第43話 最後通告【side:ガイアック】
「なんでまた俺が協会に呼び出されるんだ?」
俺は届いた書類を前に、あっけにとられる。
そういえば前にもこんなことがあったな。
「さあ、こないだの爆発テロの件についてではないですか?」
キラが俺に考察を投げる。
鋭い目の付け所だ。
俺の部下は順調に成長しているようだな。
「そうか、そういうことか。俺たちを表彰しようということか! それなら納得だ」
「なんといっても、あの惨状をくぐりぬけたんですからね!」
「そうだな! 思ったよりも患者を救えたからな。我ながら誇らしいぜ」
「さすがはガイアックギルド長ですよ!」
以前は協会に怒られたこともあったが、今回は大丈夫だろう。
俺はなにも悪いことはしてないのだし。
「さあて、それじゃあ英雄の凱旋といくか!」
俺は意気揚々とギルドを飛び出した。
◇
「会長がお待ちだ」
医術協会本部にて、俺は医術協会会長――ドレイン・ヴァン・コホックと面会をする。
「ガイアック・シルバくん。今日はなんで呼ばれたか、わかっているな?」
医術協会長のおっさんが、俺にそんなことを言う。
偉そうに髭をたくわえた、白髪の老人。
前にも会ったことがあるが……。
こいつは俺をしかりつけた!
許せない相手だ。
俺はこいつに舐められている。
だがまあ、今日は大人しく表彰されてやろう……!
「ええ、もちろんです。私の働きぶりを見て、表彰をしたいということでしょう? それでしたらもちろん、喜んでお受けします!」
俺がそう言うと、協会長はおそろしく深いため息をついた。
「……?」
俺はわけがわからずに首をかしげる。
「まったく、呆れたヤツだな君は……。超ド級のバカだよ」
「はい? 今なんと?」
「報告書を読んだが……。君のギルドが救った人数を言ってみろ」
「……? 250人中15人ですが……?」
「まったく、君はすごいな……」
「……? そのすごいっていうのは、多すぎるって意味だよな?」
俺はなおもわけがわからない。
もったいつけやがって。
こういう老人はキライだ。
「馬鹿者! 少なすぎるという意味だ!」
「はい!?」
「他のギルドがどれだけ患者を救ったのかわかってるのか?」
「さあ……それは……。でもどうせ5人とかがせいぜいでしょう?」
俺でさえ15人しか救えなかったんだ……。
他の奴らになにができる?
「ザコッグの医術ギルドは80人も救ったぞ……?」
「なに!? あんな奴にそんなことが……!?」
「なんでも、いい商業ギルドと巡り会って、質のいいポーションに恵まれたそうだ」
「そんな……!? 商業ギルドだと!?」
「そうそう、商業ギルドといえば……。世界樹というギルドを知っているか?」
「世界樹……? そういえば聞いたことが……」
世界樹……思い出せない。
聞き覚えはあるのだが、俺は興味のないことは忘れやすいのだ。
医術ギルドならともかく、商業ギルドなんて覚えてるはずがない。
「今回の爆発テロで、もっとも貢献したのがその世界樹ギルドだ」
「は!? 商業ギルドが!?」
「そうだ。お前たちは医術ギルドのくせに、商業ギルドに負けたんだ。恥を知れ」
「……っく……! なんでそんなこと……!」
「それはお前が未熟だからだ……!」
「俺が未熟……?」
そんなことを言われたのは初めてだ。
だけど、商業ギルドなんかが本当に人を救えるのか?
なにかずるをしたんじゃないのか?
「信じられません! 俺たち誇り高き医術ギルドが、商業ギルドなんかに後れを取るなんて!」
「ああ、まったくだ。私も信じたくないよ。これは協会としても受け入れがたい事実だ」
「詳しく教えてください!」
「なんでも、例の商業ギルドには、とっても優秀なポーション師がいるそうだ」
「ポーション師……!?」
またポーション師か。
なんで俺の前にはいつもポーション師なんてゴミが立ちふさがるんだ?
なにかの呪いか?
俺がポーション師に何をしたって言うんだ?
「そのポーション師は君も知っている人物だと思うがね……」
「ま、まさか……!」
「そう、その通りだ……」
世界樹――どおりで聞いたことがあったはずだ。
そうか、あいつのギルドだったのか……!
くそう、忌々しい。
――ヒナタ・ラリアークめ!!!!
「君は惜しいことをしたな……。あんな腕のいいポーション師をなんでクビになんかしたんだ?」
「う、それは……」
「まあ今更後悔しても遅いがな」
「あれはアイツが悪いんです。アイツが実力を隠して、俺の足を引っ張っていたんだ……!」
「さあ、足を引っ張っていたのはどっちかな……?」
「っく……」
後悔してももう遅い……か……。
たしかに、俺の判断は間違っていたかもしれない。
だけど、他にどうしようもなかったじゃないか……!
「ガイアックくん。最後に、もう一度だけチャンスを与えよう」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、ただし……ギルド再開にあたって、こちらで用意した監視役をつけさせてもらうよ? それで結果が出せなければ……今度こそ君のギルドは取り潰しだ」
「は、はい……わかりました……。頑張ります!」
「よろしい。君の父は優秀だったからな。期待しているぞ。きっと君にもできるはずだ」
「ありがとうございます」
俺はとりあえずその場はにこにこしてごまかした。
ふん、監視役だと……!?
俺も舐められたものだな。
あんなジジイ、とっととくたばればいいのだ。
そしていずれはおれが協会の会長に上り詰めてやる!
監視役なんかの好きにはさせない!
まあせいぜいいたぶって、ギルドに居られないようにしてやるさ……。
◆
ガイアックは、ちっとも反省をしないのであった……。
そんな彼が今後どうなっていくのか。
それはもちろん――――。




