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2:俺は、絶対に!




 カーターは薬を握りしめ、家へと走りました。

 興奮し、慌て過ぎて、何度も何度も転んで、擦り傷だらけになりながらも走り続けました。

 薬師から聞いたことを早く両親に伝えたくて仕方がないのです。


 家に飛び込むと、父親はまだ狩りから帰っておらず、顔色の悪い母親がキッチンでご飯を作っているところでした。


「きゃぁ! カーター⁉ そんなに怪我だらけでどうしたの……」

「母さんっ! 体調悪いんだから寝てなよ!」

「ご飯を作るくらいなら大丈夫よ」


 真っ白な顔でそんなことを言われても、納得など出来ません。


「はい、薬。続きは俺が作るから。後はトマトを入れて煮込むだけ?」

「ええ、お願いね。でも先に怪我の手当しなさい。それから、ありがとう、カーター」


 そう言いながら母親はゴホゴホと、喉が詰まったような咳をしていました。

 こんな咳の時は、母親が風邪を引く前兆です。


 ――――もう! 本当は体調悪いくせにっ!




 父親が帰宅してから、カーターは薬師に聞いた湖の町の話をしました。

 どうやら両親とも、『星降り願う夜』のお祭りは知っていたようです。


「駄目だ」


 父親はがんとして『駄目だ』としか言いません。

 母親は、そんな危ない事はしないで、ここにいて。私は大丈夫よ。としか言いません。


「なんで⁉ 願いが叶うかもしれないんだよ? きついのも、苦しいのも、大変なのも、終わるかもしれないんだよ? なんで⁉ なんで駄目なの⁉ ねぇ、なんで⁉」


 ――――なんで、なんで、なんで⁉


 カーターは幼子がぐずるように、ずっと『なんで』を繰り返しました。それでも、父親はただ『駄目だ』としか言いませんでした。


「この話は終わりだ。明日も早い。もう寝ろ」

「…………はい」


 カーターは頬と目元を真っ赤にし、ベッドに潜り込みました。


 凄く良い案だと思ったのに。

 唯一の手段だと思ったのに。


 両親とも賛成してくれなかったことが、悔しくて、悲しくて、もうすぐ十五歳になるというのに、カーターは涙が止まりませんでした。

 反対されればされるほど、カーターはそれに反発するように、更に強く湖の町に行きたいと思うようになりました。




 『星降り願う夜』を知った翌日から、カーターはいつも以上に働きました。


 毎日の雑用で得たお金は、全て両親に渡しています。

 父親はその日の稼ぎの百分の一をカーターのお小遣いとして渡していました。

 いつもなら、その僅かなお金を数日分貯めて、お菓子を買って母親と一緒に食べたり、本やノートを買ったりしていましたが、カーターはそのお小遣いを一切使わず、貯めるようになりました。

 町での雑用の合間に旅商人達に話を聞くなどして、湖の町までの情報も集めました。


 両親はカーターが何かコソコソやっていることには気付いていましたが、思春期の男の子にあまり干渉するべきではないだろうと、見守ることにしていました。


 ――――俺は、絶対に!




 年の瀬が近くなったある日の深夜、両親が寝静まってからカーターはベッドを抜け出しました。

 音を立てないようにそうっとそうっと動き、今まで貯めたお金、着替え、旅に必要そうなものを、大きなリュックに詰め込みます。

 剣術の訓練の為にと父親がくれた短剣を腰に差し、リュックを背負い、そうっとそうっと家を出ました。


 カーターは家をじっと見つめ、眠る両親にとても小さな声で「いってきます」と伝えると、背を向けて歩き出しました。


『北の山を三つ越え、更に一日ほど歩くと、そこには大きな湖があり、その湖をぐるっと囲って町が作られている。

 その町は、湖の神様を(まつ)っており、年に一度とても大きなお祭りがある』


 父親から聞いていたその言葉と地図を頼りに、カーターは薄く積もった雪をシャリシャリと踏みしめながら、北の山に向かいました。




 一つ目の北の山はあまり高くない、小さな山です。


 雪もあまり積もらず、動物は熊などの大型のものはおらず、見かけるのは狐やうさぎくらい。

 ニ時間ほどで山越えが出来る、と町にいた旅商人に聞きました。

 地図も旅商人に格安で譲ってもらい、そこに必要な情報を書き込んでいました。


 一つ目の山はなだらかな道が多く、難なく越えることが出来ましたが、二つ目の山は途中から道が険しくなっている為、暗闇では移動が難しいと聞いています。

 カーターはとりあえず進める所まで進んで、日の出まで仮眠する事にしました。


 パチパチと爆ぜる焚き火を見ながら、朝起きた父親が怒っていないか、母親が泣いてはいないか、と心配になりました。

 でも、ここで引き返すわけにはいきません。

 今日はもう十二月二十八日、新年まであと三日しかないのです。

 これを逃せば、次のチャンスはまた一年後。そんなに長くは待てない、待ちたくない、と思いました。




 カーターは防寒具に包まり、木の幹に体を預けて少し仮眠をしたあと、日の出と同時に移動を始めました。

 二つ目の山は本当に厳しい道ばかりでした。

 急な斜面の山肌を階段のように掘ってある道や、ゴロゴロとした岩の隙間を縫うように作られた道、雪で埋もれた道、色々とありました。

 常に用心して歩く必要があり、普段よりも疲れるのが早く、三十分ほど歩いては五分の休憩をしました。


 遥か遠くに感じていた二つ目の山の終わりが近付いて来て、カーターは沸き立つ心が抑えられず、叫びはしなかったものの、雪を溶かせそうなほどの笑顔になりました。


 ――――母さん、まっててね!




 次話は本日14時頃に投稿します。

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