5:新たな出会い。
カーターは、見張りや火の番もきちんとこなし、しっかりと眠りました。
朝日が出たので、野営は終了。
旅の再開です。
「何だ、もう行くのか?」
カーターが荷物をまとめ、リュックを背負っていると、ジョルダンが寂しそうな声で聞いてきました。
「うん、あんまり時間が無いから」
「そっか。気を付けて行けよ。いつかお前の町に行った時は、親父さんを紹介してくれ」
「うん!」
「それはいいね! よい商いが出来そうだ。私も頼むよ。勿論、カーター、君にも会いたいからね」
「っ、うん!」
たった半日の付き合いでしたが、別れが寂しく感じるほどに、三人と仲良くなりました。
いつか。そんな約束をしながらカーターは湖の町に向かって進みました。
カーターは、三つ目の山を迂回する街道を、ゆっくり、しかし着実に進みます。
お腹が空いた時は、近くの森や川に行って狩りをしながら進みました。
三日目の日暮れには、予定していた地点よりもうんと進んでおり、湖の町まであと半日の距離になっていました。
もう少し進めば街があり、きっとそこにも素敵な宿屋があることでしょう。
ですが、カーターは野営をする事にしました。
元々、余分なお金などありません。
体調も天気も良い今日は、宿屋を使わずに、節約することにしたのです。
昨日の野営と違い、今日の野営地には誰もいませんでした。
一時間おきに目を覚まし、焚き火用に拾って来ていた薪を焚べ、周囲を警戒しつつ、また眠る。その繰り返しでした。
「――――と! ちょっと! 生きてるの!?」
頬をバシンバシンと叩かれる衝撃で、カーターは目を覚ましました。
ぼやける目を手の甲で擦りながら、ううーん。と唸っていると、今度は頭を勢い良く叩かれました。
「いたい……」
「ちゃんと生きてるわね!」
カーターは、叩かれた頭を撫でつつ、先程から威勢の良い声を出す人物に目を向けました。
「あれ? 君は…………うーん?」
そこには、どこか見覚えのある雰囲気の黒髪の少女がいました。
彼女は、カーターの住む町に時おりやってくる商人の子供なのですが、カーターはなかなか思い出せません。
少女は、自分を思い出してもらえないことに、とても苛立ちを覚えました。
「貴方、頭が悪いの⁉」
自分より年下の女の子からバカにされて、カーターは少しだけ不機嫌になりました。
「君は暴力的だね」
「なっ⁉ 何よ! 焚き火が消えてるのに寝こけてたから心配してあげたのにっ! ほったらかしにて凍死させれば良かったわっ!」
少女は顔を真っ赤にして、まくし立てるように一気に叫ぶと、野営地の近くに止めてあった馬車の中に入って行きます。
カーターはその姿をぼーっと眺めつつ、辺りを見回すと、とても明るい事に気が付きました。
太陽は既に天高く登りきっていたのです。
「わっ!」
カーターは慌てました。
とても慌てていましたが、服装や荷物の確認は怠りません。
それは、父親に常日頃から言われていたからです。
『その格好で本当に恥ずかしくないのか?』
『ちゃんと持ったか?』
『ひとつでも忘れたら命に関わるぞ』
『お前の命は、お前だけのものじゃない』
「よし! 急がなきゃ!」
カーターがリュックを背負い、足早に進み出した時でした。
先程から野営地の近くに止まっていた馬車の窓が開き、黒髪の少女が顔を出したのです。
「ねぇ! 湖の町に行くんでしょ?」
「え、うん……」
「の、乗せてあげても、いいわよっ!」
少女が赤い頬を膨らませながらそう言うと、少女の後ろから、「こら、ちゃんと言わないか」という男性の声がしました。
それからすぐに馬車の扉が開き、未だに頬を膨らませたままの少女が、中から手招きをしました。
カーターは不思議に思いながらも馬車に近づきます。
「やぁ、こんなところで会うとは思わなかったね」
「タンクさん!」
馬車の中にいた男性を見て、カーターはやっと黒髪の少女のことを思い出しました。
カーターの住む町でときどき卸業をしている商人・タンクとは良く話していたのですが、彼の娘とはあまり面識がありませんでした。
「あっ、じゃあ、この子がいつも話してた、目に入れても痛くない、って子?」
「子じゃないわよ! 私にはテレサって立派な名前があるのよ!」
「ハハッ、最近はこの通り、跳ねっ返り娘さ」
タンクが笑いながらテレサの頭を撫でると、テレサはその手を掴み、投げ捨てていました。
タンクはそんな娘の反応にもめげず、更にテレサの頭を撫でていました。
カーターは、そんな二人の行動が面白くてクスクスと笑っていましたが、本来の目的と、時間に追われていたことを思い出しました。
「あっと、いけない! 俺、急いでるんだった。また町でね!」
カーターが手を振って先を急ごうとした時、テレサに袖をギュッと掴まれました。
テレサはそっぽを向いて、口を尖らせた状態で何かを言っていますが、聞き取れません。
「テレサ」
タンクが苦笑いしながら、テレサの頭をぽんぽんと叩くと、テレサが顔を真っ赤にして言いました。
「さっきも言ったじゃない! 乗せてあげるって!」
「え? いいんですか?」
「なんでパパに聞くの!」
カーターが驚いてタンクに聞くと、テレサが先程よりも真っ赤な顔で怒りだしてしまいました。
カーターは、本気でどうしたらいいのか分からなくなりました。
――――ええぇ⁉ なんで怒るの⁉
次話は本日13時頃に投稿します。




