第74話 見捨てられた者と祝福される者【side:ガイアック】
俺は威風堂々と、後ろを振り返らずにダンジョンを奥へ奥へと進んでいく……。
首狩りのトモと、酒樽ゲインは臆病なようだな。
冒険者のくせに情けない奴らだ。
俺が先導してやらないとな!
――。
どうにもさっきから様子が変だ。
後ろを歩いているはずの、2人の気配を感じない。
「おい、首狩りのトモ、酒樽ゲイン……?」
俺は不安を感じながらも、ようやく後ろを振り返る。
――。
そこには誰もいなかった……。
「っち……迷子になりやがったな……? どこまでも足を引っ張るやつらだ」
◇
【side:ヒナタ】
目が覚めたとき、あれが夢だったらどうしようかと思った――。
でも夢じゃない。よかった。ヒナギクは元気なままだった!
「兄さん、大好きなのー!」
「はいはい、もう何度も聞いたよ。僕もヒナギクが大好きだよ!」
僕は頭を撫でる。さっきからずっとこの調子だ。離れてくれない。まあ嬉しいからいいんだけどね。
ヒナギクは以前のように、元気な甘えんぼさんに戻ったようだ。
さすがはエリクサーだ。どんな病気でも治せるという伝説は本当だったようだね。
ここまで長かった……だから本当に感慨深いよ。
でも……世界にはまだまだ病気の人がたくさんいる……。それこそ、ヒナギクと同じ症状の人たちも……。
根本的な解決になったわけじゃない。ヒナギクは元気になったけど、その原因はわからないんだ。
どんな病気なのかも、治し方も、原因も……。そんな人が、まだまだいる。
ヒナギクにも一度、僕の鑑定スキルを使ったことがあるけれど、重要な部分はなぜかわからなかった……。
エリクサーという万能の解決法はあるけれど、あれはもう二度と手に入らないかもしれない。
もともと存在すら怪しい幻の薬だったし、僕の活性スキルがなければ無理だった。
活性スキルは負担が大きいし、そう何度も試せるものじゃない。
ヒナギクの病気が再発しないとも限らないし……。根本的な解決策は今後、探っていく必要があるだろうね……。
まだヒナギクが完全に安全なわけではない。戦争のことも気になるし、僕がこれからも命がけで守らなくちゃ!
そんな決意を頭の中で考えながら、ヒナギクを撫でていると――。
「ヒナタくん、ヒナギクちゃん、そろそろいいですか?」
「ライラさん!」
なんだか久しぶりに会った気がする。そんなはずはないんだけど。
「兄妹水入らずのところを邪魔しては悪いからと、さっきまでみなさんで遠慮していましたのよ?」
「ヒナドリちゃん! ヒナドリちゃんも来てくれたんだね!」
ヒナドリちゃんが世界樹にいるとなんだか妙な感じだなぁ……。
「先輩、みんなでご飯を食べるっス! 今日はギルドをあげてのお祝いっスよ!」
「ええ!? ほんとに!? いいのかな……」
妹が元気になったというのは、僕の個人的なことなのに、それをギルドのみんなで祝ってくれるなんて……。嬉しいね。やっぱり、世界樹は世界一温かいギルドだ。
「ヒナタくん、ヒナギクちゃんやヒナドリちゃんをみんなに紹介してくださいね! 私にとってもお二人は義妹なんですから!」
「ライラさん……ありがとうございます!」
ライラさん、そんなふうに思ってくれるなんて嬉しいね。世界樹は家族みたいにあったかいギルドだもんね!
「さあ、食堂にいきますよ! みんな、準備を終えて待っています!」
「わぁーい! たっくさん食べるなのー!」
「あ、ちょっと、ヒナギク。まだ走っちゃだめだよ! ころんじゃうよ?」
まったく、そういえば以前のヒナギクはこんなにも元気いっぱいだったっけ……。
ヒナギクの口から沢山食べたいなんて聞ける日が来るなんてね……。
僕たちはヒナギクを追って、みんなでぞろぞろと食堂へと向かった。
◇
「ヒナギクちゃん、回復おめでとうー!!!!」
「わー! みなさん、ありがとうなのー!」
僕たちが席に着いた瞬間、ライラさんの合図で一斉におめでとうの雨が降り注いだ。
食堂は綺麗に飾りつけされていて、食事も豪華なものがテーブルに並んでいる。
いくつかのテーブルにわかれて座っているけど、どのテーブルも大きいから、みんなたっぷり食べられるね。
食堂にはギルドの主要メンバーがみんな揃っている。嬉しいね。
ミーナさん、ザコッグさん、キラさん、ヘルダーさんにメリダさん、ノルワイアさんまで。
シスターマリアも来てくれているみたいだね。もちろん勇者さんたちも。
僕の机には主にライラさん、ヒナギク、ヒナドリちゃん、ウィンディ、クリシャ、リリーさん、たちがいっしょに座っているよ。もちろん勇者さんたちも一緒だ。
「みなさん、僕たち兄妹のために、わざわざありがとうございます!」
「何を言ってるんですか、ヒナタくんの作ったギルドなんですから!」
「え? 僕が作った……?」
ライラさんは何を言ってるんだ? ここはライラさんのギルドなのに……。
「そうですよ? ここにいるみなさんは、ヒナタくんのことが大好きで、集まったみんななんです! ヒナタくんのやったことが、これだけ大勢の人々を感動させ、集めるに至ったんですよ?」
「ライラさん……みんな……」
「みんなヒナタくんにはたくさん助けられました。だからこそ、困っているヒナタくんになにもしてあげれなかったのが、もどかしかったんです。でもヒナタくんはそれでも自分の力で、妹さんまで救ってしまいました。だからヒナタくんは、ほんとうにすごいです!」
「そんな……みなさんには十分、僕は助けられています」
「みんな、ヒナギクちゃんが元気になることを望んでいました。そして、ヒナタくんが報われることを……。私たちにはお祝いすることくらいしかできませんが……、今日は楽しみましょう!」
うう……。みんな、そんな風に思ってくれてたなんて……。
みんなが僕に注目しているけど、僕は涙で見れないよ……。
こんなに大勢の人が、ヒナギクのことを思って……僕のことまで……。幸せだね。
「みなさん、本当にありがとう! そしてこれからも、よろしくお願いします!」
――カチーン!
僕のお礼の言葉とともに、みんなは一斉に乾杯をして、パーティが始まった。
◇
「も、もう食べられない……」
パーティは夜が更けるまで続いた。
沢山の人から個別にお祝いの言葉を頂いたし、本当にうれしかった。
あんまり褒められることには慣れていない僕だけど、今日ばかりは素直に、手放しで喜んでもいいのかなって思えた……!
ヒナギクとヒナドリちゃんも、みんなと仲良くなれたみたいでよかったしね。
2人とも、みんなに妹扱いされて、とってもかわいがられていたなぁ……。
一日で沢山お姉さんができたと、ヒナギクも喜んでいたしね。
ヒナギクはまだ疲れちゃうといけないから、ヒナドリちゃんと先に家に帰ってもらったよ。
明日からも元気なヒナギクと一緒にいれるなんて、僕は幸せだなぁ。今でも信じられない。
僕が満腹感と充実感に浸っていると……。
突如パーティに闖入者が現れた――。
「大変だ! 助けてくれ! ヒナタさん!」