第1話 医術ギルドを追放される
「おい、ヒナタ・ラリアーク。ポーションを混ぜているだけの、役立たずめ。お前はもういらないから今日でギルドを追放だ」
ガイアック・シルバ――ギルド長の言葉に、僕はびっくりした。
今まで怒られ、バカにされても、文句も言わず働いてきたのに!
このギルドには僕しかポーション師はいない。
ギルド長はポーション師を見下しているんだ。
だから大した予算ももらえずに、ポーションの素材も悪質なものばかり。
それでも僕のユニークスキルで、なんとか使えるポーションを作って来たつもりだった。
「どうしてですか!? 僕は3年もがんばって働いてきました!」
「俺がギルドを継いで今日で3年目だ。親父との約束で、3年間うまくやれたら、俺の好きにしていいと言われているのでな。だから今日からは正真正銘、俺様のギルドだ」
「僕はギルド長のお父さんから、あなたを助けてほしいと頼まれているんですよ?」
「は? 思いあがるなよ? お前がいなくても俺は何も問題はないんだが?」
僕は前のギルド長に雇われたんだけど、どうも今のギルド長はそれが気に入らないらしい。
父親に認められたくて必死なんだろうね。
僕への嫉妬で嫌がらせをしているんだ。
「そんなぁ……納得できません! 理由を教えてください!」
「まだわかんないの? 医術ギルドにはポーション師なんて底辺の人間はふさわしくないんだよ! 俺たち魔術医師は、ちゃんと大学で専門の教育を受けたエリートだ。それにくらべポーション師は、資格もいらないただのゴミだ」
他の医師たちも、ギルド長に同意する。
「そうだよ。ポーション師なんて、楽してるだけだろ」
「お前がいなくても、自分たちでポーションくらい混ぜれるよ」
「平民は自分に合った仕事をしろよ。まあお前にはなんにもできないかな?」
ひどい理由だな。
魔術医師は貴族しかなれない仕事だ。
だからポーション師より立場が上なのはわかるけど……。
家や学歴で差別して、僕の仕事をちゃんと見ようともしないなんて!
「不満そうだな? だがそれだけじゃないぞ?」
「え?」
「昨日お前が作ったポーションが原因で、患者が死んだ。これが証拠のビンだ」
「は?」
ギルド長は机の上に乱暴に、半分空になったポーションを置いた。
――ドン!
それは明らかにすり替えられたものだった。
「ありえない! これは僕の作ったポーションじゃありません!」
「うるさいそんなのどれも同じだろ」
「いくら僕でも、自分の作ったものを見間違えるわけがないです」
それに、どんなに質の悪いものでも、ポーションを飲んで死ぬなんて、そもそもありえない。
「嘘をつくなよ。ポーション師はお前だけしかいないんだから。お前が作ったに決まってるだろ?」
「さっきあなたたちだって、混ぜるだけなら誰でもできると言ってたじゃないですか!」
「は? 俺たちは暇じゃないんだから、わざわざそんなことするわけないだろ。さっきはお前がいなくなった後の話をしただけだ」
どうやら何を言っても無駄なようだね。
それにしても、そんなことをしてまで僕を追い出したいなんてね。
嫌われたものだ。
「裁判にかけてもいいところを、特別に追放で許してやるんだ感謝しろよ」
「っく……」
きっと裁判官も買収されているのだろうね。
それに貴族と平民じゃ、どうやったって僕が不利だ。
悔しいけど、あきらめるしかないか……?
「そういえば今日は……お前の病気の妹の誕生日だったよな?」
「え? はい、そうですけど……」
急にどうしたんだろう、ギルド長。
彼にも少しの優しさはあるのかもしれないな。
「ちょうどよかったじゃないか。お前の給料じゃ、どうせろくなプレゼントも買えないだろうし。いい土産話ができただろ」
ギルド長は笑ってそう言った。
他の医師たちも笑う。
ひどい……。
「あの、退職金とかは……?」
「ないぞ」
「他の仕事を紹介してもらえたりは……?」
「ないぞ」
そうか、本当にこの人たちは僕のことなんてどうでもいいんだな……。
僕は妹の病気を治すためにお金が必要なのに。
「もういいです。僕は冒険者にでもなりますよ」
「はぁ? バカじゃねえの?」
みんな僕の言葉にまた笑い出した。
なんでだ?
「いいか? お前はスキルも3つしか使えない、正真正銘のおちこぼれなんだ。いまどき10歳の子供でも、20こほどはスキルを使って戦うぞ?」
「それはそうですが……」
「それに、3つとも戦闘向きじゃないだろ。ご愁傷様だな、行くとこないだろ」
「っく……」
たしかに、僕のスキルは――
【薬品調合】
【素材活性】
【素材鑑定】
――と、どれもポーション師向けのスキル構成だ。
「ま、お前には才能がないんだよ。あきらめて妹といっしょに野垂れ死ね」
ギルド長は、じゃあなと乱暴にドアを閉め、僕を追い出した。
「はぁ……。妹になんて言えばいいんだ……」
◇
「ただいま……」
「あら、お帰りなさいませ。お兄様?」
出迎えてくれたのは従妹のヒナドリちゃん。
病気の妹のために、いろいろお世話をしてくれている。
とっても頼りになる、いい子だ。
「顔色が悪いですわね。どうかなさいましたの?」
「うん、ちょっとね……」
僕が今日のことを話すと、ヒナドリちゃんは笑って元気づけてくれた。
「大丈夫ですわ! わたくしがもっと頑張りますから」
彼女は妹の世話をしながらも、家でできる仕事で稼いでもいるよ。
具体的には、魔道具の簡単な修理や、薬草の仕分け作業などだね。
「ヒナドリちゃん……ゴメンね……」
「お兄様は今まで十分頑張ってくれましたわ!」
「ありがとう」
そう言ってもらえると、涙が出そうになるよ……。
僕らが話していると、隣の部屋から妹が起きてきた。
調子のいい日は、こうやって起きてきて話もできる。
「兄さん……?」
「ヒナギク……」
ヒナギク・ラリアーク――僕の最愛の妹だ。
どうやら話を聞かれてしまったみたいだね。
「不甲斐ない兄でごめんね。無能だって追い出されちゃったよ」
「兄さんは本当はすごいってしってます。それがちょっとわかってもらえないだけなの」
「ヒナギク……」
ヒナギクまで、嬉しいことを言ってくれるね。
彼女たちが居てくれるから、僕は頑張ってこれたんだ。
そしてこれからも頑張れそうだよ。
「私のために、いつもありがとうなの、兄さん」
「おっと……」
彼女はそう言って僕のヒザに座ってきた。
病気のせいか体重がまた軽くなった気がするね。
「あらあら、ヒナギクだけズルいですのよ!」
「えへへー。ヒナドリちゃんも後で座らせてもらえばいいなの」
可愛い妹たちに囲まれて、僕はなんとか立ち直れそうだよ。
明日から仕事を探さなきゃな。
絶対に妹の病気を治したいし、そのためにポーションをもっと研究したい!
それに合った仕事が見つかればいいんだけどね……。
◆
さてさて、愚かな嫉妬からポーションのすり替えまでして、ヒナタを追い出してしまったガイアック。
彼は差別意識から、ヒナタの仕事をちゃんと理解してもいなかった。
彼らはこの後、とんでもないことが起こるのを、まだ誰も知らないでいた……。
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