表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/130

第6話 ポーションの監修をしてみよう


 さっそく今日から本格的な仕事だ。


 僕は早めにギルドへ行った。


「ヒナタくん、ちょっといいですか?」


「はい」


 ライラさんは真剣な顔でやってきた。


 なんだろう。


「こんどうちで、オリジナルブランドのポーションを作りたいんですが……その監修をお願いできませんか?」


「ポーションの監修……ですか」


 入ったばかりの僕に、責任重大な仕事だな。


 期待してくれてるってことなのかな。


「もちろん、僕でいいんでしたら……なんでもやりますよ?」


「よかった。じゃあお願いしますね」


 僕はライラさんから書類を受け取る。


 細かい説明なんかが書かれている。


 えーっと……ふむふむ。


「素材の予算はこれくらいで……このくらいの本数を用意したいんですけど……。大丈夫そうですか?」


「え!? これが予算ですか!?」


「あ、やっぱり……足りないですか?」


「違います違います! 逆ですよ。こんなに予算をいただいて、いいんですか!?」


「ええもちろん。ポーションは主力商品になりえる、重要なアイテムですから。それに、ヒナタくんの作るポーションに、私も興味があります」


「そうですか……。まあこれだけ予算をもらえれば、きっとご期待にそえると思いますよ!」


 僕は一人、倉庫に入る。


 オリジナルのポーションかぁ……。


 やっぱり普通のものを作ってもなぁ。


 なにか差別化が必要だね。


 普通の市販のポーションとは違うものができればいいんだけど。


 医術ギルドにいたときは、麻酔ポーションや解毒ポーション……。


 それから、魔法手術用の補助ポーションばっかりだったからなぁ。


 パッケージ品をデザインするのは、僕もこれが初めてだ。


「まずはベースとなる、普通のポーションから作ろうか」


 薬草(D)とスライムコア(C)を用意する。


 もちろん素材活性(マテリアルブースト)で活性化させた素材だ。


 予算や市場の需要を考えると、これが適切な状態だろうね。



 ――【薬品調合(ポーションクリエイト)



 下級回復ポーション(C)の完成だ。


 これをベースにしていくよ。


 次に、クモの目(C)と魔女ニンジン(B)を用意。



 ――【薬品調合(ポーションクリエイト)



 完成したのは、下級魔力ポーション(B)だ。


 飲むと魔力を回復してくれる。


 さあ、下級回復ポーション(C)と下級魔力ポーション(B)ができたね。


 これを混ぜてみよう。


「上手くいくといいけど……」


 ポーション同士を混ぜるのは、スキルを使わない。


 と、いうより僕のスキルではできないだけだけど……。


 ポーション調合は、スキルで時短もできるし、手作業でもできる。


 だからまあ……。


 そのせいで僕は。


 だれでも混ぜれる!


 ……って言われて、解雇されたわけだけど……。


「よし、これくらいかな……?」


 僕は火にかけてたポーションを、持ち上げる。


 この火加減が難しい。


 あまりやりすぎると、焦げてしまって台無しだ。


 でも実は、こういうのは得意なんだよね、僕。


 妹のために異国から取り寄せた、古今東西(ここんとうざい)のいろんなお茶や薬品を(せん)じてきたから。


 まあどれもそれほど効果はなかったんだけれど……。


 というわけで――


 ――『下級()回復ポーション(B)』の完成だ!


 僕は一人ガッツポーズを決める。


 まあこれだけだと、まだ物足りないんだけど。


「へぇ……上手なもんですねぇ」


「うゎあ! っと……」


 振り向くと、ライラさんがいた。


 見られていたなんて、恥ずかしい。


「い、いつからいたんですか!?」


「うふふ、秘密です」


「どうかしたんですか?」


「いえ、ただヒナタくんがどうしてるかなって、思っただけですよ」


 ライラさんはそれだけ言うと、また忙しそうに消えていった。


 なんだったんだ……。


 でも本当にそれだけなのかな?


 まさかな……。


 ライラさんは忙しんだし、わざわざ僕を気にかけたりはしないだろう。


 顔を見に来ただけというのは方便で……。


 本当はちゃんと仕事してるのか見に来たに違いない!


 あくまで僕は新人だからね。


 頑張らないと!


「そういえば……、ポーションって、冒険者の人たちが買うんだよね……」


 僕はあることに気づく。


 いままでは医術ギルドにいたせいで、あたりまえのことに気づいてなかった。


 市販のポーションを使うのは、医師ではなく、冒険者(・・・)なんだ。


「冒険者ってことは、戦いの最中にも、飲んだりするわけだ」


 僕の脳にアイデアが降り注ぐ!


「じゃあ、飲みやすいほうがいいよな……」


 僕は、その辺にあった『スポンジプラム』の箱を開ける。


 スポンジのように水を吸いやすい、ふしぎな果物だ。


「これを、ちょうどいい大きさに切って……と」


 切り分けたスポンジプラムに、さっきのポーションをしみこませる。


 これなら、でかいポーションの入れ物を持ち歩かなくてもいい。


 片手で好きな時に取り出して、おやつ感覚で食べられるだろう。


「これはけっこう……いいんじゃないか……?」


 戦闘中の栄養補給もできて、おいしいなんて!


 下級のポーションには、痛み止めの効果や止血作用もあるから、バカ売れ間違いなしだ!


「さっそく誰かに試食してもらおう」


 僕は手ごろな人を探した。


 あ、ちょうど重い荷物を運んでいる、お兄さんがいるね。


 商品搬入(はんにゅう)のかかりの人だ。


 肉体労働で疲れているはずだから、きっと喜んでもらえるだろう。


「あのーもしよろければ、食べてみてください。新しいポーションです」


 僕は一つ手渡す。


「お、なんだこれ、美味そうじゃん! ……って新種のポーションだって!? どう見ても、ポーションなんかには見えないけどなぁ……?」


 ――パク。


「うおおおおお!? なんか身体の痛みがひいていくぞ!? さっきまで筋肉痛でつらかったのに……!」


 よし!


 ちゃんとポーションとしても機能しているね。


「それに味もうまい! ほんのりビターで、それがスポンジ食感と合わさって、何とも言えないハーモニーを作り出している!!!!」


 お兄さんが大きな声で叫ぶ!


「おいなんか美味そうだな? 俺にもくれよ!」


「いいですよ」


「あ、ずるい! 俺も俺も!」


「はいどうぞ!」


 周りにいた他の人たちも、作業をとめてやってくる。


 これは売り上げも期待できそうだね!


「おい、これはいつから買えるんだ!? 仕事中にこれがあれば、疲れもふっとぶぜ!?」


「ああ、売りだしたらすぐに教えてくれよな!」


「絶対に買うぜ!」


 みなさんいい人だ。


 僕は彼らの名前をきいて、またお知らせすると約束をした。


 さっそくライラさんにも見てもらおう。


「え……これをあの予算でできるのですか?」


「なにか問題があったでしょうか……?」


 ライラさんが困惑している。


 僕は恐る恐る聞いた。


「いや違う、逆です! こんなに安くていいのですか? だって、ポーションっていったら……そこそこ値が張るものですよ?」


「まあそこは僕のスキルで浮いた分もありますし……。それに、スポンジプラムにちょっとずつしみ込ませてあるので、それほどポーションの成分は多くありません」


「だとしても、コレは異常ですよ!? 革命的なお値段で提供できてしまうじゃないですか!」


「まさにそこがポイントです! 冒険者だけでなく、肉体労働者のためのオヤツにもなるでしょうね」


「ちょっと待ってください。ポーションを果実にしみ込ませてあるのでしたよね? それでしたら、ポーションの効果が薄くなったりしないのですか?」


「スポンジプラムにはもともと、滋養強壮(じようきょうそう)効果もあるので、そこは問題になりません。それに、しみ込んだポーションを、ゆっくり噛みながら摂取(せっしゅ)することになるので、十分な効果が期待できますよ!」


「へぇ、そうなんですね! ヒナタくんと話すと、勉強になります」


「いえいえ、そんなことないですよ」


「私も食べてみていいですか?」


「ええ、ぜひどうぞ」


「うん、おいっしいですねぇ!」


「……では……これで大丈夫ですか?」


「もちろんです! さっそく売り出しましょう」


「よかったぁ」





 そしてのちに莫大な利益をもたらすことになるそのポーションは――


 ――ギルド名にちなんで『世界樹(ユグドラシル)の果実』と名付けられた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] すごい! 予算や値段が気になるけれど商品名のセンスもとても良いな いきなりボーナス級の商品開発とはヒナタすごいな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ