第3話 ギルド長はポーションの管理がわからない【side:ガイアック】
俺はガイアック・シルバ。
エリートばかりが集まる、医術ギルドのギルド長だ。
昨日は無能のポーション師をクビにしてやった。
いい気分だ。
「すみません、ギルド長! 麻酔ポーションの場所がわかりません」
「は? そんなのそのへんの棚にあるだろ。そんなこともわからないのかゴミめ」
まったく、せっかく無能を追い出したのに。
どいつもこいつも使えないゴミだな。
たしかこの男はキラとかいったか。
俺は忙しいから、男の名前なんかいちいち覚えてられない。
「この棚ですか? ですが自分には、どれが麻酔ポーションで、どれが解毒ポーションかわかりません……」
「それくらい大学でも習うだろバカが。お前もクビにされたいのか?」
「そんなの覚えてませんよ。自分は魔術医師なので、ポーション関係のことは……」
「……っち。仕方ないな。おい、誰かポーションを見分けられるヤツはいないのか?」
「全部ポーション師に任せてたので誰もわかりませんよ。ギルド長はどうなんですか?」
「は? 俺が知るわけないだろ。なんで医師がポーションなんか管理しなきゃいけない」
結局、キラにポーションを飲ませてみることにした。
飲んで寝れば、それは麻酔ポーションだ。
寝なければ、解毒ポーションということになる。
「……っち。こいつはもう寝たから使い物にならないな。無能め」
バカどものせいで今日は忙しくなりそうだ。
「ギルド長! 急患です!」
看護師が大あわてでやってきた。
さっそく俺の腕の見せどころだ。
「おい、なにがあったんだ!?」
大けがをした人がたくさん運ばれてきて、俺は大声をあげた。
「どうやら爆発テロのようです。最近、なにかとぶっそうですから……」
「おい、ポーションを大量に持ってこい。時間との勝負だぞ! 急げ!」
俺は看護師たちに的確に指示をする。
難しい手術が続きそうだが、俺の医術魔法を使えばどうってことないだろう。
「ふう……なんとか乗り切ったな……」
俺たちは素早い対応で、多くのけが人を救った。
「さすが、ギルド長です」
「まあな……」
安心したのも束の間……。
「ギルド長! 大変です! ジールコニア子爵さまが刺されたとのことです! 運ばれてきます」
「なに!? 子爵さまだと!?」
爆発テロだけでも大事件なのに……。
子爵階級の人間が刺されるなんて。
これは戦争になるかもしれないな。
無能を追い出してこれからってときに……。
だがここで子爵を救えば、恩を売ることができるかもしれない。
俺は案外ついてるのかもな。
「よし、俺に任せておけ。必ず救ってみせる。お前たちはポーションを用意しろ。大量にな……」
またしても、俺はさっそうと指示をだす。
「ギルド長……それが……。さっき使ったポーションで最後です……」
「なに!?」
たしかに、今日はかなりのポーションを使ったからな……仕方ない。
医術魔法だけじゃなく、ポーションも使わないとキズは完全にはふさがらない。
「だったら、急いで倉庫に取りに行ってこい!」
「はい!」
とりあえずポーションが届くまでは、医術魔法で乗り切るしかない。
止血だけでもして、なんとか時間を稼ごう。
「ギルド長! 大変です!」
「おい、今度はなんだ!?」
「倉庫のカギが開きません!」
「バカな!」
きっとあのポーション師が、カギを返し忘れたに違いない。
最後まで足を引っ張ってくるヤツだな……。
「急いであのポーション師を探せ! そして連れてくるんだ! ポーションを持ってこさせろ」
「わかりました!」
部下たちは急いでギルドを出ていった。
俺はとにかく場を繋ぐ。
ポーション師を探しに行った、レナという女は優秀だからな。
彼女がきっと、見つけてきてくれるだろう。
「おい、このギルドはどうなっているんだ! はやく子爵をお救いしろ」
ジールコニア子爵のお付きの者が、俺をせかす。
「すみません。いまやっています。もう少しです」
……っち。なんで俺が怒られなきゃならない!?
◇
【side:ヒナタ】
僕とライラさんは、医術ギルドにやってきたよ。
気が乗らないけど、患者さんを救うためだね。
「で、患者さんはどこにいるんですか……?」
「あちらに」
案内された部屋には、患者さん。
……とそれを救おうとするギルド長。
でもあれじゃダメだ。
ポーションがないから、キズがふさがりきらない。
「おう、遅かったな。無能は足もノロいようだな。さっさとポーションを置いて出ていけよ」
ギルド長は僕を見るなり、そう言った。
あいかわらず嫌な人だね。
「ちょっと! なんなんですかあの人」
「いいんです。ライラさん……でも、僕のために怒ってくれて、ありがとうございます」
「そんな……」
僕はライラさんから素材アイテムの入った袋を借りる。
緊急のことなので、ライラさんは気持ちよく貸してくれた。
薬草(D)と、スライムコア(C)を取り出して。
――【薬品調合】
下級回復ポーション(C)ができた。
「ヒナタくん、調合まで早いんですね……すごいです」
「ええまあ、医術の現場では、スピードが命ですからね」
同じようにして、麻酔ポーションと回復ポーションを次々に作っていく。
そしてそれを、看護師さんがギルド長へ手渡す。
「ダメです、ギルド長! キズがふさがりません!」
「くそ! なんでだ!?」
どうやら苦戦しているみたいだね。
ポーションを使うのが遅れたから、キズの治りが遅いんだ。
これは……なにか手を打たないとダメだね。
僕は自分のポケットから、生命樹の根(C)と、サンライト鉱石の粉末(B)を取り出した。
どちらもなかなか手に入らないレア素材だ。
「ヒナタくん、それは……?」
「僕の私物です。妹の病気の研究のために、集めているんですよ」
「そんな大事なものを、使ってしまっていいんですか?」
「ええ、いいんです。目の前で死にかけてる人を、見殺しにすることはできませんから」
生命樹の根(C)と、サンライト鉱石の粉末(B)を取り出して。
――【薬品調合】
上級回復ポーション(B)ができた。
「これを使ってください……!」
僕はポーションを看護師さんに渡した。
「これは……!」
ギルド長が上級回復ポーションを使うと、患者さんのキズはふさがった……みたいだね。
「やった! よかった……」
「安心しましたね。ヒナタくんのポーションのおかげですよ」
しばらくして、患者さんは意識を取り戻したようだ。
どうやら偉い貴族の人みたいだね。
助けられて本当によかった。
「君が……ここのギルド長かね?」
「ええそうです。私がギルド長のガイアック・シルバです。以後、お見知りおきを」
ギルド長がジールコニア子爵さんに挨拶しているね。
きっとギルド長はここで顔を覚えてもらって、子爵とコネを持とうとしているんだろう。
「ありがとう。本当に助かったよ。このギルドには感謝しかないな」
「お褒めの言葉、恐悦至極にございます。子爵さま」
ギルド長は、跪いてわざとらしく媚びを売っている。
「ヒナタ君……いいのですか? ギルド長さんに手柄を持っていかれてますけど?」
ライラさんが僕に耳打ちする。
「ははは……ポーション師は裏方ですからね……」
悔しいしムカつくところもあるけど、仕方がない。
ん?
子爵さまが、まじまじと僕のポーションを見つめているけど……。
なんだろうか。
「おや? この空ビンは……?」
「ああ、それはポーションのビンですね。クズのポーション師が作ったものです。ポーションを混ぜるしか能のない、本物のクズですよ」
失礼だな。
やっぱり僕はギルド長が嫌いだ。
「ほう……そうか……では私はそのクズに救われたということだな?」
「は?」
「君はギルド長のくせに何も知らないのだな……」
「ジールコニア子爵? 何をおっしゃっているのか……。私はこのギルドのすべてを知り尽くしていますよ?」
「これは上級回復ポーションだ」
「は? そんな! 上級回復ポーションなんてここにあるわけがないです」
ジールコニア子爵はお付きの者を呼び寄せた。
「おい、このギルド長は私を殺しかけたそうだな?」
「はい。彼はポーションを切らして、危うく子爵さまを死なせるところでした。あきらかに管理不良ですね。上級回復ポーションがなければ、助からなかったでしょう」
「……なっ!? あんたたちに何がわかるんです!」
「私は子爵だぞ? そのくらいの教養はあるに決まっている。それとも我々を愚弄するのか?」
「う……それは……」
なにやらギルド長は追い詰められているようだね。
さすがは子爵さまというべきか。
「ポーション師に礼が言いたい。おい、ギルド長。キサマはもういい。どこかへ行ってしまえ」
「……っく」
ガイアックギルド長は、文句をいいながら奥に引っ込んでいった。
そして僕は子爵さまに呼ばれ、あいさつをした。
「ポーション師のヒナタ・ラリアークです」
「君のおかげで助かったよ。優秀なポーション師だね。それにしても、上級回復ポーションなんて……よくとっさに用意できたものだ」
「たまたま僕が持っていたので……」
「なに!? 君の私物を使わせてしまったのか。それならなおのこと、礼をはずまねばな」
「いえそんな……」
「君をギルド長に推薦しておくよ。出世させてもらいなさい」
「いえ、僕はもうここの職員ではないんです」
「なに!? そうなのか」
僕は子爵さまにライラさんを紹介する。
「商業ギルド【世界樹】のギルド長――ライラ・レオンハートさんです。僕はこちらのライラさんのギルドで、お世話になることになったんです」
「ほう……そうか、【世界樹】だな。覚えておくとするよ。なにかあったときには、ぜひ利用させてもらおう」
「本当ですか!? ありがとうございます」
その後いくらかお礼のお金ももらえた。
なにかあったらジールコニア子爵の名前を出してもいいとも言われたよ。
なんだかすごいことになったね。
「すごいですヒナタくん! 子爵さまを助けたうえに、ギルドの宣伝までしてくださるなんて……! それに、もっと見返りを求めてもいいはずのところを……」
「少しでもライラさんにお返ししたくて、ギルドの名前を出した……それだけですよ。それに、お礼のために助けたわけではないですしね」
「私もいっしょです。お礼のためにヒナタくんをギルドに誘ったのではないですよ。ヒナタくんといっしょに仕事がしたいから、誘ったんです」
「ライラさん……。嬉しいです」
◇
【side:ガイアック】
くそっ!
なんであのポーション師の手柄になっているんだ?
そもそもアイツが倉庫のカギを返さなかったのが悪いんじゃないか。
それに、女連れでやってくるなんて。
どういうつもりだ?
ムカつく野郎だ。
「おい、ヒナタ。いい気になるなよ」
「はい?」
「元はと言えば、お前のせいだからな。お前のせいで子爵は死にかけたんだ。それを自分の手柄にしようとはとんでもないヤツだな。わかったら子爵にもらった金と、倉庫のカギを置いてさっさと出ていけ」
「それはできませんね。まあお金を置いていくのはできますけど……」
「は?」
なにを言ってやがるこいつは。
俺に追放されたせいで、気でも狂ったか?
「だって、倉庫にはそもそもカギがかかってないですからね……」
「は? バカなことを言うな」
俺は倉庫の前までやってきた。
「おい、開けてみろよ」
看護師に命令する。
「ダメですね」
ほら、開かない。
やっぱりコイツは噓つきだ。
「はぁ……だから、こうやるんですよっ……っと」
ポーション師がなにやら倉庫の扉をガチャガチャやると、なんと本当に開いてしまった。
「バカな……!」
「ここをこうやったら簡単に開きますよ? 初見だとたしかにわかりにくいかも……」
「そんなはずは……!」
「みなさんそれだけ倉庫に入ってなかったってことですか? 呆れた……なんで自分の職場の倉庫の開け方もしらないのか」
「おい、キサマさっきからナマイキだぞ」
「僕はもうこのギルドの人間じゃないですしね。むしろわざわざ呼ばれて、迷惑料をもらいたいくらいですよ?」
「うるさいお前がちゃんと今日使う分のポーションを外に出しとけ!」
「いやその作業をするまえにクビにしたのはだれなんですか」
「……っく」
「あんたらのその人任せなところが人を殺しかけたんだぞ? まあこれからはちゃんとしてくださいよっ」
ポーション師はそれだけ言うと、いっしょにいた女と共に、ギルドを出ていった。
追い出したのは俺のはずなのに、なんだか俺が突き放されたような気分だ。
面白くない。
不快だ。
まあそんなアイツの顔は、もう二度と見ないで済むがな。
それにしても……子爵のあのキズの形……。
敵国の暗殺部隊によるもので間違いないだろう。
大きな戦争にならないといいがな。
まあ、そうなったら俺の稼ぎが増えるだけだがな!
◆
ヒナタもガイアックも、このときはまだ知らない。
自分たちがその戦争によって、二つの道に別れることを。
一つは英雄の道、そしてもう一つは破滅の道……。
逃れられない運命の歯車が、今動き出した。
ガイアックざまぁ!と少しでも思った方はブックマークをしてぜひ続きもお読みいただけると嬉しいです!