第81話 アイデンティティの崩壊【side:ガイアック】
俺は家を飛び出し、ひたすら走っていた。
どこへ向かうかもわからない。
とにかく、わけがわからなかった……。
俺は親父の本当の息子じゃないだと……!?
そんなこと、今更聞かされて、どうしろというのだ!!
……っふ……どうりで……俺はでくのぼうなわけだ。
血がつながっていないのだから、俺に医術の才能などあるわけもなかったのだ。
大学には一応行ったが、正直なところ、授業内容はさっぱりだった。
それでもどうにかこうにか、コネの力もあって、卒業できたわけだが。
そのコネさえも、偽りのものだった……。俺には本来、なんの後ろ盾もないのだ。
俺の中のアイデンティティが、今まで信じていたものが、バラバラと崩れ去っていく。
俺にとって誇れるものなんて、家柄くらいしかないというのに……。
それだけを誇りに、それだけを誇示して、俺は好き勝手生きてきた。
それがどうだ? 現実は――。
俺は敵国の可哀そうな孤児で……。ここは故郷ですらない。
急にみじめに思えてきた……。俺には居場所がない……。
走りながら、どんどん涙があふれてきた。
ここは敵国で、人々は俺の国を攻撃した憎むべき相手。
急になにもかもが敵に見える。街行く人々や、文化そのものが。
それでも親父は、そんな俺を拾ってくれたんだな……。
そう考えると、あの人はますます偉大だ。
そして、俺はますますみじめだ。クソだ。
俺に人生を与えてくれた人――ガイディーン・シルバ。
そんな人を失望させて、俺は何をしている?
俺はこのままでいいのか? いや、いい訳がない。
絶対に、あの人を救うんだ!
「まっていてくれ……親父……!」
俺は涙を止めて、思考を巡らせる。
だが、実際のところどうする? 俺に親父が救えるのか?
すでに俺にやれるだけのことはやった。それに、俺の腕はもう使い物にならない。
こんな状態で、やれることがあるのだろうか?
手詰まりだ。ゲームオーバー。チェックメイトだ。
いや――。
ひとつだけ、方法があった。
だがそれは、俺が絶対に縋るまいと思った方法。
俺にとって、最も屈辱的な行為。
だが今更なにを惜しむ必要があるのだろう?
俺は既にさんざん屈辱的な思いをしたじゃないか。
それに後悔もたくさんした。
ギルドを失い、部下を失った。
職を失い、財産も失った。
信じていたアイデンティティも失った。
もう失うものはなにもない。
「だったら、やることは一つ、か……」
俺は決意した。
どんな方法を使っても、あの人を死なせはしまい、と。
あの人を、幸せにするんだと。
親孝行をしてみせるんだと。
こんな俺に、命を与えてくれた人。
なんの見返りもないのに、実の息子ではないのに、俺をここまで育ててくれた人。
親父に、恩を返すんだ。
それが、こんな最低な俺にもできる、唯一の善行なのかもしれない。
「とはいえ、やっぱり屈辱的だよな……クソにもほどがある……」
だが決めたのだ。やるしかない。
俺は目的の場所へと歩を進めた。
◆
ガイディーンを救うことを決意したガイアック。
だがその屈辱的なまでに抵抗のある行動とは!?
次回、ついにガイアックは……!
きりが悪いので次話なるべく早く投稿します
深夜12時台あたりに……




