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「時計屋」

「時計屋」の老人

掲載日:2021/12/02


 町の外れにある坂の上。


雑草に埋もれた廃旅館に月の光が差し込んでいた。


夏の夜のぬるい風が吹き抜けていく。


 経済的に行き詰まっている現代では、こんな風に打ち捨てられた旅館は珍しくもない。


ただ、見晴らしの良い丘の上にあるこの建物は、明らかに異質だ。


化け物や幽霊を見たとか、果ては死人が出たとかの噂だけが飛び交っている。


近所の悪ガキやホームレスが入り込むには絶好の場所のように見えるが、実際には誰も入る勇気がない。


それほど異様な雰囲気のある建物だった。




 その旅館の一室、禿げた頭に古い袈裟けさ姿の老僧が朽ちた畳に座っていた。


「こんなところで何をしておるんじゃ」


「わかんない」


老人の前には、三歳くらいに見える幼女おさなごがぺたりと座り込んでいる。


「これ、なあに?」


二人の間には黄金に光る四角形の箱型の時計があった。


「時計じゃよ、知らぬか」


幼女は可愛らしい顔を上げて首を傾げ、その丸く青い瞳で僧侶を見る。


「そうか。これはな、ここに細い針というものがあるじゃろ?。


これがどこにあるかで今が何時なんどきか分かるのじゃ」


「ふうん」


幼女に理解は難しいのだろう。


ただ、そうっと小さな手を出しては引っ込めるを繰り返していた。




 時計の針は午前二時を指している。


そしてその時間はまったく動いていない。


「親はどうしたね」


幼女は首を横に振る。


「そうか、かわいそうにの」


よく見れば幼女の身体は汚れ、どこかにすがりついたのか、爪もいくつか剝がれていた。




「親のところへ戻してやろうかの」


老僧の言葉に幼女が俯いた顔を上げる。


「この時計をようく見ておれよ」


「うん」


カチリ


カチリ


老人の指が箱のつまみを動かし、ゆっくりと針を戻していく。


やがて、幼女は光に包まれた。




「おかあさん、おかあさん、おかあさん」


「どこ?、こわい、こわいこわい」


逆行のせいで記憶を呼び覚まされ、これまでの苦痛が幼女を襲う。


泣き叫ぶ幼女。


老僧はその様子をただ見ているしかなかった。


 やがて幼女は安らいだ顔になる。


「おかあさん、あったかい」


その丸い目に映る景色は、幼女を胸に抱く優しそうな青い瞳の女性の姿だった。




「ほれ、ここじゃな」


「ほい」


いつの間にか一人の少年が老人の後ろから姿を現していた。


幼女の目に映る景色を記憶する。


「ちゃんと届けるぜ」


渡されたピンクのリボンを手に、少年は姿を消した。


老僧はじゃらりと長い数珠を掻き鳴らし始める。


「さて悪霊ども、わしが相手じゃ」


これが二人組の祓い師『時計屋』である。



実はもう一作あったりします


「時計屋の少年」

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