第79話 ガイディーンの告白【side:ガイアック】
俺はあのヒナタ・ラリアークに命を救われた。
そのことは、俺にとって……命を奪われるより苦しい。
そのおかげで、無事に家に帰ることができたのだが……。
俺は家に帰り安心して、時間が経つにつれ、本当に助かってよかったと思ってしまった。
自分がこんなに生きたいと思っていたなんて……。
だからこそ、余計に屈辱的で腹が立つ。
俺が家に帰ると、親父が地べたに倒れていた……。
「お父様……!? どうしてこんな? 寝ていないと……!」
「おお、ガイアックか……。すまない。水を飲みに起き上がったら、ここでつまづいてしまってな……」
親父はひどく弱った声でそう言った。
クソ! 俺が迷子になったせいだ! 俺の帰りが遅かったから……。
それに、結局冒険者としての稼ぎももらえなかった……。
俺は何しに行ったんだ? 俺にはなにもできないのか?
「お父様、すみません。俺がふがいないばかりに……。今ベッドに運びますから……」
「苦労をかけるなガイアック……」
クソ! 苦労をかけたのは俺の方だ……。
俺がもっとしっかりしていれば……。俺がもっと早くに後悔していれば。
だが、かといって、俺に何ができるだろう?
俺は嫌われ者だ。それに、なにもできやしない。
片腕も失った……。親父は目もかすんできているので見えないだろうが……。
親父には腕のことは黙っておこう。いらぬ心配をかけるだけだ。
俺は片腕で器用に親父をベッドに寝かせる。そして水を持ってきてやる。
「おお、すまないガイアック……」
「いいんです。気にしないでください……」
このようすだと、親父はもう長くないだろう……。
助かってほしいが、俺にはどうすることもできない。そう、俺には。
「私はもう自分の死期が近いことを知っている。ガイアック、どうかお前には無理をせずに生きてほしい。私のことを重荷に思わないでくれ。どうかこの死にかけの老人のことなど放っておいて、お前の人生をやり直すんだ……」
っく……! 親父……。なんて人だ……。
自分が死にかけているのに、俺にそんな言葉を残すなんて……!
俺にはとてもマネできない。立派な人物だ。まるで、俺の父親だとは思えないほどに!
「お父様……俺は、ふがいない息子でした……。ですが、自分でもわからないのです……! あなたという立派な父がいながら、どうして俺はこんなにも不出来な息子なのか……! あなたの人生に汚点を作ってしまいました……」
「ふふ……そんなことない。お前は立派に息子として、私を支えてくれたよ。大事な一人息子だ。胸を張ってくれ。お前は正真正銘、このガイディーン・シルバの息子なのだから……」
俺は心からの思いを親父にぶつけた。これで後悔はない……。
せめて、死ぬ間際くらいは、立派な息子であろうと……そう思ったのだ。
俺だって、本当は自分が褒められた人間でないことは薄々わかってはいる。
だが、それをどう直したらいいのかわからないのだ。今更どうすればいい?
俺には正しい振舞い方というのがわからない。これが俺なのだ。
「最後に……どうしてもお前に伝えておかねばならないことがある……いいか?」
「そんな、最後だなんていわないでください……」
ここで、遺産の在処か? とか思ってしまうのが俺なのだ。
どうしようもない。俺は、生まれながらの悪人なのか?
いや、そんなはずはない。だって、俺の父親はこんなにも立派だ。
だとしたら母親はどんな人物だったのだろうか?
今までは、気になってもはぐらかされてきたが……。
そしてちょうど、親父の言葉でその疑問が晴れることになる――。
「ガイアックよ、お前は――」
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「――本当の息子ではないのだ」
「――え?」




