3:寝覚めが悪い!
句読点、誤字報告ありがとうございます!
「やった! 街道だ!」
夕方、日が沈む少し前に、二つ目の山から街道に出ることが出来ました。
三つ目の山は、二つ目の山より低いのですが、大型の獣が多く、道も殆ど無いような山なので、少し遠回りにはなりますが、街道を歩いて迂回しながら湖の町へ続く道を目指します。
今日は二つ目の山の麓にある、小さな町の宿屋に泊まる計画です。
町の中を歩いていると、宿屋は直ぐに見付かりました。
初めての旅、初めての外泊、初めての宿屋、カーターは色んな事にドキドキとしながらも、旅商人に教えてもらった通りに宿屋の主人に話しました。
「一番安い部屋で一泊お願いします。明日の早朝に出ます。朝ごはんは不要です」
「じゃあ、少しまけとくよ」
するとどうでしょう、宿代を少し値引きてもらえたのです。
「ありがとうございます!」
「夜飯は直ぐに出せるが、どうする?」
「えっと、すぐ食べたいです」
「おうよ。部屋に荷物置いて、そっちの食堂に来な」
「はい!」
鍵を受け取って、部屋に向かいました。
部屋はとても簡素なもので、狭い部屋にベッドが一つと、壁にハンガーが一つ掛けてあるだけでした。
お風呂は無く、受付にいる主人に頼むと、桶にお湯がもらえるので、それと自分のタオルを使い、部屋で体を清めるのだと教えられました。
カーターはいつの時期も昼間に水浴びだったので、夜にお湯を使って体が拭けるのだと知って、とても感動しました。
夜ごはんは、鹿肉の赤ワイン煮込みと、根菜たっぷりのスープと焼き立てでふわふわした白いパンで、今まで食べた中で一番上等の食事でした。
「うわぁぁ、美味しい! 白いパンってこんなにふわふわで甘かったんだ! え、スープにこんなに具が入ってていいの? 鹿肉ってこんなにとろけるの⁉」
「白パンを初めて食べたのか?」
「はい、憧れてたんです!」
宿屋の主人はカーターの言葉で、普段の食事や、なぜ一人で旅をしているのかが気になりました。
興味と年末で宿屋が暇なことも相まって、熱々のコーヒー片手に同じテーブルに座って、詳しく聞いてみることにしました。
「俺? うーん、普通だと思うんだけど――――」
聞けば聞くほどに普通ではないカーターの話に、宿屋の主人はコーヒーが冷めていることにも気付きません。
もっと聞かせろ。とカーターの話を聞き出し続けました。
「まだ黒パンなんて食ってるやついたのか」
「顎痛くなるけど、酸っぱくておいしいよ? それに安いし、日持ちするし」
「まぁ、うん」
最近、というか結構前から、小麦粉で作られた白くて柔らかいパンは当たり前になっているのですが、ライ麦から作られる黒パンも一部の人達に人気があります。
あとは、貧しい農村などでは未だに黒パンが主流だとは聞いていました。
宿屋の主人は更に話を聞きました。
「なるほど、病気の母親の為か…………いい息子じゃねぇか! ほら、おまけだ。もう一個食って体力付けな!」
「わっ、ありがとうございます!」
カーターの話を聞いた宿屋の主人がズビズビと鼻水をすすりながら、白パンをおまけしてくれました。
宿の部屋に戻り、満腹になったお腹を擦りながら、明日の朝の準備をし、体を清め、ベッドに入りました。
ここでまたカーターは驚きました。
ベッドがふかふかなのです。
「うわぁ、凄い凄い! 跳ねそうだ!」
ベッドの上でごろんごろんと転がったりと、弾力を堪能している内に眠気が襲ってきました。
「母さん、父さん、おやすみなさい」
きっと心配しているであろう母親、きっと怒っているであろう父親を心の中に浮かべつつ、眠りに就きました。
翌朝、日の出と共に起きたカーターは、寝間着をリュックに入れ、昨日準備しておいた服を着て、防寒具などしっかりと確認して、部屋を出ました。
受付の所にいた宿屋の主人に声を掛けると、ズイッと両手サイズの紙袋を渡されました。
受け取ると、とてもずっしりとしていました。
「え?」
「弁当だ。腹減ったら食べな」
「え、でも、お金……」
「気にすんな。お前の願いが叶うことを祈ってるよ」
「っ、ありがとうございます!」
カーターは宿屋を出て街道に向かいました。
少し離れたところで振り返ると、宿屋の主人が外に見送りに出てきてくれていたので手を振りました。
遠くから「またこいよー!」と聞こえたので、更に大きく手を振り、「うん!」と返事をしました。
暫く道なりに歩いていると、街道から少し離れた場所に、大人が四人は余裕で座れそうな大きな切り株を見付けました。
切り株には、杖を持ったおじいさんが一人いました。
カーターはおじいさんに声を掛けてから、隣で休憩する事にしました。
お昼も近くなり、お腹が減ったので、宿屋の主人にもらったお弁当を食べることにしたのです。
紙袋を開けると、色とりどりのサンドイッチが四つ見えました。
一つは、たまごサラダのようです。もう一つは、昨日の鹿の煮込み肉をほぐしたものとスライストマトを挟んだもので、それらが二つずつ入っていました。
カーターが大きな口を開けてたまごサンドを頬張ろうとした時、隣に座っていたおじいさんのお腹がグキュルルと鳴りました。
「あぁ、すまないね。あんまり美味しそうな匂いなもんで、お腹が鳴ってしまったよ」
おじいさんが申し訳無さそうに、眉尻を下げて謝りました。
おじいさんは、次の街で何か食料を買う予定だ。と言いましたが、地図で確認すると、次の街まではカーターの足でも随分と時間が掛かりそうでした。
「おじいさん、半分こしよう?」
「いやいや、それはお主のお昼じゃろう。ちゃんと食べて体力を回復させないと駄目じゃぞ」
「これね、もらいものなんだ。思ったよりいっぱい入っててね、全部食べちゃったら、お腹いっぱいで眠くなりそうなんだ。だから、ちょっと減らすの手伝って?」
本当は腹八分目くらいの量でしたが、そう言っておじいさんにサンドイッチを渡しました。
おじいさんは頑なに断ろうとします。
「もう! 頑固! 父さんみたいに頑固!」
「なんじゃい。そんなに頑固な父親なのか?」
「うん、そうなん…………あっ、話そらそうとした! はい、食べて!」
「これはお主の昼飯じゃっ!」
「もーっ!」
あまりにも頑ななので、もういいかな、と諦めようかと思いましたが、もう一回だけ別の方向から攻めてみることにしました。
「もしね、もしだよ」
「む?」
「このまま次の街まで移動している途中で、お腹が減りすぎて倒れたり、獣に襲われて逃げなきゃなのに、力が出なかったりして、おじいさんに何かあったら、寝覚めが悪い! だから、食べて!」
「はっ! はははは!」
おじいさんが急に笑い出し、膝をバンバンと叩き始めました。
おじいさんは、きょとんとした顔のカーターの手からサンドイッチを奪うと、「そこまで言うのなら食べてやろう」と意地の悪そうな顔をして言いました。
「あはははは! うん!」
カーターは真夏の太陽のように笑いながら頷き、おじいさんと二人、とっても柔らかくて美味しいサンドイッチを食べました。
「じゃーねー! 気をつけてねー!」
「主もな」
「うん!」
カーターは少し休憩したあと、おじいさんに手を振りながら先に進みました。
おじいさんと笑いあって一緒にご飯を食べたからなのか、サンドイッチが栄養たっぷりだったせいなのか、何だか力が漲るようで、カーターの足取りはとても軽くなりました。
次話は本日16頃に投稿します。




