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夏の陶芸

作者: ポテト
掲載日:2022/09/12

舞台は岡山県の松島を参考にしています。

誤字や至らぬ点があるかもしれませんが温かい目で見守ってください。






「ありがとう。じゃあまた18時に迎えに来てくれ。」


漁船から降り、海岸に立つ。港から島まで送ってくれた漁船の操縦者に礼を言うと額の汗を拭き取る。

気温は35℃。港から島までは船で5分ほどだが、冷房も扇風機もない漁船の甲板に5分も剥き出しで波に揺られていれば誰だって営業回りのサラリーマンみたいになってしまう。


「ここも変わらないなぁ。」


辺りを見回すと目に映るのは空き家ばかり。この島に来るのは30年程前、家族で島を出て以来だ。当時の住民といったら、自分ら家族3人と向かいに住んでいる老夫婦くらいだった。その老夫婦ももう他界しているため現在は完全に人の住んでいないほぼ無人の島というわけだ。

といってもまったく人が来ていないわけでもなく、島にある美術館には定期的にアーティストが訪れ作品を制作したり、アーティストの取材のためにテレビ局が訪れたりもしている。他にも観光客向けのイベントも定期的に行なっている。

現にわざわざこうして久し振りに島を訪れたのもイベントを開催するためだ。


無人の廃屋だらけということもあり島の使用料金は安く、その割には港から近いため比較的に多くの観光客を呼び込めるためまさに隠れた名スポットだ。

そんなわけでイベントを行う準備の下見に、元島民だからという理由で私が選ばれた。


美術館に着くと、島の管理人から預かった鍵を使用し中に入る。すぐにエアコンの電源を入れ、1階の作業台に荷物を置き、持参した飲料に口をつけた。

一息ついて辺りを見回す。定期的に人を招いているためか自分が島にいた頃よりもどことなく小綺麗になっている気がする。恐らく管理人が定期的に手入れしているのだろう。

そんな思い出にふけながら建物内を物色していると、2階へ続く階段の前で立ち止まる。

2階はアーティスト用の制作現場となっており、恐らく現在通っている人の作りかけの作品が置いてあるのだろう。

自分が子供の頃も定期的にアーティストが来ていて作品を制作していた。そんなアーティストの元に遊びにいき制作現場を見学するのが当時子供だった自分にとってこの島での唯一の娯楽だった。

制作現場を観察にくる自分にアーティスト達は特に気にすることもなく黙々と作業を続け、気が向いたら作品の説明や島の外の話なんかもしてくれた。

そんなこともあり当時将来はアーティストになりたいなぁ。なんて子供ながらに考えていた。あの日までは...


冷たい汗を拭いながら階段を登り、制作現場を覗いた。




そこにはあの時と変わらない風景が広がっていた。


形の崩れた備前焼を手に取り、過去の記憶が自然と蘇った。













「おはよう。」


「おはよう。」

 

美術館の前に立つ少女に挨拶をすると、彼女は笑顔でそれに応える。

彼女はA子。1ヶ月程前から島に作品を制作しに来ている陶芸家の娘で、毎週土日には父親と共にこうして島に来ている。美術館にいくといつも建物の前に立っており、一緒に遊んだり、父親と共に備前焼を作ったりするのが日課だった。


A子と共に建物に入り、すぐに2階に続く階段を登る。

かまど焼きの焦げ臭い匂いが広がる制作現場に入り、

「こんにちは。」

「こんにちは。よく来たね。」



笑顔で挨拶すると、作業をしている細身の男の人が返事を返してくれる。A子の父親のC男だ。C男さんは50歳だが、3年前に脱サラして陶芸の道に進んだため、まだまだ素人のアマチュアだった。

身体中あちこちに傷があり、どうやら備前焼を作る際、初めの頃は慣れずあちこち怪我をしたそうだ。


僕達は初めて制作現場に顔を出した時はとても驚いていたが、すぐに打ち解けて今ではこうして遊びに来ても快く迎えてくれる。


「完成したよ。見てごらん。」


そう言って二つの備前焼を取り出した。

一つは僕の作品だ。多少歪んではいるが普通に湯呑みには見える。

そしてもう一つの方だ。あちこちが凹んでおり一体なんの陶器なのかわからないほどに歪んでいる。A子の作品だ。


「なにこれ?」


「湯呑みに決まってるでしょ!」


そう言ってA子がジト目で睨んできた。そんなA子も気にせず


「ウルトラマンに出てくる怪獣じゃん。」


そういうとA子が顔を真っ赤にして追いかけ回してきた。



そんなやり取りをしながらひとしきり騒いだ後、ふとあることに気づく。


「おじさんどうしたの?目にすごい隈があるけど。」


「あぁこれかい。実は昨晩徹夜で作業に没頭していてね。」


C男はそう言って眠たそうに目を擦った。

するとA子はハッとしたように



「お父さんゆっくり休まないとダメだから今日は海岸で水遊びをしましょう。」


そういって彼女は右手を掴み、僕は流されるままにその場を後にした。







「それじゃぁまた明日ね。」


「バイバーイ。」


日の沈む頃、ひとしきり遊び終わった僕達は船に乗った彼女に手を振り別れを告げる。


船に乗った二人の姿が見えなくなるまで、僕は海岸に立っていた。











「38.5℃熱ね。」


母親にそう告げられ落胆する。恐らく遅くまで海岸で水浴びをしていたからだろう。見事に翌日高熱を出してしまった。


「移しちゃ悪いから、今日は遊びにいくのはやめなさい。それと年のために病院で診てもらいましょう。」


母親からそう告げられると、渋々彼女に連絡した。



「ごめんね。今日は島を出て病院に行かないといけないんだ。」



「そう。分かった。じゃあ安静にしててね。」


熱があることを伝えると彼女は悲しそうに言いながらも

どこかあっさりした返事をした。









結局ただの風邪ということもあり、一週間分の風邪薬を渡され安静にする様に言われた。


「とにかく一週間は安静にするのよ。」


母親にそう言われ渋々頷く。不貞腐れ、することもなかった僕は何気なく待合室のテレビを見ることにした。

だがテレビを見てギョッとした。





なんとC男の顔が写っていたのだ。それも殺人容疑の指名手配として。

表示されている名前こそ違うものの、容姿や髪型、体型は間違いなくC男だった。

僕はすぐに親に伝え、同時にA子の身の心配した。









ー翌日ー


あの後母親が警察に連絡した。

安全のために島には戻らず、漁から帰ってきた父も一緒に警察が手配してくれたホテルに泊まることになった。

幸い同じ島民の老夫婦も島を出ていたため、老夫婦もそのまま手配したホテルに泊まることになったようだ。


しかし僕が心配なのはA子の事だった。





ー3日後ー


結論から言うとC男さんは逮捕された。C男という名前はやはり偽名だったようで、警察が保管している犯人の指紋とC男のものが一致したらしい。C男から事情聴取を受けた警察官から連絡があり同時に聞きたいこともあるため警察署に来るよう言われた。



「あの、A子は無事何でしょうか?」


僕は震えた声で警察に尋ねる。彼女は自分の父親が殺人犯だったと知っていたのだろうか?

ひょっとして知っていたが見て見ぬふりをしていたのだろうか?

そんな不安で頭がいっぱいになっていると




「A子さんは既に亡くなっておられます。」







「えっ...?」


警察官の淡々とした声が聞こえた。











警察官からの話によると、C男は小児性愛者の犯罪者で、襲った子供は殺し、遺体ごと焼いていたという。

度々子供が行方不明になる事件があったが証拠が残っておらず、目撃者もいなかったため捜査は難航していたそうだ。



しかし4日前、山奥で遺体が見つかり、身元を特定すると、3年前に行方不明になったA子のものだったという。


警察はそこから犯人がC男であることを特定し3日前にC男を全国的に指名手配したそうだ。


遺体はあちこち損傷しており、命から柄に逃げ回った形跡があったという。



呆然とする僕に向かって警察は


「正直何故君が無事だったのか不思議だったよ。でもその言葉を聞いて納得したよ。ここにいってお礼を言ってくるといい。」


そう言って僕にある住所を教えてくれた。



















あの時警察は私にA子のお墓がある場所を教えてくれた。A子の家族にも会い、それからは定期的に墓参りに行くようになった。

結局それ以降A子に会うことはなかった。遺体も見つかりC男も捕まったことで成仏したのだろうか。






そんなことを考えていると、ふと目の前から視線を感じた。



手に持った歪んだ備前焼を元の位置に戻し、顔を上げる

















「ありがとう。」




目の前にいる30年前と姿が変わらない少女に向かい

そう一言だけ呟いた































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