第70話 スキルブースト!!
僕はリリーさん協力のもと、黒龍のレア素材を加工することになったよ。
「黒龍の皇玉をアイテム化するにあたって、もう一つ素材が必要だ」
「はいリリーさん。でも、そんな素材持っていませんよ……?」
たしかに一つの素材で錬金できるわけないもんね……。
「大丈夫だ! これは私からのプレゼントということで!」
「ええ!? そんな!? いいんですか……?」
リリーさん、いくらなんでも優しすぎるよ……!
「た、大切な女性を守りたいのだろう? だったら、これは私が出すのが当然だろう?」
「そ、そうですか……? まあ、ありがたくいただいておきます……」
なんだかリリーさんの理屈はよくわからないけど……。
とにかくこれでなんとかなりそうだ!
「その素材というのがこれだ……」
リリーさんはそう言うと、なにやら別の宝石のような物体を取り出した。
黒い本体の中に、溶岩のように赤い部分がきらめいている。
「こ、これは……!?」
「これはグラングラン鉱石と言って、火山なんかで手に入る素材だ。これと錬金して加工すれば、ちゃんと効力を発揮するアイテムにできるだろう……」
「そうなんですか! やっぱり、リリーさんを頼ってよかったです!」
僕は思わずリリーさんの手を握りしめる。
「そ、そんな! た、頼りがいのある女性だなんて……照れるじゃないか……。そんなことを言われたのは初めてだ……」
「ええ!? リリーさんのような人なら、絶対にみんなそう思ってますよ!」
これはお世辞でもなんでもない。
リリーさんは本当に、みんなに優しくて頼りがいのある人物なのだ!
「そ、そうか? でも、私は……ヒナタくんからそう言われるのが一番だよ……」
「そうですか? なら、よかったです」
なんだかそんなことを言われると、僕も照れちゃうなぁ……。
まあリリーさんも僕を信頼してくれているのかな? うれしいね!
「それではさっそく、錬金をしてみてくれ」
「いきなりですか!? 緊張するなぁ……」
「大丈夫だ。ヒナタくんならできるはずだよ」
そう言われると、なんだか大丈夫な気がしてきた!
僕は【黒龍の皇玉】と【グラングラン鉱石】を机に置いて――。
「うおおおおおおおおおお!!!!」
――錬金!!!!
すると、二つの石はみごとに変形し、一体化。
――しゅううううううううううううううううう!!!!
その場所からは、そんな音とともに焦げ臭い煙が立ち上る。
僕はまだほのかに温かいそれを片手で宙にかかげ。
「で、できた……! これが――」
「そう、これが――」
――黒龍のペンダント。
真っ黒な、高級感のあるアイテムだ……。
「これって……超レアアイテムですよね!?」
「そうだね。まず市場には出回らないクラスだろうね……」
そんなものを生み出してしまうなんて……。
錬金術ってすごいんだなぁ……。
僕はそれをさっそくスキルで鑑定してみる。
●黒龍のペンダント
装備したものの潜在能力を最大限引き出す。
具体的には、スキルの進化や制限の解除など。
本来そのものがもつ力をすべて解放する。
「す、すごいことが書かれている……!?」
「さっそく装備してみるかい?」
「そ、そうですね……」
僕は黒龍のペンダントを身に着ける。
なんだか不思議な気分だ。
ペンダントまでもが自分の身体の一部になったよう。
「なにか違いは……?」
「そうですね……これといって特には……」
まだ効果のすごさがわからないな……。
そうだ! 自分を鑑定で見て、スキルを確かめてみよう。
――万能鑑定!!
●ヒナタ・ラリアーク
□スキル一覧
・活性 【素材活性から進化】
・錬金 【薬品調合から進化】
・万能鑑定 【素材鑑定から進化】
・火炎小球 【万能鑑定により会得】
・魔法手術 【万能鑑定により会得】
・×範囲回復魔法 【万能鑑定により会得】
これは……。
素材活性が活性になっている!?
この活性っていうのはどういう能力何だろうか……?
詳しく説明を見てみよう……。
●活性
あらゆるものを活性化する。
それは物でも人でも、スキルでも……。
感情でも……。
ただし効果の継続に期限あり。
なんだこのざっくりとした説明は……。
とにかく使ってみないとわからない感じだなこれは……。
「どうしたんだヒナタくん……?」
「それが……活性っていう、新しいスキルが使えるようになったみたいなんですが……」
「おお! それはすごい! さっそく使ってみようじゃないか!」
「それはそうなんですけど……」
一体なにを活性化させよう、というのが悩みどころだ。
もし活性化した結果、危険なことになったらと思うと……。
「どうしたんだ?」
「何を活性化させるべきか……悩んでいるんです。物か、人か……」
「なんだそんなことか。なら私をつかえばいい!」
「え!? リリーさんを!?」
まさかリリーさんがそんなことを言いだすなんて思っても見なかった。
リリーさんはそれでいいのだろうか?
「でもそんな実験台みたいなこと……頼めませんよ」
「私が立候補しているのだ! いいからやれ! 私もヒナタくんの力になりたいんだ! お願いだ!」
「そ、そこまでいうなら……」
リリーさんがせっかく言ってくれてるんだ。
それに、悪い方に活性化することはまずないだろうしね。
「では、いきますよ……」
僕はリリーさんに焦点を合わせる。
――【活性】!!!!
「うわっ!」
リリーさんの身体がピカッと一瞬光った。
――しゅううううううううう。
軽く埃が舞ったあと、リリーさんが煙の中から現れた。
「ど、どうですか? リリーさん……?」
僕は恐る恐る、その顔をのぞく。
「ひ、ヒナタくん……」
「?」
リリーさんの顔は真っ赤に染めあがって、熱を帯びていた。
しかももじもじと体をくねらせて、恥ずかしそうにしている……。
どういうことだろう?
「大丈夫ですか……?」
「あの、その……あ、あまり見ないでくれ……」
「ご、ごめんなさい……!」
いったいリリーさんのなにが活性化されたんだろう?
能力? 感情? 見た目? わからない……。
特に変わりはないみたいだから……感情の活性化かな?
でも、だとしたら、一体どんな感情?
「あの、リリーさ……」
そこまで言ったところで、リリーさんは耐えきれなくなったとばかりに口を開いた。
「ひ、ヒナタくん! 実験はおしまいだ! もう出ていってくれ! 私を一人にしてくれ!」
「ええ!? で、でもまだ……」
リリーさんは急に豹変して、僕を部屋の外へ追い出そうとする。
何が起こっているんだ!?
「いいからはやく! このままだとおかしくなりそうだ!」
「ええ!? 大丈夫なんですかそれは……!」
ただごとじゃない雰囲気に、僕はとりあえず言われるままに外に出る。
扉を挟んでなら話せるかな?
「だ、大丈夫だから……。しばらくすれば落ち着くはずだ。だがとにかくヒナタくんがそこにいると、落ち着くものも落ち着かない! 今日は帰ってくれないか……?」
「え、ええ!? わ、わかりました……。あのーいろいろとありがとうございました!」
それだけ言って、僕は錬金術部門を後にした。
リリーさんのあれは……なんだったんだろう? 疑問だ……。
このスキルはまだまだ実験する必要があるな……!
◇
【side:リリー】
「はぁ……はぁ……」
ヒナタくんはようやく帰ったか……。
私は気が抜けてしまって、その場に座り込む。
腰が抜けていて立てない……。
「まさか私がこんな醜態をさらすなんて……」
ヒナタくんの前で……恥ずかしい……!
ヒナタくんはこの現象に気づいてないよな?
私の活性化されたものが……感情だったということに。
そしてその感情というのが……。
【私がヒナタくんを思う気持ち】だということに!
彼は私をいともたやすく惚れさせておきながら……さらにそこにスキルで火をつけるなんて!
恐ろしい男だ……!
ヒナタ・ラリアーク……また来ないかなぁ……。




