4:協力しあって。
日が沈み、これ以上進むのは危ないと判断したカーターは、街道の所々にある野営地で休むことにしました。
野営地には焚き火の跡や、倒木が置いてあり、旅商人達はそれらの場所を把握しています。
カーターは旅商人の荷運びなどを手伝ったりして、そういった事を聞き出していました。
他に利用者がいれば、交代で見張りをし、安心と睡眠時間を確保できる。とも教えてもらいました。
野営地に向かうと、少し年配の旅商人と若い男性二人組の旅人がいました。
「すみません、俺もここで野営していいですか? 見張りもちゃんとやります」
「あぁ、構わんよ。そちらの旅人さんはどうだい?」
「俺達も構わない」
「ありがとうございます!」
カーターは空いていた倒木の側に荷物を置くと、着込んでいた上着を脱いで、少し動きやすい格好になりました。
三人に荷物を見ていてもらえるか聞くと、旅商人が請け負ってくれたので、お願いしました。
カーターは小走りで山の麓に広がる森へと向かいました。
森へ着くと、父親に教えてもらったように、足音を消しながら歩き、茂みや土が掘り起こされた所にある十センチほどの穴の中を確認しました。
森に入ったら、小さなコロコロとしたフンが落ちていたので、近くにウサギがいるはずだと考えたのです。
三十分ほどして、草むらの中に潜むウサギを見付けました。
ここでも父親の教えが役立ち、簡単にウサギを捕まえる事が出来ました。
カーターはウサギを持って野営地の風下に行き、ウサギを捌きました。
食べられない部分は土に埋め、近くの川で血などを洗い流してから野営地に戻りました。
「遅くなりました。荷物ありがとうございます」
「「えっ⁉」」
「え?」
カーターは野営地に戻り商人にお礼を言いつつ、焚き火の前で大きな葉に包んでいたウサギの肉を出しました。
それを見た三人はとても驚いていましたが、カーターはなぜ叫ぶように驚かれたのかが分かりませんでした。
「君、その肉はどうしたんだい?」
商人が恐る恐るといった感じで、ウサギの肉を指差しました。
「ウサギの肉ですよ? 捕まえて来ました」
「「今⁉」」
「え、はい」
二人組の旅人が不思議そうな顔で、どうやって捕まえたのかと聞いてきました。
なので、父親に教わった方法で捕まえた事を話しました。
「お前の親父さん……凄いな」
「うん! 父さんは一人で熊も仕留めるんだ。俺も早く一緒に狩りに行けるようになりたい!」
カーターは父親を褒められたことが嬉しくて、父親の凄さを三人に話しながらも、ウサギの肉に串を刺して焼こうとしていました。
「ちょっと待って!」
二人組の旅人の一人が急に大きな声を出しました。
カーターはびっくりして危うく串で自分の手を刺すところでした。
「急に大声出すなよ」
「いや、ウサギの肉、そのまま焼く気なのかなって……」
旅人の一人が叫んだ方の旅人を嗜めると、叫んだ方の旅人はちょっと気まずそうにそう言いました。
「え、これ? うん。串焼きにするんだ」
「下味は? 調理道具は?」
カーターは調理道具などは一切持っていません。
そして、調味料も持っていません。
それを伝えると、旅人の二人と商人はとても驚きました。
「そんなんでよく野営しようと思ったな……」
「でも、父さんも調理道具は特に何も持たずに山に入ってるよ?」
「「……お、おぉ」」
カーターが気を取り直して、ウサギ肉を焼こうとしていたら、旅人の一人が自分はジョルダンだ、と名乗りました。
そういえば自己紹介していなかったと思い、カーターも名乗りました。
そのタイミングで、もう一人の旅人がミッチェル、商人がロドニーと名乗りました。
ジョルダンが肉を焼く前に相談がある。と言い出しました。
聞いてみると、ジョルダン達は二人で旅をしているから、大きな調理道具を持っている事、野菜類も持っている事を話し始めました。
「そこでだ、俺等はそれらを提供する。カーターはその肉を提供する、そうしたら、ウサギ肉のスープが作れる。スープは体が温まるぞ?」
何ということでしょう。
それぞれが出せるものを出し、協力しあってより良いものを作る。と言うのです。
「凄い! ジョルダンさんは頭がいい!」
カーターが煌めくような笑顔でジョルダンを褒めると、彼は照れくさそうに頬を人差し指で掻いていました。
じゃあ交渉成立だ。とジョルダンが言いかけた時でした。
「んんっ、私を仲間外れにしないでほしいなぁ?」
「おっちゃん……何が出せんの?」
ミッチェルが勝ち気そうな顔で商人のロドニーを挑発します。
カーターはよく分かりませんでしたが、これも交渉のテクニックなんだよとジョルダンが小声で教えてくれました。
「ふふっ、そうだねぇ……何だか面白い出会いだし、奮発して、胡椒とヤギミルクを出してあげよう」
「「胡椒⁉ ヤギミルク⁉」」
カーターはヤギミルクは飲んだ事がありましたが、胡椒は食べたことがありませんでした。
「胡椒ってすっごく高くて、黒い丸いやつだよね? どうやって食べるの? カリカリって噛むの?」
「…………ブッ!」
ミッチェルが堪らないというように吹き出すと、他の二人も涙を流すほどに笑い出しました。
「そりゃ、高いが……っ、丸ごとは、はははは! 噛むなよ?」
「じゃあ、どうやって食べるのさっ⁉」
カーターはいじけてしまい、ムッとした顔になってしまいました。
「ぶははは! カーター、お前もうすぐ十五になるんだろ⁉」
「……うん」
「ほっ、頬を、膨らますなっ。男だろ?」
笑いながら言われると、余計にムッとなりましたが、三人があまりにも楽しそうに笑うので、カーターもつられて笑ってしまいました。
カーター達四人は、大笑いしながら、胡椒の効いたミルクスープを協力して作り、一緒に食べました。
「わ! 胡椒って舌がピリピリってするんだ⁉」
商人のロドニーが、ガリガリと挽きながらスープに入れてくれた胡椒は、鼻の奥をくすぐるような、刺激的な匂いがしました。
胡椒にも色んな種類があって、それらは『スパイス』というものだと教えてもらいました。
優しくて柔らかい味のミルクスープが、胡椒を少し入れるとピリリと引き締まる。
その味がとても気に入ったカーターは、お金を貯めて胡椒を買おうと心に決めました。
――――母さんにも食べさせたいなぁ。
次話は明日の10時頃に投稿します。




