第71話 危険なチート
僕はひょんなことから新しいスキル――活性を使えるようになったわけだけど……。
このスキルにはまだまだ謎が多い。
これから実験していく必要があるね。
リリーさんのことは心配だけど……また後日尋ねてみよう……。
とりあえず今は他の方法で実験を続けよう。
僕はそれにうってつけの場所を知っている。
「やあウィンディ! 元気かな」
「先輩!? また会いに来てくれたんスか!? うれしいっス!」
「あはは……昨日会ったばかりじゃないか……」
「それでもうれしいっス! 先輩と過ごせて! いつもライラさんにとられっぱなしですから……」
ライラさん……? たしかにライラさんと一緒に居ることは多いけど……。
まあいいか。僕は実験のために、ポーション部へやってきたよ。
ここならいろんなポーションが置いてあって、実験に必要な素材には事欠かない。
ウィンディにも協力してもらえるしね。
「今日はただ会いに来たんじゃないんだ。実験をするよ……!」
「実験っスか? 自分、なんだかワクワクしてきたっス!」
ウィンディは好奇心に目を輝かせている。
「じゃあまずは普通の下級回復ポーションを活性化させてみようか……」
「活性化っスか……? いったいどうなってしまうんスか……? ワクワク」
僕は適当にその辺にあった下級回復ポーションを手に取り、机の真ん中に置く。
そして手に力を込め――。
――活性!
すると下級回復ポーションは中級回復ポーションへと変化した……。
………………って、ええええええええええええ!?
「こ、これ……ダメなやつじゃ…………?」
「ど、どうなってるんスか先輩!? これヤバいっスよ!」
ウィンディも目を丸くして驚いている……。
そりゃあそうだよね……。こんな能力、チート過ぎる……。
「こ、このことは誰にも言わないで……ね?」
「と、当然っスよ! 墓場まで持っていくっス……」
これはとんでもない秘密を共有してしまったのかもしれない……。
見られたのがウィンディでよかった……。
もしこのことが知れたら……とんでもないことになる……!
無条件で下級回復ポーションを中級回復ポーションに変えてしまえるチートなんて……。
市場価格を破壊しかねない。
いや、それどころか、世界情勢にすら影響を及ぼすかもしれない……。
どんだけ恐ろしいんだ黒龍のペンダント……。
さすが伝説の暗黒邪龍のレア素材。
「な、なるべくこの能力は使わないようにしよう……」
「そ、そうっスね……。それがいいっス……。で、でも……あともう一回!」
「ええ!?」
ウィンディの目はなおも好奇心で満ち満ちている。
あ、これはギャンブラーの目だ……。
あるいはマッドな研究に手を染める医者の目……。
とにかくどこまでやれるか試してみたいっていう、そういう目だ。
「よ、よし……どこまでできるかやってみよう……!」
「そ、そうっスね! 限界を知っておくことは大事っス!」
僕もあくまで実験のためだと自分に言い聞かす。
今度は中級回復ポーションをその場に置いて……。
――活性!!
本日2回目の活性だ。
そこで僕の意識は途切れた……。
「あ……」
なんだか前にもこんなことがあったような……?
◇
「先輩! 大丈夫っスか!?」
「うーん……ウィンディ?」
何度目かの呼びかけで、僕はようやく目を覚まし、起き上がれる。
どうやらずっとウィンディが看病してくれていたみたいだね。
ひざ枕されていたようだけど……。すこし恥ずかしい。
ウィンディはいつもショートパンツで足を露出しているから……意識してしまう。
まだ顔にふともものぬくもりが残っている気がする。
だめだ! 意識しちゃいけない! こんなこと考えてる場合じゃない!
僕は顔をブンブンと横に振って、もう一度目を覚ます。
「ど、どうなったんだ!?」
「先輩……あれからしばらく寝ていたっス……。どうやら、活性のスキルはかなり体力を奪われるみたいっスね……」
「そういうことみたいだね……」
あれだけの効果があるスキルだ。なにか副作用がないほうがどうかしている。
それにしても、こんなスキルは聞いたことがない……。
副作用の強さからして、禁術の類かなんかじゃないだろうな……?
もしそうだったらますます人には言えないな……。
「そうだ! それで……さっきの中級回復ポーションはどうなったかな?」
「これっス……!」
ウィンディが手に持っていたのは――。
「――上級回復ポーション!?」
どうやらこのスキルには、限界というものがないらしい。




