持っている手紙が俺宛の手紙だったということだ」

「えっ」


 手に持っている手紙を確認する。

 宛先は奥さん。

 奥さんで間違いないはずだ。

 特殊な魔法文字で書いてあるから、私にははっきりわからないけれど、ぼんやりと知っている知識では知っている。宛先にはちゃんと『おく』という文字がある。

 だから、奥さんで間違いないはずだ。


「ま、まさか、お前は女性なのかっ」

「まて、どうしてそうなる」

「王が、奥さんに渡してくれと言ってきたんだ。だから、それを渡す相手は王の奥さんということになる」

「いやいやちょっと待て、飛躍してるぞ」

「お前が奥さんという証拠を教えてほしいっ」


 大真面目に聞いているというのに、素っ頓狂な顔をされている。何故だ。


「……少し、いいか?」

「構わない」

「まず俺は、女性じゃない」

「証拠は」

「待て、その証拠を要求するのはおかしい」

「断言できる証拠がなければ女性とみなす」

「……今危ないことを言ってる自覚はあるのか?」

「男性だという証拠を示せばいいだけではないか」

「……なぁ、ひとつ、いいか?」

「問題ない」

「……見たいのか?」

「男性である証拠なら」

「見たい、のか?」

「社会的地位が下がらないならば」

「なぁ、本当にわざとからかってるわけじゃないよな、その言い回し」

「私はいつだって正直に生きているつもりだ」

「……わかった、じゃあこうしよう」


 そう言うと、オークは少し席を外し……すぐに戻ってきた。

 返ってきたオークの手元には、若干大き目な証明書があった。


「リモスム・オク、男性。王国に許可を貰って行商人として活動しているオーク。共通語で書かれたれっきとした証明書だ。お前の国の言語で書かれたものだ。これならきっちり読めるだろ」

「あ、あぁ。問題はない」


 手渡された証明書の中身を丁寧に見てゆく。

 王の手相が添えられている。偽装されたものでないものは明らかだ。

 私が貰っていた手紙にも、同じ手相……というより、指紋がある。本物だ。


「なるほど、国から認められてるならば確かに男性ということになる」

「あと、ここにも注目してほしかったんだけど」


 指で、名前のところに注目させられる。


「リモスム・オク、という名前だな」

「いや、そうじゃなくて、オクって名前だろ?」

「……それがどうかしたのか?」

「その手紙にある名前も、オクだよな」


 その言葉を聞いてぼんやりと、考える。

 オクという名前、奥さん、オクさん……


「ま、まさか、お前がオクさんだったのか!」

「ようやく間違いに気づいてくれたようで」

「そ、粗相な真似をして申し訳ありませんっ、この手紙を受け取ってほしく参りました」


 今更手遅れかもしれないが、急いで敬語に直す。

 恐ろしい勘違いをしていた。

 単純ながら、不甲斐ないミス。

 とても、恥ずかしい。


「今更敬語にならなくていいよ、騎士っぽい喋り方相手の方が色々話しやすいし」

「ほ、本当に?」

「あぁ、勿論だとも。気軽に今までの話し方でいい」

「ありがたい」

「手紙は貰っておくけど、もう読んどいたよ。新しい商業のルートが確保できたことを王様に報告してくれると助かる」

「あぁ、わかった。必ず伝える」


 改めて、手紙を受け取ってくれた。

 こんな失態をした私に対応してくれるあたり、性根が優しいのがうかがえる。


「いきなり切りかかって申し訳なかった……」

「まぁ強面なのは自覚してるからね。それに俺は強いし。気にしなくていいよ、いつものことだから」

「それに奥さんと勘違いしていたのも、本人がいたというのも悪かった……」

「俺的には男の証明をしてみろと言われたのが焦ったけどな」

「どうしてだ?」

「……それは言えない」


 後ろめたそうに顔を背ける。

 ……そんなに証明が難しいものなのだろうか。書類でないとわからないような。

 そのことについて考えていたら、オークが気になった様子になっていた。


「なぁ、ひとつ質問していいか?」

「なんだ」

「お前、俺……というか、オークに辱められるとか考えなかったのか?」

「それはつまり」

「……口では言えないことをされるのではないか、みたいに思ったら一人で動いたりするのって、普通考えないと思うんだが……」

「王が私を信頼してくれていた。それで理由は十分だろう?」

「いや、そういうことが言いたいんじゃなくて……」


 何故か、オークは説明しずらそうに言葉を悩ます。

 少しの時間が経過して、ようやく言葉を見つけてくれたみたいだ。


「なぁお前さん、その、辱められるってどういうことか、そもそもわかるか?」

「恥をかかせることではないのか? 騎士としてあるまじき行為……窃盗などを強要するなど、人としての道を踏み外すことを強要することと認識しているが」


 大衆の前で恥を晒すというのが辱めだとは聞いたことがある。

 私の前にやってきた騎士なんかは、きっと敗北者であることを多くの存在に認識されたからこそ辱められたと言っているに違いない。


「……あぁ、俺が第一発見者でよかったよ本当に」

「何故だ?」

「いや、ね。悪い大人には捕まっちゃだめだよ」


 何故か、気を付けるように言われてしまった。

 それでも、真摯に訴えかけてくるような声だったので、私は頷いた。


「そういえば、あの服装についても聞いていいかい?」

「構わない」

「なんで、へそ出しの鎧にボーダーソックス、そして水着のような服装だったんだ?」

「王にそれが女騎士たる象徴だと言われた、それが理由だ」

「……悪い大人に利用されないようにしなよ? 本当に……」

「王が、悪いと?」

「うーん、ちょっとロリコン疑惑はある」


 気にしたこともないことだった。

 それもあって、興味深い話ではある。


「何故そうと言える?」

「結構年が近そうな女の子が何回か襲撃してきてるんだよね。その都度倒して、帰してるけどみんなそういう服装だったから」

「規律ではないのか?」

「そうだとしても、ロリコンだって言ったら『変態王のところにはもう戻らないっ!』って言って別のところに仕官したのが多数だし、信頼できるかと言ったら難しくないか?」

「……何故だ」


 疑問は尽きない。


「では何故、王はこのような鎧を求めている」

「ロリコンだから?」

「若年層の女騎士をこうした任務に向かわせているのは何故だ」

「ロリコンだからかも」

「では、私を向かわせた理由も」

「ロリコンだからだと思う」

「何故、ロリコンだとそんなことができる! オークだぞ。人間よりも強力な力を持つオークがいる森だぞ!?」


 王の行っていることの危険さを理解し、はっとする。

 彼がやっていることはあまりにも危ういものだったのだ。


「王がロリコンだって証拠に、こういうアイテムがある」


 そういうとオークは懐の布巻から目玉のような水晶を取り出した。


「これで行動を視察してたのさ。正しく向かっているかどうかを」

「そんな、では私はハメられていたのか!?」

「その可能性はなきにしもあらず。まぁ、戦いの衝撃でオレが壊しちゃったから全て見られているということもなかったとは思うがな」


 ゴミを集めているところにオークはその水晶を投げた。


「で、どうする? 真実を知ったなら、王の場所に帰るのも嫌になったかもしれないけど」

「……私は、真実を問い合わせたい」

「ほう?」

「王の真意が知りたい、何がしたかったのか、何が目的で私をオークの下へ向かわせたのか、それを知りたいんだ」

「もしも相手がロリコンでも?」

「話せばきっと、わかることがある。オークであるお前とも色んな話ができたから」

「その誠実さは褒める。が、相手はロリコンだぞ? 何をされるかわからない」

「幼女指向だとしても、直接的に手を加えることはないだろう?」

「……あんな鎧を用意した王だぞ? 絶対なんかするって」

「え? あの鎧に何か問題でもあるのか? 動きやすくていい鎧だと思うが」

「なぁ、わりと真面目に悪い大人に捕まりそうで俺は心配なんだが」


 不安そうにオークが見つめる。

 それでも、大丈夫だ。

 もう負けるつもりはない。


「大丈夫だ、心配いらない」

「なぜ、そう言い切れる」

「お前は強いんだろ?」

「まぁ、オークの商人の中でも強者だと自覚している」

「そんなお前にダメージを与えられた私なら、きっとうまくいく」

「おじさんそういうポジティブシンキング不安になる!」


 立ち上がり、準備運動。

 もう迷わない。剣を手に立ち上がる。


「服、ありがとう! これから王に会いに行ってくる!」

「ま、待て! ロリコンの場所に自分から行くなんて命知らずだぞー!」


 振り向かず走る。

 目標は、王がいるキクシオン城。

 もう迷いはない。

 私の騎士道に従い、やれることをやるだけだ。

 ただただ、走り抜けていった。






「王よ! 私を騙していたのか!!」


 狂瀾怒濤、その勢いは烈火の如く。

 即座に移動して王の元にやってきた後に私は全力で問い詰める。


「な、なんじゃその表情は」

「王はロリコンだとお聞きした! お命頂戴す!」

「ちっ、何故それがわかった!」

「オクさんに教えてもらった!」

「奥さんに、じゃと……!? こりゃまずい!」


 王の座の奥に部屋に全力疾走する王。

 これは罪を認めたということだろう。


「断罪の刃を受けるといい!」


 剣を構えて接近しようとする。

 しかし、それは側近の兵士に阻まれてしまった。


「お、落ち着くんだ、クッコ・ロセ!」

「くっ、離せ!」

「この国の統治をしているのは王様だ! 刃を向けたら君は国家反逆罪になってしまう!」

「では私はこのまま辱められたままでいろと!?」

「……奥さんがなんとかしてくれるよ」

「え?」


 その言葉を聞いた瞬間、響いたのは悲鳴だった。


「だーかーら! 訓練の時は趣味で着させてるけど、外部任務の時は着させちゃ駄目って言ったでしょ!?」

「うひぃ、ゴメンナサイ!」


 王の叫び声が聞こえる。

 かなり痛そうな音も響く。

 これはどういうことだろうか。

 王座の奥にある部屋に向かう。


「水着衣装の女の子にボーダーニー着させると萌えるよ! 萌えるに決まってるじゃん! だから映像を……けふんけふん、安全の為に水晶は用意してたけど、そのまま行かせるのはモラル的にどうなのよ!」

「え、だってお主が女騎士の正装だって言ったから……」

「それは! 私の! 趣味!」

「えっ」


 驚愕する王。いや、王様。


「えっ」


 そして驚嘆する私。

 そう、王の奥さんは騎士団長だったのだ。


「あっ、ロセちゃん」

「なんで、騎士団長が……」

「ごめんね、わたし、ロセちゃんに悪いことさせちゃった」

「それって、この衣装のことですか……?」

「うん、本来は練習中の衣装のつもりだったんだけど、王様が勘違いしちゃって女騎士の正装だって言っちゃったから」

「ごめんなさい儂が悪かったです」

「ロリコン王もこう言ってるから許してあげて」

「え、ええっと」


 つまりはこういうことだろうか。

 王様が勘違いしたから、私があの軽装のまま外に出歩くことになった。

 そして、練習用の衣装を着させていたのは外でもない騎士団長。

 ……あれ?


「ロリコンなのって王様じゃなくて騎士団長なのでは」

「……ふぇ?」

「普通に考えてそうじゃな」

「あぁやっぱり」


 なんとなく王様が可哀想になってきた。

 立場によって勘違いさせられていただけなのだから。


「……ちょっと待って! 水着にはワケがあるから!」

「どうぞ」

「ロセちゃん、水場での訓練してたの覚えてるでしょ?」

「はい」


 水場での訓練は何回もしたことがある。

 重い剣を扱う手段として効果的な訓練だったことも事実だ。


「あれ、服着たままやると重くてしんどいから、水着にしてたの」

「服を着たままだと動きを阻害するから……」

「そう! だから水着にしたの! 別にかわいい姿を見たかったわけじゃない! 絶対ない!」

「嘘くさいぞ」

「違うもん!」


 騎士団長は必死だ。

 この状況、逆転してしまった評価に対して弁明を繰り返している。


「本当に! 水着は、趣味だけじゃありません! たしかに水着ボーダーニーの女騎士はロマ……けふんけふん! 好きだけど! 決して! 外にその恰好でいさせるための衣装じゃ! ない!」

「……ではあの水晶は」

「かんしょ……ええっと、安全と技能向上の為! いかがわしいことにつかって、な、ないわ!」


 目が泳いでいる。

 これは……嘘ということなのだろう。

 そんな直感を覚える。

 そして、全ての記憶がフラッシュバックする。

 水着のまま外を歩いていたこと。

 オークの村へと進んでいったこと。

 怪奇な格好のまま、動き回っていたこと。

 全て、思い出す。

 それがいかに異様かを感じた時、私は……


「……騎士団長のバカー!」


 誰もいない場所に駆け出していった。

 もう、あんな恰好のまま外は出歩かない。

 そう、心から決意した。

 辱められた。その意味がわかった、わかってしまった。

 騎士団長も格好についてはともかく、しっかりとした訓練を行っていた。

 王様も勘違いしていたとは言え、しっかりとした依頼を要求していた。

 オークのオクさんにも迷惑をかけてしまった。

 あぁ、なんていうか。なんていうか……

 こういう気持ちを表現するのだろうか。


『くっ、殺せ!』と。


 恥ずかしい気持ちがいっぱいだ。

 今はただ、気持ちに休息が欲しい。そう思っていた。







「入るぞ、クッコ・ロセ」

「オクさん」


 後日。

 私の宿舎にオクさんがやってきた。

 今日の私はそれなりの軽装だ。少なくとも水着ではない。


「ようやくあの異様な格好から卒業したか」

「異様って言わないでほしい」

「騎士団長の趣味だったんだろ? いい趣味してるよまったく」

「褒めてる?」

「さぁね」


 腰を落ち着かせてオクさんが話を続ける。


「あんたが持ってきてくれた手紙のお陰て、しっかりと交渉はうまくいっている。王様ともそれなりに打ち解けてるし、いい感じになったと思う」

「そのために犠牲になった私のことを忘れないでほしい」

「目に焼き付けてたらこっちがロリコンになってしまうから願い下げだね」

「……それはありがたいかも」


 とにかく、なんだかんだで依頼はうまくいっていたようだ。

 それについてはほっとする。


「それにしても、相変わらず軽装なんだな」

「そうなる」

「臍出し」

「動きやすいから」

「胸当てくらいの装備」

「……動きやすいから!」

「ミニスカート」

「動き! やすいから!」

「気にしてるなら、やめればいいのに」

「……重装備は合わなかった」

「そりゃお気の毒に」


 気にはしている。

 それなりに、だけれども見た目は気にしている。

 けれど、重装備は私の戦闘スタイルに合わないから断念せざるを得なかった。

 その為、軽装になっている。これは仕方のないことだ、きっと。


「ま、お前がいいならそれでいい。あぁ、質問があるんだが」

「なに?」

「命乞いしない女騎士なのはなんでなんだ?」

「それについては簡単」


 はっきりと言葉にできる。


「生きてた方が幸せだからね」

「あぁ、そういうのいい」

「殺せって言われて殺して来たら嫌だし」

「まぁ、血も涙もないやつはそうする可能性あるしな」

「しっかり長く生きたい」

「それがいい」

「笑わない?」

「笑わないさ、幸せが一番だもの」


 そういうオクさんの表情は安心したものだった。

 命乞いをする女騎士が多かったから、そう思っているのかもしれない。


「さて、買い物行くけど折角だしついていくか?」

「行ってもいいならそれで。今日は休暇だから」

「よし、出発しよう」


 オークも女騎士も身分は関係ない。

 仲良くできるなら、それに越したことはないだろう。

 生きていれば、色んな出会いができるのだから。


「でも、心の中で誰か殺してーって思ったことはない? 恥ずかしさとかで」

「それは……内緒」

「なるほどね、深くは追求しないよ」


 誤解を無くすのはしっかりとした会話から。

 突っ走るように、話を聞かないまま生きるのはもったいない。

 そう感じさせられる日々を過ごしたと、改めて実感する。

 王国の日の光は明るく、これからも未来を照らしていくだろう。商談を続けるオクさんの姿を見つめながら、そんなことを考えていた。

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